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第二十七話 兵士は仲間を信じる


 茜は真っ直ぐに要を見据え、右手に炎が集まる。


「な、何でだよ? 茜だったら分かってくれるだろ?」


 突然牙を向けてきた茜に要は理解できない。


「嫌っていうほど分かっているわよ。あなたが為すべきことも、それができてしまうと思ってしまったことも。……けど言ったでしょ、私はあなたの壁になるって。私を乗り越えられないくらいじゃ、戦争を終わらせるなんてできないでしょ」


 茜は自棄になっているのか。いや、表情からそうなっているとも思えない。どこか決心したような、まるで要がこの戦いを終わらせると決めた時のように覚悟を持っている。


「ぼーっとしてる暇なんかないわよ」


 思考していた要だったが、茜の右手から今にでも炎が放たれようとしていた。当然、狙いは動くこともままならない種崎である。


「ま、待てっ!」


「嫌よ。私はあなたの……、東日本軍の敵だもの」


 茜を止めることはできない。そして走ってもこの距離では間に合わない。


「くそっ」


 そのことを悟ると、要は右手の刀を振りかぶり茜に向かって突き刺すように投げる。


 東日本軍にとって再備装衣を放り投げるなど自ら死地に追いやることだが要には関係ない。憑依文字を持っている要にとってはただの武器だ。

 一直線に刀は向かい、茜は右手を引きながらその場から避けると茜が元いた位置に刀が突き刺さる。


「さすが要ね」


 種崎から少し距離ができたが茜にとってはどこにいようが関係ない。茜の憑依文字ではどの位置からでも攻撃できてしまう。


 だから茜に攻撃できる隙を与えない。

 要は一度種崎を見ると種崎もこちらを見ていた。やはり動くことはできそうになく、要は刀を拾いに行かずそのまま茜に走りだす。再備装衣がなくても憑依文字の能力によって無理やり引き上げた身体能力で茜に素早く間合いを詰めた。


