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第三話 兵士達は訓練を積む

 

 種崎の横に立った要は目線を正面に向けながら声をかける。


「なあ種崎、あいつらって……」


「種崎少尉、でしょ。そう呼びなさい」


 要の言葉を割るように種崎は口を挟んできた。

 要は煩わしさを感じるもここで言い返してはさらにめんどくさいことになりかねない。要は仕方なく敬語で話す。


「えーと、種崎少尉。彼らはどんな再備装衣持っているのですか?」


「あなたは馬鹿なの? そんなの教えれるわけないじゃない」


 要は苛立ちで片眉がピクリと上がる。種崎は人を苛だせる天才なのかもしれない。


「なんで教えれないんだよ」


「戦場で相手のことを知ることなんてありえないんだから当然でしょ。そんなことも分からないの」


「じゃあお前の武器は何なんだ?」


「お前じゃなくて種崎少尉って呼びなさい。……まったく、今に見せてあげるわよ」


 種崎は左腕にはめているブレスレットに右手で触れる。すると一瞬光り、そして次には右手に種崎の身の丈と同じくらいの鎌が握られた。

 再備装衣の分子レベルの分解と再構築である。


 身の丈ほどあるにも関わらず種崎は軽々と持ち上げる。おそらく見た目ほど重さはなく、手数で戦うことを得意としているのだろう。


「それよりもなんであんたは再備装衣をずっと解放したまま持ち歩いているの。腰に刀なんかさして、そんなに見せびらかしたいの?」


 種崎は要の腰にかかっている刀に目をやった。


「別にいいだろ。お前には関係ない」


「またお前って……、何度言ったら分かるの、種崎少尉でしょ!」


「はいはい、種崎少尉」


 要は適当に流し黛達を見る。


 すでに黛達も再備装衣を解放しており、黛はいたって普通の銃剣がついたマスケット銃を握っている。そして花宮に視線を移すと要は目を疑ってしまった。


 花宮は自身より一回り大きい斧、さらに返り血を浴びたかのような赤色に染まった斧を握っているのだ。

 先程まで弱々しい感じだったのもあり、あまりにも所有者と対照的な再備装衣である。いや、ある意味似合っているのかもしれないが。


「花宮ってあんな再備装衣なのか……」


 ポツリと、声が漏れてしまった。

 その要に対して何故か種崎は誇らしげになる。


「舞花はこの部隊一の力持ちだから、一撃でももらったら致命傷よ」


「あれ? 戦場では相手のことは分からないのに教えて良かったのか?」


 お返しと言わんばかりに要は言葉を返した。


「あ、えと。……ち、違うわよ。さっきのは見た目で分かることだから、決して教えてあげたわけじゃないくて……。あ、あんたが分からなそうだったから、教えてあげただけよ!」


