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第二十三話 兵士は過去を振り払い、未来に進む


 要は諦めた。だからこそ茜にこの手を引いてもらいたかった。


 だが、茜は腕を組みながら一向に手を取ろうとはしない。


「な、何してんだよ、茜」


 なぜ何も行動を示さないのか、要としては茜が答えに渋る意味が分からない。


 要が当惑していると、茜は大きくため息をついた。


「はあー、私は勘違いをしていたみたい。彼女が要を変えたんじゃなくてあなた自身で変わってしまったのね。……いや、一年前の真実があなたを変えてしまったのかな」


「何を言って……」


「まったく要は。……言いたいことはたくさんあるけど、そこの女性の言葉を借りるなら、あなた馬鹿じゃないの」


 普段は言わない言葉が向けられ要は目を丸くしてしまった。


「ば、馬鹿って……」


「何もかも一人で抱えようとしすぎだし、どこか悲劇のヒーローぶっているところも馬鹿みたい。自分を犠牲にすれば解決するとでも思っているようだけど、あなたの為すべきことはどうするの」


「それは……」


 為すべきこと、それは東日本と西日本の戦争を止めること。


 西日本にいる頃、要は自分の夢のように茜に話していた。茜にとっては何回も聞かされた話だが、決して無理だとは言わなかった。

 だからこそ昔の要のようにいてほしいと茜は思う。


「あなたは諦めたの?」


「俺だって……! 俺だって諦めたくはない! けど……他に方法がないだろ」


「だから西日本軍に戻ってくればいいでしょ」


 同じことを言う茜に要は口を開こうとしたが、

「勘違いしないで、過去のことを忘れろっていうわけじゃないの。それを含めてあなたは前に進むべきなのよ。あなた、戦争を終わらせるつもりなんでしょ。だったら一つや二つの壁を乗り越えていきなさいよ」


 変わっていない、要の知っている昔の茜のまんまだ。東日本と西日本との戦いを終わらせる馬鹿みたいなことを受け止めて信じてくれている茜がそこにいる。


「ちょっと! 勝手に話進めないでよ!」


 急に、耳に残るあの高い声が響いた。


「私を除け者にしたままこいつを連れて行くなんてさせるわけないでしょ!」


 種崎は茜と要の間に立ち鎌を向ける。


「あら、もしかして嫉妬しているの?」


「なっ! そ、そそ、そんなわけないでしょ! ば、馬鹿じゃないの!」


 余裕の笑みを浮かべる茜に対して、種崎は顔を赤く染めて必死に反論した。その様子からどうやら茜の方が一枚も二枚も上手である。


 すると種崎はくるりと反転し要に向き直り、要の右肩にある憑依文字に視線を落とした。


「まさか、あんたがあの時の西日本軍の兵士だったなんてね」


 種崎はもう驚きはしなかった。


「……隠してて、悪かったと思う」


「だから、その感じ気持ち悪いって言っているでしょ、どんだけ卑屈になってるのよ。仮に一年前の真実が知られてもあんたを責めるやつなんていないわよ」


「そんなこと分かんないだろ」


「気にしすぎなのよ、あんた。…………でも、まあいいわ」


 種崎はもう一度茜に向き直る。


「あんたに借りを作っておくのも癪だから、今度は私が助けてあげるわよ。あの時、知らなかったとはいえ傷つけるようなことも言ってしまったから」


 種崎は鎌を持ち直し茜に対峙する。


 要よりも身長が低い種崎の背中だが大きく感じる。


「それとあんた一年前、私を助けた時に言ったわよね。『今助けれるもんは助ける』って。だったら、今助けれる自分も助けなさいよ。あんたはまだ死んでいないでしょ」


「種崎……」


 その言葉で要は大事なことに気づかされた。


 もう自分に生きる道はないと自分自身で勝手に決めつけ勝手に諦めていた。


 だが種崎と茜は違った。


 二人は微塵も要を憎んではいない、一年前のことに縛られてもいない。要が思っていたよりも種崎と茜は強く、要を信じている。


「さっきの言葉を返すようだけど、話を進めないでよ」


 種崎に対峙している茜が口を開いた。


「要は西日本軍に戻るんだから」


「ふざけないで。こいつは東日本にいるんだから渡すわけないでしょ」


「ふーん。そんなに要が奪われるのが嫌ってことは、もしかして要のことが好きなの?」


「なっ! ち、ち違うわよ! 言ったでしょ! こいつに借りを作りたくないだけって! な、なんで私がこいつをす、好きになるのよ!」


 二人のやりとりに自然と要は口元が少し緩んでしまう。


 自分を信じてくれている人が東日本にも西日本にもいるのに、裏切ることなんてできない。

 茜に言われた通り、過去の過ちをしっかりと受け止めて前に進み乗り越えればいい。

 種崎に言われた通り、まだ死んではいないのだから自分で自分を助ければいい。


 自分の居場所があると二人は言ってくれたんだ。


「ったく、お前らは……」


 要はゆっくりと種崎の横に並んだ。その目に迷いや不安はない、心の内の黒さも消え去っていた。


「お前らがそんなんだと、俺も諦めるわけにはいかなくなるだろ」


 要の一言で茜にも笑顔が戻っていく。


「やっと要らしくなったわね」


「今の俺は東日本軍に所属している敵なのに、塩を送るようなことをしてよかったのか?」


「要は西日本軍に戻ってくるから、全然構わないわよ」


「だからそれはさせないって言っているでしょ!」


 すぐさま種崎が口を挟んだ。


「それはあなたが決めることじゃないでしょ。……ま、私にも言えることだけど。それで、要はこの戦いをどうするつもりなの?」


 茜の質問に答えは決まっている。この戦いも、東日本と西日本の戦争も終わらせると決心したのだから。


「俺は……」


 種崎と茜は静かに耳を傾ける。


「俺は東日本軍としてこの戦いを終わらせる」


 要の言葉は未来に向けられ、瞳は過去を振り払っていた。



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