 しかし、それは同時に無防備な体を晒すことにもなってしまう。


「いくら死なないからって、それは無意味なんじゃないの」


 茜は右手の炎の爪を振りかぶり、武器を持たない要は左腕を曲げ直で受け止める。


「ぐあっ!」


 肉が焦げる音が低く響き左腕が一瞬で燃える。そして血が弾け飛び皮膚の下の肉が露わになってしまう。


 それでも要は右足を踏み込み飛ばされまいと耐える。ここで離れては種崎に攻撃させてしまう。


「もう、あいつを傷つけはさせねえ……」


 苦悶の表情になりながらも左腕が光の粒子に包まれ傷が無くなっていく。


「なるほど、捨て身の攻撃で私を抑えるつもりなのかしら」


「んなわけないだろ。俺たちはお前を倒すつもりだ」


「面白い冗談ね、できたこともないのに」


 茜の声とともに青い熱風が空気を焼き要に襲う。


「がはっ」


 至近距離からの炎に要の体は焼かれ炎に包まれる。


 だが、それでも一歩も引かない。引くわけにいかない。

 炎を振り払い要は右手を振りかぶる。


「まだっ!」


「甘いよ」


 振られた右手だったが容易く茜の左手にある炎の爪で防がれてしまう。当然、要の右手は焼け焦げ血がダラダラと地面に落ちる。


「っつ……」


「身体能力の差もなくなっているこの状態で、今の私に勝てるわけないでしょ。そんなんだと戦争を終わらせることも、私を止めることもできないわよ」


 過去の茜とは違う。昔であれば身体能力で翻弄することもできたが炎の衣を纏っている茜には通用しない。


「それでもっ……!」


 要は右手をのけると傷の無くなった左手で反撃に出る。


 しかし、やはり簡単に防がれてしまう。


「!」


「どうしたの? こんなもので私を倒すつもりなの?」


 炎の爪の一振りが要の体を抉るよう無慈悲に振り下ろされる。


「がぁはっ!」


 胴を削ぎ取るように刈られた体から無残に血が吹き出し、そして口からも血が溢れる。


 痛みから気が失いそうだ、目の前もぼやけて見える。


「まだだっ!」


 痛みに集中しろ、能力を発動しろ。ここで倒れるわけにはいかないはずだ。


 光の粒子が体を包みながらも要は倒れまいと気を確かに持つ。そして繰り返すように反撃に出る。


 だが同じである。


 要の攻撃は全て防がれ、茜の攻撃が要を襲う。あたりに光の粒子と青い炎が撒かれながら、さらに血を撒き散らしながら何回も繰り返す。

 要の上半身の服はほぼ燃えてなくなり、側から見ればサンドバックのようにやられ放題である。


「もしかして持久戦に持ち込んで私の疲労を誘っているの?」


 要の行動は茜からしたら無茶とも思える。いくら憑依文字のおかげで傷が無くなったとしてもそれで勝てるわけではない。だとすると茜の体力を削る作戦だと考えるのが妥当だ。


 そして茜の問いに要は答えることはなく、ただ同じことを繰り返す。殴りにいっては防がれ、殴られては足を踏み込み耐える。そのおかげと言うべきか確かに茜は種崎に気を向ける隙がない。


 要の理解できない行動に次第と茜の顔色も変わっていく。


「……ほんとにめんどくさいわね」


 少しの苛立ちを含みながら茜は要を見る。


 と、茜は要の目線が時折外れていることに気がついた。


「どこを、見てるの……?」


 要の必死の抵抗のせいもあり要の視線の先がどこに向いているのかが分からない。


 しかし茜の中である程度、推測はできた。

 動くことのできない種崎を見ているのか再備装衣の位置を確認しているのかぐらいである、ならば目の前の要に集中するべきだと茜は考えると、

「!」


 突然、要は茜の右手の反撃を左腕と脇腹を使い挟むように捕まえた。


「こんなものっ!」


 思わぬ出来事に茜は驚いたものの振り払おうと炎の爪の火力を上げる。


「ぐっ!」


 挟んでいる左腕と脇腹は焼かれ要は痛みに顔を歪めるが、それでも離さない。


「まだっ……!」


 その姿は執念を感じさせ、昔からの付き合いから茜は危機感を覚える。


「何をするつもりなの……」


 このままでは膠着状態が続くだけであり茜は要の意図が分からない。けれども要が何かを仕掛けようとしていることは分かっている。


 すぐに茜は空いている左手の炎の爪で薙ぎ払おうと振りかぶった瞬間、

「ったく、遅えんだよ」


 要の声と同時に一つの影が茜の視界に映る。


「まさか!」


 慌てて茜は見上げると、

「はあぁっ!」


 空高く頭上から種崎が斬りかかろうとしているのが目に入った。


 動くこともできなかった種崎が何故いるのか、さらに両手には要の再備装衣の刀が握られており茜の頭の中に疑問が溢れる。


 しかし今の茜には考えている余裕はない。


 種崎を迎え撃つため薙ぎ払おうとしていた左腕を頭上に向ける。


 そして、要はこの時を待っていた。


「……悪いな、茜」


 低く要は発し、次の瞬間には茜の纏っている炎の全てが無くなった。


「えっ……!」


 あまりにも突飛なことに何が起きたか分からず茜は呆然としてしまう。だが茜を現実に戻すかのように頭上で刀が淡く蒼色に光った。


 炎を無くした茜、それでもどうにか回避しようと空いている左手を使おうとするが、先の要の一撃によって左腕が言うことをきかなくなっていた。


「やばっ……」


「くらいなさいっ!」


 空から振り下ろされた刀身が茜の体を切り裂く。


「がっ、はっ……!」


 胴体から縦に血飛沫が舞い散り血を吹き出す茜。

 そして振り下ろした種崎は全ての力を出し切ったように受け身を取ることなく地面に倒れた。



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