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回胴式優義記  作者: 煙爺
第一章
41/171

曲がらないイシとマツ

9月1日 金曜日 10時48分


「よっこい……しょっ…と」


ザッ


裏門の壁を乗り越え静かに着地

職員室の窓から見えないよう身を屈めて

コソコソと校舎の中に入って行く

下駄箱で靴を履き替えた後も細心の注意を払って行動する

(右よし左よし誰もおらんな)

職員室の前を通る時は窓から見えないよう

四つん這いになり極力音も立てない

(いや大変やなこれは)


まるで泥棒ような怪しい行動をひたすら続け無事1年4組と書かれたプレートの刺さる教室の前まで辿り着いた

(あとは座って待っといたらエエやろ)

廊下側1番後ろの自分の席に座り

腕を組んで目を瞑り今朝の事を考えた


朝9時前に起き朝食を摂った後N店に向かった

目的は昨日打ったモグラの確認だ

(こればっかりはしゃあない最優先の確認事項やからな)

N店は残念ながら詳しいデータ表示機は無く

昔ながらのBIG回数のみが表示されるだけなのでどうしても朝イチの状況が知りたかった

閉店時と出目は変わっていないか

モーニングの状況はどうか

客層はどうなのか

これから先U店が休みの木曜日にはお世話になるかも知れないだけあって早い内に知っておきたかったのだ

(その為の遅刻はしゃあないやろ

学校が金くれる訳ちゃうし

クラスの生徒に嫌われるのは嫌やけど

こればっかりは譲れんわ

なるべく学校休まんようにすんのもただ単に

私生活に干渉されて打ちに行ってるのバレたら困るからやしな

1番はジィちゃんになるべく負担かけへん様にする

2番はスロットで生活費を稼ぎつつ身体が戻るのを待つ

3番は世話なった人には出来るだけ優しく

こんなもんか

何か知らんけど中1に戻ったんやから

2回目は楽しんでいけたらそんでエエやろ!

ハッハッハ)


そんな謎理論を頭の中で展開していると

にわかに廊下辺りが騒がしくなり始めた

(おっ終わったんかな?帰ってきたか)


ガラッ


っと教室のドアが開き何人かの女子生徒が帰って来た

まだ誰も居ないと思っているのか友達同士で

喋りながら楽しそうに入って来る


「ほんでさーお母さんがバス…キャア!!」


が…アタルの姿を見て悲鳴に近い声を上げた

(キャアって………傷付くわー…まぁしゃあないか……一応挨拶しとくかな住み良い環境の為に)

そんな考えのもと

なるべく明るい声で挨拶する事に

「いやーおはよう ちょっと遅刻してもうて

ビックリさしてスマンかったなゴメンやで」

(何か友達の子供に話し掛けてるみたいになってもうた、難しいわー)


案の定 女子生徒も気まずそうに答える

「そ、そうなんやー 気にせんといてな」

そう言うとすぐさま席に座り3人で固まってヒソヒソと話し始めた


その様子を見て悟る

(やっぱりアカンか…松セン転倒事故の余波が広まって更に悪化したみたいやな…)

続々と生徒が帰って来る中、その考えが正しい事を思い知る

皆一様にアタルの姿を見るとギョッとした顔になり静かに席に座って何人かでヒソヒソと話すのだ

(……完全にやってもうたな……)

アタルのメンタルがどんどん削られていく


そんな中

アタルにとってはこのクラス唯一の良心と言っても過言ではない西岡君が現れた

(おぉ今日も男前な西岡君!どうかこの状況をお助け下さい)

早速 挨拶がてら話し掛ける

「おはよう西岡君!いやー今日も暑いなぁ」


その挨拶を聞きビックリした様子でこちらに小走りで近寄って来る西岡君

(ん?どないしたんかな?)

少し不思議に思っていると小声で話し始めた

「…神崎君!登校日の日なんで帰ったん!?

あの後 松谷先生エラい怒って 神崎ぃー!って叫びながら追いかけて行ったけど…」


(わざわざ追いかけて来たんや)

「えっそうやったん?知らんかったわ

いやスーパーに買い物行かなアカンかったから帰ったんやわ

何か怒って殴り掛かって来たから避けたら

勝手に転けたんや、うずくまってたから一応声掛けてから帰ってんけど…そんな怒ってた?」


「めっちゃ怒ってたで!教師に足引っ掛けて転かすとは何事やー!って…その後の部活にも顔出さんかったから相当怒ったと思うで」


(やっぱりな…言うと思ったわ)


「えー…思いっきり捏造されてるやん

足引っ掛けてへんって

避けてから俺動いてないし

勝手に引っ掛かって転けたんやで…

自分の事故 人のせいにされてもなー…

それより ゴメンな?部活大丈夫やった?」


「ううん それは大丈夫やで 別に松谷先生が部活で何かするわけちゃうし

だけど やっぱり事故やったんか……

そうかなーとは思ったけどやっぱりなー」


(は?何もせんの?)


