第七話 兵士達は再び訓練を積む
翌朝
太陽の光が差し込み要の瞼を優しくなぞる。
二段ベッドの下段に横たわっている要は眉間にしわを寄せながら重い瞼を上げる。カーテンの隙間から日光が差し込んできており右手で顔を覆った。
「おはよう、要」
黛の声がし要は指の隙間から視線を動かすと、ベッドの横で黛が身支度をしていた。
「要もそろそろ準備しないと間に合わないよ」
「……一也は朝に強いんだな」
寝起きのため覇気のない声を発する。
「僕は普通だよ。要が弱いんじゃないのかな」
要は黛に言葉を返す元気もない。
確かに要は朝にめっぽう弱い。今すぐにでも二度寝したいがそうしてはいけないと重々承知だ。要は体に鞭を打ち起き上がる。
ベッドから降りた要は大きく伸びをし、黛同様準備をする。
そして二人は東日本軍の軍服に着替え要は腰から刀をぶら下げ、部屋から出て中庭の方へ向かっていった。
起きてから少し時間が経ち要の眠気も徐々に覚めていく。
「なんでまた中庭なのかな。昨日もそこで訓練したのに」
歩きながら黛が疑問を口にした。
「いつもそこが集合場所じゃないのか?」
「実戦形式の訓練だったら中庭が集合場所だけど、いつもなら実戦演習の翌日は休息か、軽い運動なんだけどなあ。これは今日も実戦かもしれないね」
黛は少し嫌な表情をする。
黛の気持ちも分からなくもない。要は朝起きた時、体に痛みはなかったが気だるさを感じた。この状態で昨日のようなことをするのは身体的にしんどい。
「けど一也の再備装衣は遠距離だからあまり体を動かさないんじゃないのか」
「確かにそうだけど僕だって近距離で戦うよ、昨日みたいにね。それに狙撃は集中力がいるからね、決して楽ってわけじゃないよ」
「そうなのか。…………あ、そういえば」
要は黛の言葉で気になることを思い出す。
「一也の再備装衣って銃だよな。昨日それで撃たれたのに血が流れなかったのはなんでなんだ? もちろん痛かったけど」
「あー、それは僕のマスケット銃が空気を飛ばしているからだよ」
「空気?」
「そうだよ。昨日は演習で訓練用だったから威力を抑えてたけど、本物は全力で撃てば五キロ先に人が十人重なっても全員貫けるよ、すごいでしょ」
黛は誇らしげに自慢する。
「マジかよ」
「まあでも全力で撃つには時間がかかるし、その場にとどまらないといけないから実際は撃てる時なんてほぼ無いけどね。だから普通は人一人貫けるくらいだよ。それでも弾薬は無限だし、弾をこめる必要もないから便利だけどね」
実弾ではなく空気を武器にするというのは資源を減らすためだろう。
長期の戦争で人に資源に減っていくばかりだ。少しでも消費を減らすため再備装衣でも削れるところは削る。しかし、東日本軍のすごいところはそれをデメリットにするのではなくメリットにするところだ。実弾ではなくなって弾は無限、弾薬もなし格段に今の方が良い。
ちなみに要や種崎の再備装衣などは滅多に壊れることはなく特殊な技術を用いて強固にできている。これも東日本の設計者のおかげだ。
しばらく歩いた二人は中庭に出ると、すでに紫木、種崎に花宮が集まっていた。
その元に近づいていくにつれ要は種崎の苛立ちを感じていく。
要はまたかと、面倒なことになる予感がしやる気が削がれていく。
そして三人の元まで着くと予想通りに種崎が黒長髪をなびかせ詰め寄ってきた。
「あんたたち遅すぎ! なんで私たちが待っていないといけないのよ! 特に千歳要、あんたは一番階級が低いんだから一番最初に来ないといけないでしょ!」
眠気が覚めているとはいえ、朝からこのように言われると要の苛立ちも高まっていく。
「集合時間には間に合ってんだからいいだろ」
「よくないわよ! ほんとにあんたは礼儀と規則を知らないのね」
「昨日も同じようなこと言ってたけど、お前規則に縛られすぎじゃないのか? そんなんだと敵に読まれてやられるぞ」
要の何気ない反論に種崎はいつもの言葉よりも印象の違う口調になる。
「うるさいわね、あんたに何が分かるって言うのよ」
その言葉は怒りを込めているように、そして悔やんでいるように聞こえた。
