表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/32

第三十話 兵士は決意を新たに始まりを歩む


「千歳要軍曹、貴官を東日本帝国軍第八部隊に任命する」


 無精髭を生やし軍服を身にまとった中年の男がいかにも高そうな椅子に深々と座っている。男の前の机には千歳要についての資料が広がっており、当の本人は部屋の真ん中で真っ直ぐ前を見て後ろで手を組み立っていた。


「貴官の経歴は多少問題があるが……、まあ紫木少佐の言葉と先の戦いのこともある。貴官のこれからの功績に期待する」


「はっ!」


「いい返事だ。下がっていいぞ」


 要は礼儀正しく敬礼し、発した言葉には軍に対する決意と覚悟が込められていた。


 そして後ろに向き直り仰々しく作られた重い扉を開け廊下に出ると、

「二度目の任命お疲れさん」


「やあ、要。一ヶ月ぶりだね」


「……お、お久しぶり、です」


 壁にもたれかかり腕を組んでいる紫木、右側にはいつものように明るい黛、左側には恥ずかしがっている花宮がいた。


「どうしてここに……?」


 なぜ第八部隊のみんながここにいるのか分からない。それとなぜ種崎だけがいないのかも。


「一ヶ月ぶりの再会なのに感動の言葉とかはないのかな?」


 紫木は壁から背を離し一歩前に出た。


「いや、驚きの方が大きいですよ。なんでここにいるんですか」


「あれから色々あったでしょ。めんどくさい書類やら何回も行われた身体調査とか。まあそれらが終わってやっとひと段落ついたわけだから、出迎えに来たのよ」


 紫木の言うあれからとは茜との戦いのことをさしていた。


 そしてあの日からちょうど一ヶ月が経つ。


 一ヶ月前の茜たちとの戦争に要たちは勝利を収めることができたが、同時に大きな壁も立ちはだかった。


 それは西日本軍にいたことが東日本軍に知られてしまったことだ。

 当然、要はすぐさま捕虜収容所に入れられ監禁状態となり兵士としても解雇させられてしまう。普通であれば一生を収容所で過ごし、そして昔の要であれば諦めていただろう。


 だが茜と出会い、種崎の言葉を受けた要は変わった。


 収容所にいる間、何回にも及び担当官との話し合いを申し出てどうにか現状を変えようとした。要の為すべきことのために、茜との約束を守るために諦めるわけにはいかなかった。


 それでも要の努力を無下にするように元西日本軍の言葉に耳を傾けることはなかったが、ある日を境に状況が一変した。

 それは第八部隊のみんなが東日本軍に進言してくれたからだ。


 一ヶ月前の要の戦績や、西日本軍との関わりがもうないこと、東日本軍にとって将来へのメリットなど、要のために動いてくれていたのだ。


 そのおかげもあり一ヶ月をかけて要は収容所から出ることができ、もう一度東日本軍に所属することができた。

 もちろん様々な条件は付いている。しばらくの間は監視がつき不要な外出は禁止、一週間に一度の審査などがあるが要にとっては戻ってこれたのだから些細なことである。


 今日はその収容所から出られた日であり、紫木たちとも一ヶ月ぶりに再会した。


「それで、一ヶ月の収容所生活はどんな感じだったんだい?」


 一ヶ月ぶりの再会でそのような質問をする黛がよく分からないが、おそらく興味がそこにあるのだろう。


「どうって……、まあ予想していたよりも扱いはマシだったかな。飯もうまいし寝るところもちゃんとあったし、これといって不満はなかったよ」


「へー、意外と東日本軍はしっかりしているんだね。西日本と比べてもよかったかい?」


「西日本で収容所に入れられることなんかないんだから分かるわけないだろ」


「それもそうか。あ、そういえば僕たちの階級が上がったのって知ってる?」


 要のことをあまり考えず自らのペースで話す。


「そうなのか? 知らなかったけど」


「一ヶ月前の戦績のおかげで僕と花宮と種崎の階級が一つずつ上がったんだよ。まあ僕たちのしたことの大きさからいえば当たり前だけどね」


 自慢げに喋る黛。


 黛の言う戦績とは茜たちを撃退したこともあるが、最も大きな理由はそのあとに攻めてくるはずだった西日本軍の大軍が攻めて来なくなったことだ。

 西日本軍からしたら敵に憑依文字持ちがいることがわかり状況が変わってしまったので不用意に攻めることができなかった。偵察部隊の情報からも今は攻めるべきではないと判断し、結果的に第八部隊のおかげで危機が免れた。

