小さな若鶏
帰れと言われ慌てる枝野
「も、もうちょっとだけ!お願いします!」
「ハァー…まだあんのかいな…
ほんなら用事しながらやったら聞くわ…
ていうかこんな事は大学の先生か
親御さんに聞きいや、近所のオッサン臭い学生に聞かんと」
「す、すいません!おじさんて言った事は謝りますから!用事しながらでもお願いします現役の人に聞きたいんです!」
「わかったから声小さめにな…ほんならどうぞ」
そう言ってラップを取り出し
保温スイッチを切った炊飯器から出した
炊き込みご飯でおにぎりを作り始めるアタル
それを見ながら枝野は質問を続ける
「じ、じゃあ…あのどんな先生だったら嬉しいですか?学生として」
「どんな先生て…そら第一印象やったら
可愛い先生とか格好エエ先生ちゃうの?
普通はそうやろ」
(あー…こらひょっとしてヤバい質問か?…)
「そういう事じゃなくて!えーと…いい先生ってどういう先生だと思いますか?」
(やっぱりな…ハァーぁ…)
予想通りの質問に仕方なく答えるアタル
「ハァ…言うと思ったわ……その前に聞くわ
ネェちゃんは何で先生なろうと思ったんや?
学生の時に良い先生に当たって憧れたとかか?」
「えっ?…そうですけど…私は中学生だった時の担任の先生が凄い良い先生で私もこんな先生になりたいなぁって」
「ほんでその先生はやっぱり他の生徒からも
人気やったんか?」
「そうなんです!凄い熱心な先生で生徒だけじゃなくて親からも信頼されてて!」
(嫌な予感は当たるなぁ…)
「そうか ほんなら言うわ
俺の意見やけどな ネェちゃん……
…
先生向いてないと思うわ やめた方がエエんちゃうか?」
その言葉を聞き一瞬唖然とするが
納得のいかない様子で問い質す枝野
「ど、どうしてですか!?憧れて先生になったら駄目なんですか!?納得いきません!!」
「別に憧れたらアカン言うてんのと違うで?
それにその先生が悪い言うてる訳でもないわ…
ネェちゃんの場合あれやろ?
ただ特別な人間になりたいだけやろ?
そんなもんお姫様なりたい言うてんのと一緒やんけ
皆んなから好かれてチヤホヤされたいだけにしか聞こえんわ
皆んなから愛される特別な先生になりたい?
アホか…そんなもんなれるかい
その先生がどんな先生か知らんけど生徒全員から好かれる先生なんかおるかいな
人にはな合う合わんがあんねんで
どんな人間でも誰かからは嫌われてんねん
先生っちゅうのはな基本的な事をキッチリやってくれる普通の先生が1番なんやと俺は思うわ」
不貞腐れた様な顔で枝野が聞いた
「…普通の先生って何ですか…」
「勉強を教えてくれて
アカンことはちゃんとアカン理由が言えて
相談したら自分なりの答えを教えてくれて
変に突っ込んだ事をしない
凄い先生でも悪い先生でも無い
普通の先生や
ネェちゃんの学校にもおったやろ?
特に印象には残って無いやろうけど」
「いましたけど……でも…そんなの…」
それを聞き少しアタルの態度が変わる
「そんなん出来て当たり前か?
生徒からしたら実習生も先生も一緒やで?
いうたらプロとして見てんねん
そのプロに何で勉強せなアカンの?って
聞いて返って来た答えが行きたくも無い
エエ会社に入るためって…そらアカンやろ」
失敗を指摘され言葉が強くなる枝野
「じゃあどう答えたら良かったんですか!?
生徒に聞かれた時に!その時は知らなかったんですよ!」
「はぁ?さっき言うてたやん
俺が聞いた時に…自分は先生になりたかったから勉強したって
それとわからんていうのを足して答えたら
エエやんかそれがその時の自分なりの答えやろ?
自分は先生なりたかったから勉強したけど
目標の無い人は何で勉強せなアカンか考えた事無いからわかりません
でも考えてくるから少し待って下さい
これでエエやんか」
「…………」
「学校は普通の会社とか店とはちゃうねんで?
会社とか店やったら客は嫌やったら行かん様になるだけや
でも学校はちゃうやろ?
嫌でも行かなポイントが溜まらんねん
だから学校嫌いな奴が多いんや
イジメられた
嫌いな奴がおる
勉強がわからん
運動が出来ひん
色々理由があるやろ…その中に嫌いな先生がおるって言われたらどうする?
それが自分やったらどうする?
考えた事あるか?
さっきも言うたけど人には合う合わんがあるからな…
誰かから嫌われるのが仕方ない部分は確かにあるわ
でもなるべく嫌われるのが少ない先生の方が
エエやろ?
だから普通の先生がエエんや
好かれる部分が少ないかもしれん
でも嫌われる部分も少ないんやったら
それでエエやんけ
一部から熱烈に支持される先生より
多くから浅く支持される先生の方が凄いと思うで
出来て当たり前を何十年も続けてる先生なんか凄すぎるわ
先生は芸能人ちゃうねん好き嫌いが激しい先生なんか要らんのや
なるべく嫌いを減らさなアカンからな
先生っちゅう仕事はホンマに難しいと思うわ
俺はそう思ってるで」
「神崎さん凄いですね…私よりずっと真剣に考えてるし…私も」
「違う違う それがアカンねん」
「えっ?」
「さっきから言うてるやろ?…憧れたり
尊敬したりするのはエエけど行き過ぎたらアカンねんって…自分なりにやらな」
「あ…すいません…」
「ネェちゃん大丈夫か?気いつけや…
変な宗教に勧誘されたり、新聞何社も取ったりしてへんやろな…変な男に声掛けられても付いて行ったらアカンで?女優なりませんかとか言われてないか?」
「あっ…大学の帰りにたまに言われます……けど付いて行ってませんよ!」
「当たり前や!付いて行ったら新米女教師とかのタイトルで発売されて一発アウトや!
ホンマに気いつけや…」
「あっ!やっぱりそういうの神崎さんも見るんですか!?」
「テレビも無いのにどうやって見んねん…」
(ほんで何を興奮してんねん…)
「あ…す、すいません…」
「まぁ気いつけて頑張ってや
生徒の気持ちなろうとしてギャルになる熱意は認めるわ」
「そ、それは言わないで下さいよ」
恥ずかしがるが少し嬉しそうな枝野
すると急に真剣な顔になったアタルが言った
「それからな……
俺が今使ったのは
否定からの肯定って言うて
宗教とかセミナーでよぉ使う洗脳する方法や
だからホンマに……
…
…
気い付けなアカンで?」
慌てて枝野が身構え布団を強く抱いた
「ど、ど、どうしてそんな事するんですか!?やめて下さい!!」
「何言うてんねん ちょっとしたアドバイスやんか、そうやな今の感じやったら
……500万は取れたかな?」
「……高校生でこれって…都会って怖いですね」
「この辺はまだ田舎やでネェちゃん
まぁこんだけ脅したらヒヨコから若鶏ぐらいにはなったやろ?唐揚げにされんように
頑張りやハッハッハ」
(ホンマは中学生で40歳やけどな)