「え?バレー部の顧問やからトス上げたりするんちゃうの?よお知らんけど」


「えっ?そんなん無いよ 3年の先輩が交代でやるから ただ試合の時には顧問おらんと出場出来ひんらしいから」


「は?じゃあ何であんな必死に俺を勧誘して来たんや?意味わからんねんけど」


そう言うと答えにくそうになる西岡君

「それが何か…この前先輩が言ってたんやけどな?バレーはあんまり知らんのにヤル気だけはあって……他のクラスでも背の高い子を強引に勧誘してるみたい…」


「いや先に内容の勉強せえよ……」


ガラガラッ


噂をすれば影が指す

担任の松センが入って来た


慌てて席に戻る西岡君

「あっ!ゴメン神崎君また後で」


「ありがとう西岡君」

(やっぱり普通に話してくれるのはこの子だけやな)



入って来た松センは教室を見渡し、アタルを発見すると睨みつけて声を出した

「神崎ぃ!前来い!」


「あっはい」

(どんだけ呼び出すねんコイツは)

素直に教壇に向かうアタル

教壇に着くといつもの調子で松センに尋ねた

「なんですか?センセ」



パァン!!



突然の事に

全く反応出来ず呆然となるアタルと

一瞬でシーンと静まり返った教室


左頬にジィンと広がる痛みにより

自分が叩かれたのだということを理解し

思わず声が出る

「痛ったぁ…」

(コイツ…いきなり)


更に2発目が松センの声と共に迫って来た!

「反省せぇ!!」


しかしその手はサッと躱され

空振りに終わる

(調子乗んなよ!不意打ちちゃうかったら食うかボケ!!)


が、躱された松センは収まらない

今度はアタルに掴み掛かろうと手を伸ばして来た

「躱すな!指導や大人しせんか!」


ここでアタルにも松センに対する激しい怒りが湧き上がる…しかし ここでキレてはいけないと何とか踏み止まり

掴み掛かって来たその手を払い、松センに言葉をかける

「いや理由言うて下さいよ、いきなり引っ叩かれても訳わかりませんわ 普通理由言うてからでしょう」

(何が指導じゃボケ!手加減もせんといきなり引っ叩きやがって!……いやここでキレたらアカン…何とか冷静にいかんと)


その言葉に松センもアタルを睨みつけながら

言い返す

「理由?そんなもん言わんでもわかってるやろが!登校日に足引っ掛けて転かしたんは誰や⁉︎自業自得や!」


「は?いやそっちが足に引っ掛かって転けたんですやん、自分は躱してから一歩も動いてませんけど?事故ですよあれは」


そっちの勝手なミスだと言われ更に激しく

言い返す松セン

「何が事故じゃ!!お前が足引っ掛けたんやろが!大体お前が避けるからこうなったんや!大人しせんか!」


「いや話聞いてます?そもそもの原因は

先生の一方的な逆恨みでしょ?何で自分が

罰受けなアカンのですか?

感情的なっていきなり引っ叩いて来るし…

ビックリしますわホンマに」

(ここで殴り返したら意味ないからな

しっかし腹立つわコイツ)


その言葉を聞き益々ヒートアップする松セン

声が更に大きくなる

「何やと!!!神崎ぃ!!!」


そう松センが叫んだところで

あまりに激しいやりとりを聞いてか


ガラガラッ


っと急に教室のドアが開き

他のクラスの教師達が入って来た

1人の教師が声を掛ける

「松谷先生!どうしたんですか大声出して」


声を掛けられ少しトーンダウンした松センが

言葉を返す

「河崎先生!この神崎が屁理屈ばっかり言うて言う事聞かんのです!」


その言葉を聞きアタルも反応する

「いや屁理屈どころか逆恨みでいきなり引っ叩いて来たのはそっちでしょ?意味がわからんから説明してくれって言うただけですよ」


同僚の教師の前で反論されたのが気に触ったのかまた声が大きくなる松セン

「何やと!?足引っ掛けて転かしたんはお前やろ!!言い訳するな!!」


ここで河崎先生ら教師陣が松センとアタルを止めに入った

「わかりましたから松谷先生

とりあえず職員室行きましょう

神崎もそれでエエな?」

事態を収めようと教師達が提案する



しかし周囲の反応を無視してアタルはこう言い放った

「いや病院行きたいんで今日は帰りますわ

引っ叩かれて口の中切れてるみたいなんで」

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