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第四話 兵士は学ぶ

 座り込んだままの要に目の前の黛が右手を差し伸べてきた。


「ほら、立てる?」


「あ、ああ。ありがとう」


 要は黛に引っ張られるように立ち上がり刀を鞘にしまう。

 黛と花宮も再備装衣を元の形のペンダントとイヤリングに戻した。


 要は種崎の言葉、そして何が起きたのかが気になる。


「なあ、種崎の言っていることってどういうことなんだ?」


「ああ、あれかい。種崎はちょっと口が悪いけど、まぁ率直にいうと君は連携がとれていなかったってことになるかな」


 黛はあえて君達とは言わず君、と言った。


「連携……」


「そ。僕達がしたことは君達の連携の悪さをついたことなんだ。僕が戦闘中にチラチラとどこか見てるのって分かった?」


 確かに黛はどこかを見ていたが、それはただ種崎と花宮の戦闘を気になっていただけで見ていたはず。


「確か、種崎と花宮を見ていたんだよな」


「そうなんだけど、ただ見てたわけじゃないんだよ。花宮とアイコンタクトを取るためとお互いの位置を確認してたんだ。それと、ついでに君達が連携を取れてないとも分かったし。ちなみに種崎は何度も君を見て連携を取ろうとしてたよ」


「えっ……!」


 思わず声が出てしまった。あの種崎が連携を取ろうとしてたなんて。だから種崎はあんなに怒っていたのか。


「で、僕は君を気づかれないように誘導して、あとは自滅してもらうだけでいいからね。君は後ろにいる種崎に気づかずぶつかってしまったってわけ」


「そういうことか……、だからあいつはあんなに怒ってたのか」


「まあでも君達は初めて組んだんだよ。僕と花宮は長く一緒にいるからどんな風に動くか分かっているし、仕方がないよ。それにあの怒りは一年前の自分にも怒っているかもね」


「一年前?」


 よく分からず聞き返してしまった。


「あー、ちょっと口を滑らしたかな。このことは僕の口からは言えないことだし言うべきではないから、あまり気にしないで」


 黛は喋りすぎたと思ったのか言葉を濁した。

 要は少し気になるが人に聞かれたくないことや、知られたくないことなどは誰しも持っているものだ。要はその意図をくんで深く追及はしなかった。


 そして要が聞き返さないでいると黛が少し真剣な表情になる。


「でも僕も種崎の意見に少しは同意かな。普通なら知っているはずの戦術をなんで知らなかったんだい? お互いの位置や状況を確認するのは東日本軍では当たり前なんだけど」


 黛の質問に対して要は視線を外してしまい言葉を詰まらせる。


「あー、それは…………」


「えーと、別に責めてるわけじゃないんだけど、なんていうのかな……。まるで、西日本軍のような戦い方のように見えて……」


「こらこら、あんまり千歳をいじめるなよ」


 要が困っているのを見てか、紫木が間に入ってきた。


「今日が初めての訓練だったんだから少しは多めに見てやれ、黛」


 黛は視線を紫木に向けると、真剣な表情からいつも通りのくだけた表情になる。


「あー、すいません。確かに初めてだと色々分からないことがありますよね。ごめんね、変なこと言っちゃって」


「あ、ああ。大丈夫だよ。これは俺のせいだし、それに学ぶことも多かったから」


「ならよかった。あ、そうだ。これからは要って呼んでもいいかい?」


 唐突に黛は話題を変え要は少しばかり驚く。


「別にかまわないが……」


「じゃあ僕のことも一也って呼んでくれるとありがたいかな。せっかくの仲間なんだからね」


 明るく話す黛は先の質問を申し訳なく思ってなのか、それとも紫木が話を止めたからなのか、要には分からない。


「さてと、僕もそろそろ帰ろうかな。なんだかお腹空いてきたし……。ねぇ花宮、今から食堂でも行かない?」


 さっきまで一言も喋ってない花宮は急に呼ばれ魚のように体が跳ねる。


「え! わ、私?」


「そうだよ。この後用事が無かったらだけど、どうかな?」


「よ、用事は……、ないから大丈夫だけど……」


「じゃあ行こうか」


 花宮は小さく頷く。

 そして黛は失礼します、と言うと食堂の方へ向かい花宮も一礼すると黛について行った。


 黛の掴みどころのない性格のおかげか本心が読めない。少なくとも同じ部隊のため敵視はしていないだろうが、何かを疑っているのか、そして懸念しているのかもしれない。


「どうだった、初めての訓練は?」


 ふと、紫木が投げかけてきた。それに対して要は不満を漏らす。


「戦術があるなら先に言ってくださいよ。おかげで種崎は怒るし、負けてしまったじゃないですか」


「普通そういうのは勉強してくるはずなんだけど。…………それに、手を抜いていたでしょ」


 紫木は先程の要の動きを怪しむ。種崎達には一切疑問に思われなかったことだが、紫木は見え透いているようである。だが要は白を切るように答える。


「まさか。全力でやりましたよ」


「君の言葉は半分真実だけど半分は嘘だよね」


 要は自分でも分かっているのか言葉を返さなかった。


「確かに君は全力でやったけどそれは素の身体能力だよね。それだと再備装衣で上がった身体能力についていくのは厳しいかな。まあ使いたくない気持ちも分かるけど、それじゃあこの先やっていけないよ」


「……そうみたいですね。次からは使いますよ」


 要は静かに口を開いた。それはあまり周りには聞こえたくないようである。


「そう。なら次からは全力でやることね。でないと仲間から信頼されないよ」


「分かってますよ」


 要はあの日の決意を思い出すように呟いた。自分がどのような立場にいて何を為すべきかを確かめるように。


 その気持ちが伝わったのか紫木はそれ以上そのことについて言うことはなく、種崎が歩いて行った方向へ向く。


「それにしても種崎には随分と嫌われたね。帰り際にも除隊しろって言われたぐらいだから。種崎があそこまで嫌うのも珍しいというか、昔の自分を思い出しているのかもね」


 紫木の言葉でそういえば黛も同じようなことを言っていたことを思い出す。種崎の過去になにかあったのか。


「一也も同じようなこと言ってましたね。まあ渚さんに聞いても同じことを言うと思いますけど」


「気になるんだったら直接本人に聞いてみたら」


「聞きに行って教えてくれるんですか?」


「それは聞かなきゃ分からないことだからね。気にならないんだったら別に行く必要はないけど」


 紫木の言う通り知る必要はないが、先程の訓練のこともある。あの時種崎は連携を取ろうとしていたのに要は無視する形になってしまった。なので一言謝るというのも含めて会いに行ってもいいかもしれない。


「訓練のことで一言謝った方がいいかもしれないですし……、種崎がどこにいるか分かりますか?」


「いつも訓練終わりは寮の自分の部屋に戻ってるかな」


「分かりました」


 要は紫木に種崎の部屋を教えてもらい寮へ向かっていった。



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