 誰が見ても慌てているのが分かり、そして種崎はそれを隠そうと要から視線を外した。


「えーと、準備はできたかな?」


 お互いが位置についたのを見て紫木が確認を取る。

 その声でそれぞれが臨戦態勢に入った。


「それじゃあ、お互い大怪我はしないくらい全力でやって。はい、始め」


 気の抜けた合図とともに訓練が始まった。


 要にとっては初訓練である。そして黛達の戦い方も知らない。なので要は相手の出方を見ようと構える。


 だが、横の種崎が身勝手に一人で走り出した。


「おい、種崎」


「うるさい」


 種崎は要の言葉に目もくれず敵に向かっていく。


 こうなってしまっては連携なんてできるはずがない。そしておそらく黛達はそこをついてくるはずだ。


 要は急いで種崎の後を追いかけようと右足を踏み出す。


 その瞬間、一つの銃声が鳴り響いた。


「ってぇ……」


 要は右足に痛みが走り思わず膝をついてしまった。


 要は痛みに顔を歪ませ右手で足に触れると、痛みはあるのだが血は流れていなかった。


 確かに要は銃で撃たれた。だが打撲のような痛みだけというのが理解できず顔を上げて黛を見る。


 そこにはしっかりと黛が構えており銃口を要に向けていた。


「どうかな、僕の銃は?」


 黛は再度引き金に指をかける。


「くそっ!」


 銃声が鳴るも要は地面を蹴り黛の銃弾を避ける。


 要の武器は近距離武器の刀である。遠距離からの攻撃には対処するのは難しく、黛も近づけさせまいとうまく攻撃してくる。

 なのでここではうまく種崎と連携を取りながら自分の距離まで詰めたい。


 要は視線を種崎に向けると花宮が種崎を抑えていた。


 手数で種崎は花宮を押し込もうとするが、黛がここでもうまく花宮のフォローをしており苦戦している。


 要と種崎には距離ができており孤立してしまっている。ひとまず態勢を整え仕切り直したい。


「種崎、一旦下がれ! これだと分が悪い」


「私に指示しないで! あんたこそ何しているのよ!」


 強情な種崎は要の言うことを聞こうともせず、必死に攻撃をいなす。

 だがそれも時間の問題である。花宮の後方から的確な銃弾が種崎の手数を遮っており、花宮の重い一撃がじわじわと追い込んでいく。


「なに意地張ってんだよ! この状況だとお前もやられるぞ!」


「うるさい! そんなの私だって……痛っ!」


 ついに種崎の右肩に銃弾が直撃し体勢を崩す。


「戦闘中にお喋りなんて随分余裕だね。ほら花宮、決めちゃって」


「ご、ごめん、四季ちゃん…………」


 体勢を崩した種崎に大きく振りかぶった斧が振られる。種崎は慌てて鎌の持ち手で防ぎにいき鈍い金属音が響いた。

 だが不完全な状態で花宮の一撃が防ぎきれるわけもなく、種崎の体ごと軽々と押し返し要の位置まで飛ばされた。


「きゃっ」


「おい、大丈夫か?」


 要は飛ばされた種崎の元まで駆け寄りに行く。


「いたた、さすが舞花ね。…………それよりも、あなたは何してるのよ!」


 種崎は不満を持っているのか、急に立ち上がり要に怒りをぶつけた。


「何してるって……、そもそもお前が一人で突っ込んでいくからこんな状況になったんだろ?」


「違うわよ、あんたがあいつの銃弾に踊らされているせいよ! なんであれだけの数の銃弾を避けられないの。おかげで私の方にまで撃つ余裕を与えているじゃない! 再備装衣を装備しているのだったら避けられるはずよ」