 だから主に戦績をあげた種崎、黛、花宮の階級が一つずつ上がったというわけだ。


 もちろん要のおかげも大いにあるが、元西日本軍であり、一度兵士から解雇されたので階級は軍曹のままだ。


「それだとより一層、種崎はめんどくさくなっているだろうな」


「かもしれないね。でも前とは少し変わった気がするよ。ね、花宮?」


 急に呼ばれた花宮は体を飛び上がらせる。


「えっ! えと……。わ、私も……四季ちゃんは、変わったと思う。……いきいき、してる感じ……」


 花宮がいきいきという言葉を使うのも珍しい。


「そんなに変わったのか?」


「実際に会って確かめたらいいんじゃないのかな」


 と、黛はわざとらしく言い、さらにこの場にいないのにも何か意図を感じてしまう。


「何を考えてるんだ、一也」


 要は目を細めて問うと、黛がニヤリと口角を上げた。


「要、デートの約束は覚えてるかい?」


「デートの約束?」


 急になんの話をしているのか分からずそのまま言葉を返してしまった。


 だが良からぬことだということは十二分に分かる。この黛の表情は楽しんでいる顔だ。


「そうだよ。一ヶ月前に種崎とデートしたよね。その時、僕たちと約束したじゃないか」


「だから何の約束だよ」


「デートをした証拠を持ってこないともう一度デートさせるって」


「………………あ」


 黛の言葉で完全に思い出し、心の中で頭を抱える。


 そういえばそうであった。最初は写真でも撮って証拠にするつもりだったがいざこざがあって結局は撮ることもなく終わってしまったのだった。

 まさかその約束が今やってくるのか。一ヶ月ぶりに外にも出られたのにすぐに種崎とデートしないといけないのか。


「い、いや、確かにそういう約束はしたけど、それは今じゃなくても……」


「約束は約束だからね、ちゃんと守ってもらうよ。まあ要は外出が禁止されているから、軍施設のカフェでしてもらうかな。そこに種崎もいるから」


 すでに種崎がいることにも驚きである。あの種崎が正直に受け入れるとは、確かに変わってしまったのかもしれない。


「マジで今から……?」


 すがるように要は聞くが、

「マジです」


 花宮が答えた。

 なんで花宮は要と種崎のことになると饒舌になるのか。いや、今はそれすらもどうでもいいと思える。まさか一ヶ月ぶりの東日本軍の生活が種崎とのデートで始まるとは予想もしていなかった。


 黛、花宮の視線が要に刺さりどうあがいても逃げられないことを悟る。


「はぁ……、マジなのかよ……」


「まあまあ、そう落ち込まず。今度はちゃんと証拠を持って来てね」


「ほんと、一也は第三者の立場から楽しんでるよな」


「僕の信条でもあるからね。ほら、種崎が待ってるから今すぐ向かって」


 黛は急かすように手で下から扇ぐ。


 要は肩を落としながら廊下を歩き出す。その後ろ姿はどこか悲壮感を感じさせる。


 そして要が去ると、

「紫木少佐」


 黛が紫木に言葉を向けた。


「どうしたの?」


「要って一年前の戦争で紫木少佐がなんで要を助けたか知っているんですか?」


 唐突に黛は切り出すが紫木は顔色一つ変えない。


「知らないよ。私がはぐらかしてるからね」


「別に言ってもいいんじゃないですか。一年前の戦争の時、瀕死から生き返った種崎が連絡をしたのが紫木少佐だってことぐらい。それで紫木少佐は要の憑依文字とかも知ることができたわけですし」


 紫木は一つ息を吸い込み、要の去った後を見る。


「私はさ、人一人の命を救ったんだから要も生きるべきだと考えたのよ。それにあの場所で要と出会ったのはほんとに奇跡だからね。要の憑依文字を見て種崎を救ってくれた人物だと分かったのも奇跡だと思うわ」


「じゃあ何で言わないんですか?」


「だって恥ずかしいでしょ。私のおかげで生きているって思われるのも嫌だしね。もしかしたら今も少しは思っているかもしれないけど、私のために生きてて欲しくないから」


 紫木の言葉に黛も納得した表情になった。


 おそらくこの先、要が知ることはないかもしれない。しかし要にとっても紫木にとっても今のままがいいのだろう。要が戦争を終わらせるという自分の為すべきことのために自分の道を歩んで欲しいと、紫木は微笑んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