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回胴式優義記  作者: 煙爺
第一章
11/171

激突寸前 ボウズVSハゲ

S店を少し大きくしたような外観に

偽造プリペイドカードの注意喚起を促す

大きなポスター

出玉大奉仕中の文字が流れる電光掲示板

そんなクーラーの効き過ぎるN店の中で

スロットコーナーを眺める


(あー……これは……)


だが台数も20台と少なく

打っている客もゼロ

機種は定番の3機種

ニューパルサー10台とダイバーズ5台に

スーパープラネット5台と全て山佐の機種だ

赤いランプの下にBIGのみをカウントする粗末なカウンタが設置され出目も全てバラバラ

そのカウントもゼロなので

どうやらモーニングは無さそうだ


シマの半分程しかない小さなスロットコーナーを抜けてパチンココーナーへと歩を進める

(こらアカンな……)


実はこのN店には期待していただけに

少しショックだった

というのも98年頃

アタルの記憶の中にあるN店は

スロットの台数は40台程だったが

中々にイイ店で初めてパチスロというものを

打ったのも何を隠そうこのN店だった

朝早くから並んでモーニングを狙い

ほぼ毎日の様にモーニングを取っていたが

目押しが下手で中々ボーナスが揃えられず

やっと揃えても小役を取りこぼし

ハズシも出来ず

一緒に行っていた先輩や友達からいつも笑われていた

それがキッカケ通常時の小役狙いから目押しの練習をしハズシまで覚えて行く事になるのだが…

(この頃はまだスロットに力入れてなかったんか…店も何か古いし改装前なんやろな

まぁ1回見ただけでは判断出来んから

また時間が空いた時にでも見に来よか

とりあえずパチンココーナー覗いてから

I店見に行こ)


それからパチンココーナーを覗き店を出ると自転車をN店に停めたまま歩いてI店に向かう

歩いて100メートル程行くと

右手側に商店街の出口

左手側にI店が見えて来た


一階と地下で構成されたI店は駐車場も無く

駐輪場も10台程のスペースのみの小さな店だ

外観は古く所々には錆びが目立ち

パチンコと大きく書かれた看板が無ければ

誰も入ろうとは思わない

(この辺で一番の老舗らしいからなぁ…

まぁ一応な…一応…)


N店やS店に比べるとかなり小規模なこのI店

正直全く期待はしていない

何故ならこの店は昔からパチンコ専門店で

怖い客が異常な程多いからだ

羽根モノや現金機が多く設置された店内は

今までの2店とは違いかなり静かで

パチンコ玉を弾く音とザザーっという玉貸しの音、単調な大当たり中の音楽以外は

ほぼ聞こえない

果たしてこの店の何をチェックするのかは

甚だ疑問だが…一応何があるかわからない

そう自分に言い聞かせ重い扉を押し開け

店の中に入った


そして……


結果は無理だった

予想通り無理だった狭い店内を5分程見て回ったが若い客はゼロ

打っているのは全員50代以上の怖い人ばかり

年配の店員もタバコを吸いながら端に立ち

新台は羽根モノのグレート夢夢

店からの

ウチはスロットなんか要らんのじゃい!

という強い意志が伝わってくる

一体この店はどうやって儲けているのか

何故そこまで強固な姿勢を貫くのか

そんな疑問を残しながら店を後にした


N店に戻り烏龍茶の空き缶を捨ててから

自転車に乗って来た道とは違う

I店近くの商店街から帰ることにする

自転車を押しながら商店街を進んでいると

ソースの匂いが鼻と腹を刺激する…そして


[キャベツ焼き100円]


その文字を見てしまった…


「オッチャン1コ頂戴!」

と100円を渡す


「あい毎度熱いから気ぃ付けてな」


キャベツ焼きを受け取ると

ガッと半分ほど口に入れ乱暴に噛み千切る

キャベツの食感と溶いた生地のかすかな甘さ

にソースの強烈な味と匂いが口中を転がる

ゴクッと飲み込み

間髪入れずもう半分も口に入れる

少し口が慣れ、先程よりもまろやかに感じるソースの味と生地の柔らかさを大事に噛み

味わいながら飲み込んだ

最後は小麦の香りがスーッと抜ける

(最高や…空腹にキャベツ焼き…

確かに血糖値は急激に上昇したかもしれん!しかしコレは最高や!冷えたビールが欲しなるな!)

そんな中年ならではの事を考えながら

商店街を先に進む


暫く行くと八百屋が見えた

(野菜も食わんとなぁパンとキャベツ焼きだけではアカン、特に成長期やしな

節約も大事やけど倒れたら何にもならん

ラーメンに野菜入れて食うか

それとも野菜炒めが………あ…あぁ!!!

エライこっちゃ!!鍋や鍋が無いやんけ!

鍋だけちゃう調理器具がなんも無い!

冷蔵庫もや!