「しょうがないだろ。黛の銃が正確なんだからよ」


「まったく、これで戦争経験しているなんてありえない」


 種崎は要の身体能力に疑問を持った。もちろん黛の技術もあるのだが再備装衣を装備していてあれだけの銃弾を避けれないというのはいささかおかしいと種崎は感じる。


 そんな種崎の訝しがる視線を要は気づいているのかいないのか、黛達に向き直る。


「とりあえず、さっきみたいに一人で突っ込んでいくなよ。それだと連携もとれないしこの訓練の意味もないからな」


「あんたは私に指示ばっかね。それに私は少尉なんだから敬語を使いなさいって何度も言ってるでしょ」


「はいはい」


 要はだるそうに答える。

 種崎の高飛車な性格も短時間であるが大体分かってきた。種崎の言葉は適当に流しておけばいい、真に受けて答える必要もない。


「じゃあもう一度突っ込みにいくわよ」


 唐突に種崎は切り出した。それに要は驚く。


「はぁ⁉ もう一度?」


「何驚いているのよ。私もあんたも得物は近づかないといけないでしょ」


「それでお前はさっき近づけなかったんだろ。それをもう一度やるっていうのか?」


「やっぱりあなたは馬鹿ね」


 呆れたように放たれた言葉が癪に障る。


「それはあんたが全然ダメだったからでしょ。安心しなさい今度は私がいるから」


「どういうことだよ」


「いいから、あんたは私の後ろからついてきなさい」


 要の意見を無視するように種崎は走り出す。要は少し納得いかないがここは信じるしかない。

 要も種崎の後ろから走り出す。


 対して黛はやっと動き出した要達に銃口を構える。


「ようやく来たかな。わざと待ってる僕たちって優しいね。ま、訓練だから仕方ないけど。ね、花宮」


「え! ……え、えと……、四季ちゃん達は初めてのチームだし、しょ、しょうがない……と、思う……、かな」


「そうだね。じゃあ、さっきと同じようにお願いできるかな」


「う、うん」


 花宮は走ってくる要達に向かって足を踏み出す。そして黛は花宮の背後から狙いを定め牽制の射撃を放つ。

 黛の銃弾が空を切っていくが、種崎はそれを鎌で弾く。


「お前……」


 簡単に弾く種崎に要は驚いた。


「一対一ならこれくらい造作もないわよ。あんたは後ろの黛に行きなさい!」


「あ、ああ」


 種崎は再度、向かってくる花宮と刃を交える。要はその頭上を飛び越え黛に向かい、鞘から刀を抜く。


 近距離では要に分があるはずだ。黛のマスケット銃には銃剣がついているが、黛の得意とする距離ではないはず。

 要は刀を振りかぶり一気に距離を詰める。


「はあぁ!」


 要は力強く振りにいった、が振られた刀に黛はいともたやすく銃剣で受け止め二人は鍔競り合いのような状態になる。


「まったく、確かに僕は遠距離専門だけど……、この距離が苦手だと思ってもらうと困るかな」


「っ!」


 押し切れる、そう思っていた要だが、逆に押し切られてしまった。さらに黛は追撃するため一歩深く入り込んでくる。

 要は黛が下がって射撃してくると考えてたため、まさか踏み込んでくるとは思っていなかった。そのせいで少し遅れて防いでしまい体勢が崩れてしまう。


「まだまだいくよ!」


 黛は手を緩めることなく攻め続け要は防戦一方になってしまう。

 さらに何故か、黛は視線を要の背後や横に何度か向ける。


 その意図はわからないが、おそらく種崎と花宮の戦いを見ているのだろう。それならば気にすることはない。種崎は種崎でうまくやっているはずだ。


 今は自分の状況をどうにかしなければならない。まさか近距離でも戦えるとは。

 要は一旦距離をあけて体勢を整えようとも考えた。だが黛はそこを狙って今度は狙撃してくるはずだ。種崎のおかげでここまで近づけたのだから引くわけにはいかない。強引にでも自分のペースにもっていく必要がある。


 意を決し要は多少無理な状態から刀を右から振りにいく。

 しかし、当然力の入った一太刀ではないため黛に軽く弾かれてしまった。


 無防備になってしまった要に黛はもらったと言わんばかりに突きにいく。


「これでお終いだよ」


 だが黛の言葉に要は不敵に笑う。


「それはどうかな」


 要は上体を反らし一突きを避けた。そして体を左に向け左手を地面につけると、それを支えに前のめりになっている黛の顔めがけて右足を振りにいく。


「!」


 黛は咄嗟に反応し左腕を曲げながらどうにか防ぐ。


 それでも黛が初めて体勢を崩した。この隙を逃すわけにはいかない。


 要は左手で地面を押し返し上体を上げながら右手の刀を振りにいく。ここで押し切らなければ勝てる術がなくなってしまう。

 しかし黛は要の思惑が分かってなのか、振られた刀を最小限の動きでいなし、あとの行動を要との距離をあけようとする。

「逃がすかよ!」


 そうはさせまいと要も追撃をする。

 今離されたら要の攻撃が届かなくなってしまい、黛の距離になってしまう。


 必死に食らいついていく要とは対照的に、黛は場慣れしているのか決して慌てることはなく要の攻撃を一つ一つ丁寧に、正確に対処する。

 そして再度、視線を要の背後や横に何度か向ける。また種崎達の戦闘を向けているのか。


 要は黛との戦闘に集中し決めにかかろうとする。


 すると、今度は黛が強引に銃剣を突きにくる。


 これは自分の時と同じだ。苦しい状態を打破するための反撃であり、少しでも隙を作るための攻撃だ。ならば後ろに下がって反撃すればいい。


 そう考え後ろに下がった瞬間、


「ちょ、ちょっと後ろ!」


 突如、声が聞こえたと同時に背中が何かとぶつかる。そしてその衝撃で倒れこんでしまった。


 一体何が? 思考が追い付かず顔を上げると黛が笑顔で銃口を向けていた。


「はい、これで僕達の勝ちだね」


 一つも状況が分からない。銃口を向けられ抵抗のしようがないのは確かだが、まだ種崎が残っているはずだ。


 要は種崎を探そうと後ろに首を向けるが、その必要はなくなってしまった。

 なぜならば真後ろで種崎も同じように倒れており、花宮が斧をむけているからだ。この状況では確かに要達は反撃することも逃げることもできないため実質負けである。


 後ろで倒れこんでいる種崎は要の方に向き睨みをきかす。


「あんた何してるのよ!」


 いきなり怒号のように言う種崎。この状況を理解していないのは要だけなのかもしれない。


「俺が……?」


「ほんとあなたって馬鹿ね。自分が何したか分かってないの?」


 種崎の言葉に何も思い当たる節はない。


「どういうことだよ。ちゃんと言ってくれ」


 すると種崎は深くため息をつく。


「あんた戦っている時、何を見て戦っているの?」


「そりゃ戦っている敵を見るだろ」


 要にとっては当たり前のことを聞かれ何も疑うことなく答えた。

 だが種崎は要の回答に失望する。


「だからこうなるのよ。……本当に士官学校を卒業してるのか怪しいくらい。礼儀もそうだけど、東日本軍の戦術も知らないじゃない」


 種崎は吐き捨てるように言うと、服についている土煙を払いながら立ち上がり自分の再備装衣を元のブレスレットに戻した。


「紫木少佐、私達の負けで訓練は終わりですよね?」


「ん? まあそうなるかな」


「でしたら私はこれで失礼します」


 苛立ちを言葉に含めながら種崎はそそくさと歩き出す。

 そして紫木の横までいくと立ち止まり、

「紫木少佐。再度申し上げるのですが、あいつは除隊するべきだと思います」


 小さく発せられた言葉は紫木にだけ聞こえ、種崎は再び歩き始め中庭から出ていった。


 要は種崎の言っていることも、なぜあそこまで怒っているのかも分からず、ただ種崎の背後を眺めることしかできなかった。



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