エピローグ
紫木たちと別れた要は少しの寄り道をし、紙袋を片手に軍施設のテラスに来た。
「まさか種崎ともう一度デートすることになるとは……」
張りのない声でぼやく。
そしてあたりを見渡すと種崎がすでに席に座っているのを発見する。このまま立ち去りたいがそれもできるわけないので重い足取りで向かう。
すると種崎も要に気づき一瞬で嫌そうな顔になる。その様子から何も変わっていないように思える。
「一ヶ月ぶりなのによくそんな顔ができるな」
要はテーブルを挟み種崎とは向かい側に座った。
「あんたも嫌そうな顔してるじゃない」
「当然だろ。収容所から出た初日にめんどくさいことに巻き込まれてるんだからよ」
「それは私のせいじゃないでしょ。どっちかというと私も巻き込まれてる方よ」
種崎はめんどくさげに背もたれにもたれかかった。
「そういえば一也から聞いたけど昇進したんだってな」
「そうよ。けどあんたには関係ないことでしょ。いくら言っても敬語を使わないし、あんたは軍曹のままだし」
「まあそれもそうだが」
と、要は手に持っている紙袋を机に置く。
「何よこれ?」
「昇進祝い……ってわけじゃないが、前のデートの時に持って帰るの忘れただろ。だから渡そうと思ってな」
要は来る前に自分の部屋から持って来き、紙袋の中はデートの時に買った人形と服が入っていた。
「あ、あんたまだ持ってたの?」
まさか今渡される思っていなかった種崎は背もたれから背を離し驚く。
「なんだよ、捨てて欲しかったのか」
「違うわよ! その……、まだ持っていると思ってなかったから」
意外と素直な反応を見せる種崎。黛たちの変わったというのはこういうところなのか。
「で、いらないのか?」
「いるに決まっているでしょ!」
種崎は要から奪うように紙袋を手に取る。
「あんたが持ってても意味ないんだから」
「別に売ってもよかったんだけどな」
「なにツンデレみたいなこと言ってるのよ」
ツンデレの権化のような存在の種崎にだけには言われたくない言葉である。
「ていうか」
すると種崎は話題を変えるよう切り出した。
「よく収容所から出てこれたわよね」
「それは第八部隊のみんなが動いてくれていたからだろ」
「それにしてもよ。過去にそんな話があったことなんかも聞いたことないし、ほんと運がいいというか」
「まあ安心しろ。戦争が終わるまで西日本に戻ることはないから」
要を収容所から出してくれもう一度戦争をなくすチャンスを与えてくれたみんなに内心は感謝の念でいっぱいだが、もちろん種崎の前でそんなことは言えない。
「当然よ。これで西日本にでも寝返ったら私たち全員の首が飛ぶわよ」
冗談交じりに種崎は言った。
要も西日本に戻ることなど毛頭ない。また裏切るわけにはいかないというのもあるが、要は東日本と西日本を両方救うと決めた。だから要は東日本を選び、東日本軍の兵士として生きていく。
周りから見れば困難な道だと思われるが、要の為すべきことのために、そして種崎や第八部隊のみんな、茜が信じてくれているのだからこの道を進む。
「なにぼーっとしてるのよ」
「ん? いやちょっと考え事してただけだ」
「ならパフェでも買って来て」
あまりにも突飛すぎることを言う。そしてさも当然のように要が金を払うことになっている。
「意味がわからん。買う必要なんかないだろ」
「あんた前にまた今度って言ったでしょ。だったら買ってよ」
うっ、と要は言葉を詰まらせる。ここでも変に言ったことが響いて来るとは。
「ったく、わかったよ」
机に手をつきながら要はめんどくさげに立ち上がった。
まあ種崎は救ってくれたのだからこれくらいはいいだろう。感謝してもしきれないくらいのことをしてくれたのだから。
そして要は歩みを進めた。
要の為すべきことのために。
今回でこの物語は完結です。
ここまでご愛読してくれた方ありがとうございます。
気が向いたらまた作品を書いていこうと思います。