何で気ぃ付かんかったんや…袋麺買おうと

思った時は……あ?待てよ?………

そうか……そうやな…良し)

一瞬焦ってしまったが

何とか妥協案を思いつき

落ち着きを取り戻して

八百屋のオバちゃんに声を掛ける

「オバちゃんこのキュウリ頂戴」


「はいありがとう120円な

おおきにまた来てや」


キュウリ4本を買い

八百屋の時計を見ると時刻は11時12分

商店街を抜け自転車を漕ぎ始める

真っ直ぐ直進し駅を抜け、すぐ右に曲がって

最初の道を左に入り暫く行けばいつもの公園が見えてくる

そう…目的地は実家

念のため酒屋の前から様子を伺うと……

音もなく明かりもついていないように見える

(おらんか?……)


どうやら留守のようだが油断は禁物

まだ2人とも寝ているだけかもしれない

すぐ出発出来る様に

自転車を敢えて鍵を掛けずに停めておき

ゆっくりと実家の鍵を開け侵入する…

足音を消し元自分の部屋に無事侵入

掃除の際にいつも畳んでいた

ビール24缶入り用の段ボールを組み立てる

(何か泥棒みたいやけど一応実家やからな…)

それとビニール紐を持って台所に行き…

急いで調理器具を詰め込む!!

ついでに皿とコップに茶碗に丼辺りも投入!

洗面所からタオルとバスタオルも持って

急いでドアを出る!!すぐに鍵を閉め

段ボールを右脇抱えながら自転車に乗り

何とか公園へと逃げ込んだ

(どうせオトンとババアは料理なんかせんやろうし使う事もないやろ 有効活用やな)


屋根付きのベンチに座りホッと一息

先程の戦利品を片付けキチンと段ボールに仕舞う包丁はタオルに包んで

瀬戸物とコップは隙間にバスタオルを挟み

段ボールを自転車の荷台にビニール紐で括り付けた

(よっしゃ完璧やな)


公園を出てS店の交差点を曲がり

スーパーに向かう

4分程で到着し5食入り308円の袋麺を購入


そのままアパートに向かい

荷物を降ろしやっと一息ついた

時刻は11時56分

コーラを飲みながらラーメンを作る

10分程で完成しキュウリを齧りながら

ラーメンを食べると

生のキュウリとラーメンは全く合わないことがよくわかった…

ラーメンを食べ終わり、銭湯の石鹸とパチンコ屋のスポンジで洗い物をしながら3本目のキュウリを食べる

洗い物も終わり4本目のキュウリをボリボリと齧りながら缶コーヒーを持ち

戸締りをしてアパートを出発

ホームセンター先のNY店に向かう


アパートから15分程自転車を漕ぎ

ホームセンターを過ぎたがNY店はまだ見えてこない

不思議に思い少し戻るとNY店らしき場所には広い空き地……

どうやらまだNY店は存在しないようだ

(という事はこの3年以内に出来るんやな

まぁ無いもんはしゃあない

コンドルの新装の店に向かうか)


NY店予定地を道なりに北上し約10分

ケーキ屋の角を左に曲がって

ひたすら真っ直ぐ20分行けばやっと目的地である

コンドル15時新装のU店が見えてくる

(NY店まだ無いんやったらアパートから直接

来たら良かった…エライ遠回りやったわ

あぁしんど)

近づくにつれ何やらもう人がいるのが見えた

(えぇ!マズいか!?まだ1時間半前やのに!)

慌てて自転車を停め正面入口に行くと

20人ほどの人が地面に座っていた…

(アカン終わったかな、まさかこんなに人気とは…一応聞いてみるか)

一番後ろに行き自分の前にいたオッチャンに話し掛ける

「すんませんこれってスロットの並びですか?」


少し怖そうなオッチャンが答える

「あ?ちゃうちゃうワシら黄門とギンギラや、ニィちゃんスロットか?せやったら

裏口の方が近いでスロットは皆裏口並びよるわ」


「あぁそうですか ありがとうございます

ほな そっち回りますわ」


「おぅ 頑張りや!」


すぐに駐輪場とは反対らしき裏口へ向かうと

そこには6人程の並びと地面に置かれたスポーツ新聞や週刊誌があった

(こっちもマズいやんけ!!)

すぐに並び、前の人数と場所取りの品を数える

(2ぃ4ぃ6ぉ…と丁度10人やんか終わったか…でも一応…)

僅かな望みを託し前のオッチャンに話し掛ける

「すんません、これって皆新台のスロットですか?」


折りたたみの椅子に座り、スポーツ新聞を読んでいたオッチャンが面倒くさそうに答えた

「あぁ?ワシらは皆コンチや

コンチはもう空いてないで 他行ってや」


「あ、そうですかホナ大丈夫です新台行くんで」


「ほうかならエエけどな」

とそれだけ言ってスポーツ新聞を読み始めた


(ハァ…なるほどなコンチⅢのモーニング狙いか、しかもこの客層は悪い方の開店廻りやん

まぁエエわコンドルは打てそうやし

大人しく待っとこ)


それから約30分程経った頃

1人の客がアタルの後ろに並ぶ

下を向きながらコーヒーを飲んでいたアタルはチラリとその顔を見て……

思わずコーヒーを吹き出しかける


そこにいたのは

かつてアタルがカミナリ様と呼んでいた

懐かしの職人だった

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