「はいはい、みんな集まったことだし早速始めるよ」
種崎の姿を見てか紫木が言葉を挟んできた。そしてその言葉で四人は紫木の方へ向く。
「えーと、みんな今日何するか気になっていると思うけど、今日はここで戦術理解の講義的なものをしようと思います」
「それはどこかの部屋を借りればよかったんじゃないですか?」
黛が質問した。
「そうなんだけど、昨日千歳と種崎の連携がいまいちだったでしょ。だからここにしたの」
自分のせいでこのようになったため要はまた種崎が何か言ってくると思い目を横に向ける。
が、予想に反して種崎は紫木を見ているだけだ。
「じゃあ最初は簡単なことからいこうかな。東日本軍は部隊での行動を基本としているのは知っているよね。ここの軍事施設には全部で二十の部隊があるけど、なんで部隊での行動を基本としているのか知ってる、千歳軍曹?」
噂が広がっているのもあり紫木は意識的に要と呼ぶことを避けた。
「それは西日本軍の憑依文字に対して数で勝るということですよね」
「そうそう、質では勝てないから量で勝つのが基本なわけ。一対一じゃ絶対勝てないからね。だから訓練も部隊ですることになっているし、訓練内容も部隊長に任されているの。じゃあ一つの部隊で相手にしていい憑依文字所持者は何人でしょう?」
紫木は段々、教師のように振舞っていく。
「えーと、確か二人でしたっけ」
「そうだね、時と場合によるけど基本は二人。一つの部隊が五人だから五対二になるのが理想かな。ちなみに私たち第八部隊は黛が後方からの支援で残りの四人が前衛ね」
だから黛は昨日の訓練であそこまで正確に撃てるのかと要は理解する。
つまり黛の後方からの狙撃があるかどうかで、戦いやすくなるかどうかが決まるというわけだ。黛もそのことは分かっているため時間を費やし訓練したのだろう。
「で、ここからは絶対の約束事だけど、もしも一対一の状況になったら全力で逃げること。例え敵が自分に気がついていなくて一撃を加えられる状況でも絶対交戦してはいけない。これはこの部隊の決まり事ね」
念を押すように紫木は言う。
要は憑依文字を持っているため一対一で戦うことは不可能ではない。
だが今は東日本軍としている。紫木もそのことを分かって言っているのだろう。なので要もそのことを拒否したりはしない。
「さてと、じゃあ次は実戦して確かめようかな。さっき言った四人での前衛だけど、そうなると二人で一人と戦うことになるから、昨日の復習も踏まえて種崎と組んで私と戦おうかな」
「え、またですか?」
要は昨日のことを思い出し嫌な表情になる。当然それは種崎もだ。
「またよ。しょうがないでしょ、君たち全然だったんだから。昨日のことも踏まえて取り組むようにね」
紫木の昨日のこととは連携のこともあるが、能力を使うようにという意味も含まれている。要も理解しているのか「分かってますよ」と軽い返事をした。
「紫木少佐、それだと僕と花宮はどうしてたらいいですか?」
黛が言葉を挟んだ。要と種崎、そして紫木が訓練に参加するが特にすることのない黛と花宮。
「あー、そうだったね。じゃあ君たちは連携がうまく取れているか見といて。本当は今日休みにするつもりだったけど昨日彼らがダメだったでしょ。だから急遽することに決めたんだよね」
要は自分のせいで黛達にもつきあわせてしまい申し訳ない気持ちになる。これだと余計に種崎を苛立たせるかもしれない。
「じゃあ準備しようか」
紫木の声で要と種崎は少し離れたところに立ち、黛と花宮は戦闘の邪魔にならない距離まで下がった。
要は先程から言葉を発していない種崎が気にかかる。
「なんかお前、様子が変じゃないか」
「私のどこが変って言うのよ」
要に見向きもせず種崎は答えるが、要の言葉遣いにいつもの文句を言ってはこなかった。
「いや、なんかさっきから大人しくないか」
「私が大人しかったらいけないの? それよりも昨日みたいにならないでよ」
それだけ言うと種崎はブレスレットに触れ再備装衣の鎌を出した。
多少気がかりだが要も紫木に向き直ると刀を鞘から引き抜き臨戦態勢に入った。




