第二十八話 不死身の兵士は戦いを終わらせる
要は倒れた茜をじっと見つめ、種崎も地面に横たわりながら茜を見る。
長かった戦いに終わりが見え、静寂に包まれた空間に一つの音が響いた。
「……焔ノ型、炎狐之羽衣」
呟いた声から茜の傷口は一気に燃え、茜を中心に青い炎を舞い上がる。
「うそ、だろ……」
要の顔が徐々に絶望に染まっていく。
あれだけの一撃をもらってまだ戦えるのか。意識が飛んでもおかしくない血の量なのに、一瞬で焼いて塞いだというのか。
「今のは……、本当に痛かったわ」
身体を起こし茜は突き刺すよう眼光を向ける。
「まさか要の能力を使って炎が無くなるとは思わなかったわ。でも、それも一回だけ。……次で終わらしたあげる」
茜の両手に炎が集まっていき、要の頬に汗が流れる。
種崎は一歩も動くことができない状態でどうすればいい、種崎を連れて一旦引くべきか。いや、そんな時間はない。それにどこにいようが茜には関係ない。ならどうすれば……。
と、思考していた要の右足の裾が引っ張られていることに気がつく。
要は下を向くとそこには傷だらけで動けなくなっている種崎が真っ直ぐ、絶望などしていない表情で見ていた。
「何を、しているのよ……」
声を出すのもやっとであるかのように、弱々しく発する。
「この戦い、あんたが終わらせるんでしょ……。だったら悩んでる暇なんか、無いでしょっ……!」
声に力も覇気もない、ただ目だけで要に伝えている。
それでも、たったそれだけで前を向くには十分だった。
一度だけではなく二度も種崎に気づかされるとは、つくづく種崎は強いと思わされる。
「行きなさいっ……! この戦いも、一年前の戦争も……、あんたが終わらせるのよっ!」
種崎の声に要は力強く一歩踏み出す。
「……ああ!」
もう過去には囚われない。種崎も茜も、東日本も西日本も、助けれるもんは助ける。
そしてこの戦いを終わらせる。
後ろを振り返らず要は茜に走り出した。
「要でも、もう手加減しないわよ!」
向かってくる要に茜は両手の炎を鋭く尖らせる。
「焔ノ型、双刃炎舞!」
一振り、茜の右手が振り下ろされ要は既のところで躱す。すると炎の刃は地面を焦がし縦に亀裂が入った。
「まだよっ!」
茜は要に攻撃する暇を与えないよう素早く二振り目が要を襲う。
「やっぱり、避けるのにも限界があるか……」
呟いた要、それは回避することをやめたことを意味していた。
そして茜の左の刃が要の右肩を焦がし裂く。
「ぐっ!」
鈍く焦げる音が響き刃の勢いによって地面に血が叩きつけられる。
血が吹き出すのが分かる、痛みが頭を刺激するのも分かる。だが、諦めるわけにはいかない。
光の粒子が右肩を覆い、要は猪突猛進するよう茜に突っ込む。
「それはさっき私には効かなかったでしょ!」
茜は要の行動を読んでか両手を振り、要の体に十字が刻まれる。
「がはっ……!」
要は血を吹き出し、走る足を止めてしまった。
先の様に突っ込んでいくだけで茜に近づくことができないことは要も分かっている。だが、それ以外方法が無いことも事実だ。
「だっだら!」
要の右肩の憑依文字が一瞬光り、もう一度茜に向かっていく。
「何度やっても同じよ!」
茜の右の刃が振られ要の左肩を裂き、同じように血が舞い散る。
だが、要の顔に変化はなく痛みによる声も上げない、まるで傷をつけられていないように気にせず近づいていく。
「なっ……!」
茜の右手にはしっかりと感触があったはずだが、何も動じない要に茜は戸惑いを見せてしまう。
「まったく……」
茜は再度、近づけさせまいと左の刃を下から上に振り上げる。そして要の腹は引き裂かれ赤い鮮血が宙を舞う。
しかし、またしても要は顔色一つ変えない。ただ何も気にせず茜に突っ込んでいく。
どうして止まらないのか、いくら傷が治ろうが痛みで立ち止まってもおかしくないはずだと、茜が考えた瞬間一つの答えが導かれた。
「まさか、痛覚を無くしたの……!」
茜は理解した。
痛みによって近づくことができないのならそれを無くせばいい。痛覚がなければ傷ついたことも分からず、さらに傷は憑依文字によって無くなる。
要にしかできない、要の憑依文字が無ければ取ることのできない無茶苦茶な行動だ。
「茜!」
「ぐ、紅蓮ノ型、火杓!」
眼前に迫った要に茜は慌てて距離を取ろうとし、体から炎を纏った爆風を放つ。茜を中心に青い炎が辺りを焼き尽くし、要は至近距離からもろに焼かれてしまう。
だがしかし、
「……俺は、お前を倒すっ!」
炎を破るように現れ要は茜に迫る。
肌は焼かれ、肉は血を滴り、片目が焦げようと愚直に突き進む。
決起迫る要に茜は一歩下がるがこの距離で逃げることなどできるはずもない。
要はこの戦いを終わらせるため右手を振りかぶる。
「これで終わりだぁっ!」
弧を描き焼け爛れた要の拳が炎を裂き、茜の左頬に直撃する。
「ぶはっ!」
炎の衣を破られた茜の体は宙を飛び、青い炎が離散する。
空中に炎を撒きながら、そしてそのまま背中を地面に強打した茜は天を仰いだ。




