第二話 兵士は仲間と出会う
二人はしばらく歩くと、なぜか紫木は中庭に出た。そこは要が来るときに廊下から眺めていたところで、元々戦闘訓練をしていた二人は既にいなくなっている。
どうして外に出るのか、疑問に思っていると中庭の中央付近に三人の士官が立っているのが目に入る。
その三人に近づいていき目の前で止まると、紫木は要に向き左腕を三人を紹介するように広げた。
「はい、この三人が私の第八部隊に所属する隊員です。じゃあまず要……じゃなくて、千歳軍曹から自己紹介して」
急に紫木に振られ要は驚く。
「え、自己紹介ですか?」
「そうよ。私が喋るのはめんどくさいから」
このような状況で自己紹介というのはおかしい気もするが、上官の命令には従わねばならない。
しかし、改めてするとなると多少恥ずかしい気持ちになり、まるで小学校に転校してきたみたいだ。
「えーと、東日本帝国軍第八部隊へ配属された千歳要軍曹です」
恥ずかしさとやる気のなさで声に力はないが、一応敬礼をしながら軍人らしく挨拶はする。
すると三人のなかで一番背が低い女性士官が黒長髪をなびかせながら一歩前に出てきた。
「ねえ、あんた戦争経験はあるの?」
高圧的な態度と見た目的にも要よりかは年下に見えるのもあり、要は少しイラっとする。
「まあそれなりには」
雑な要の言葉でその女性士官はさらに一歩近づいてきた。
「上官に対してその言葉はないんじゃないの? あんた新人で、しかも階級は私よりも低いじゃない」
階級が要よりも上だということは知る由もなかったのに、ここまで言われ理不尽さを感じる。そして黙っている要ではない、精一杯の皮肉を込めて言い返す。
「上官だったら上官らしい言葉使いを心掛けてほしいんですけど。それに立場だけに驕っていると足元すくわれるんじゃないのか」
「なっ! またそんな言葉を……。私がその性根を叩きなおしてあげるわよ!」
「お、落ち着いて四季ちゃん」
突然、今にも殴りかかってきそうな女性士官を別の女性士官が抑えた。
「私達はその、同じ部隊なんだから、な、仲良くしないと……」
「舞花は甘いのよ。礼儀も知らないこんなやつ私達の部隊に必要ないわ!」
随分な物言いに要の苛立ちも増してくる。
初対面の人に対してここまでのことが言えるのかと、そしてこの部隊でうまくやっていけるかどうかも不安になってきた。
すると二人の女性士官の後ろから残っていた一人の男性士官が前に出る。
「ははは、やっぱり種崎は新しい人にはきびしいよね」
「うるさい。あんたは関係ないでしょ」
「同じ部隊なんだか関係なくはないと思うけど」
そしてその男性士官は要に向き直り、
「あー、なんかごめんね。入隊早々めんどくさいことになっちゃって」
「まあ大丈夫ですけど……」
もちろん内心は大丈夫ではないがあえて言わない。
「じゃあ僕も自己紹介させてもらおうかな。君と同じ第八部隊に所属している黛一也、階級は少尉だけど歳は君と同じ十七だから、タメ口で話してくれると嬉しいかな」
少しくせ毛かかった髪が特徴的な黛はにこやかに笑顔を向けた。
「ほら君達も自己紹介しないと。じゃあ次は、花宮から」
「えっ!」
急に呼ばれた女性士官は体を飛び跳ねるように驚く。初対面で恥ずかしいのか赤みがかった顔をすぐさま隠すように俯いた。
「え、えーと……、わ、私は、花宮舞花です……。その……よ、よろしくお願いします…………」
花宮の声は弱々しく発せられ、そして言い終わると急いでもう一人の女性士官の背後に隠れた。
「花宮の階級は准尉で歳は一緒の十七だよ。で、最後に種崎、君の番だよ」
黛はしっかり花宮のフォローもしつつ最後の女性士官に振る。だが当の本人は眉間にしわを寄せながら要を睨んでいた。
「なんであたしがこんな奴に自己紹介しなくちゃいけないのよ。その前に礼儀と規則を教えるべきよ」
「まあまあ、種崎が自己紹介しないと君の階級も分からないよ?」
「そ、そうだけど……」
黛の言葉で押し黙り、しばらく考え込む。そして諦めたのか視線を要に向け、
「分かったわよ、すればいいんでしょ。……私は種崎四季、あなたと同じ十七歳だけど階級は少尉だからちゃんと敬語で話すのよ!」
「え、俺と同じ十七歳?」
同い年ということに要は驚いた。見た目は明らかに要よりかは年下に見え、さらに花宮よりも年下に見える。
「なんでそこに驚くのよ! まさか、年下だと思っていたの?」
「普通に年下だと思ってた。生意気な奴だなーって」
「どっちが生意気よ! 上官に対してよくそこまでの口が利けるわね。ちゃんと士官学校に通っていたのかも怪しいくらいよ。紫木少佐、こいつの教育どうなっているんですか?」
こいつ呼ばわりに要の神経が逆撫でされる。
だが種崎は当然気にすることもせず紫木の方へ向く。
「あー、一応士官学校は出てるから安心していいよ」
「これで士官学校を出ているんですか? こんなにも失礼なのに」
失礼なのはどっちだよ、と思う要。
「まあ種崎少尉の気持ちも分からないでもないかな」
まさか同意するとは思わなかった。
「ですよね! それでしたらこの部隊から除隊を……」
「だから、君で判断するといいよ」
種崎は紫木の言葉の意図が分からず首を傾げる。
「それはどういう意味ですか?」
「私がわざわざ中庭を集合場所にしたのにも訳があるってこと。まあ、つまりはここで軽い実戦演習を行ってもらおうかなって」
「実戦演習ですか……」
「そ、二対二の実戦形式でやるやつ。そうだね、分け方は黛と花宮がチームで種崎とかな……千歳がチームでやってもらおうかな」
「…………えっ」
あまりにも突飛な提案に種崎は固まってしまった。
「ん? どうしたの、種崎少尉」
「わ、私とこいつがチームですか?」
「そうだけど。何か不満でも?」
「な、なぜこいつと組むんですか? 別に舞花とでも……」
「んー、なんか君達仲悪そうだから。部隊は基本、一緒に行動するから早めに仲良くなってほしいし」
「で、でも……」
どうしても納得がいかないのか種崎は渋る。
ここまで嫌がれると要も組みたくはなくなっていく。
すると要と種崎の顔が曇っていくのを見て紫木は一つの提案をする。
「あー、じゃあこうしようかな。勝ったチームの方が負けた方に一回だけ何でも言うことをきかすことができるっていうのは。いい案だと思わない?」
なぜかそれで納得すると思っている紫木。
一体どこがいい案なのか、余計にしたくなくなるだけではないのか。
さらにやる気が無くなる要をしり目に紫木は上機嫌になっていく。第三者の立場からなら面白いからだろう。
そしてなぜか黛も乗り気になる。
「とてもいい案だと思いますよ、紫木少佐。何か負けたときのペナルティがないとやる気がでませんからね」
「なんでそんなやる気なんだよ……」
要は思わず心の声が漏れてしまった。
「んじゃ、二手に分かれて。私の合図で始めるから」
急に始まった実践演習のために紫木の声で渋々要と種崎は黛達と反対側で陣取った。




