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第十九話 兵士達は「斥」を退ける


 男の背後から一つの声が響く。


「さっきの続きだけど、君の二つ目の弱点だよ」


 人を小馬鹿にしたような黛の声、男にもその声は鮮明に聞こえた。しかし花宮のせいもあり振り向くことができない。


 だが男は黛を警戒はしなかった。すでに動ける状態でもなく右腕は折れており銃も握れない。反撃してくることは不可能であり、もしできるのならもっと早くしていたはずだと男は考える。


「あれ? 僕は無視かい?」


 男は気にかけている余裕はなく言葉を返さなかった。


「まあ無視するのは僕にとってもありがたいけど、じゃあ勝手に話を続けるね。……君の二つ目の弱点は、斥力が自分にも返ってくることだ」


 黛の言葉で男に焦りが表れ、花宮が少し押し込む。


「どこで気づきやがった……」


 黛には向かず言葉だけを男は投げかけた。


「僕は考えてたんだ、なんであんなに早く移動できるのかなって。だって斥力で物を飛ばすだけなら自分には影響ないはずだよね。でも君は高速に移動できる。なら、空気に対して能力を使い自らを飛ばしていることになる。でもこれだと君は能力を使うたびに自分も反発で飛んでしまうんだよね。でも実際は飛ばされない。それはなぜか?」


 問いかけに男は黙り込む。それは花宮を抑えるのに精一杯だからなのか、黛が真実を述べることが恐いのか、しかしそのどちらにしても黛には関係ない。


「今もそうだけど、攻撃するときは片手でしかしないよね。残った手は絶対に反対に向けて飛ばされないように能力を使っている。まあ、手のひらがお互いに反対に向いていたら両方攻撃できるけど」


「だったらどうした! 死に損ないは黙って寝と……」


 男はついに首だけを黛に向け、そして言葉を切ってしまった。

 男にとって最悪な光景がそこにあった。


「てめぇ……」


 男の声が弱く発せられた先に、黛がうつ伏せでマスケット銃を構えていた。


「敵に背後を向けるなんて愚の骨頂だよ」


 左手だけを支えに銃口を男に向け、その姿に一筋の汗が男の頬をなぞる。


 だが、まるで作り笑いのように笑い出す。


「は、ははは……。よく考えればてめえの銃は効かねえんだったな。大人しくそこで寝とけ」


「言わなかったけ? 僕の全力はあれだけじゃないって。でも全力の銃弾を込めるのには時間がかかるから撃てなかったんだけど、君が花宮に注目してくれてよかったよ」


 それは黛の作戦通りであった。

 初めは黛だけを注目させ一度やられる。そして黛がやられているところに忘れられている花宮が現れ今度は花宮に注目させる。最後に黛を頭の中から選択肢としてなくなっている男に一撃を加える。


「限界を超えた攻撃を食らったら一体どれだけ自分に返ってくるのか。ちなみに僕の全力は花宮の一撃をも上回るから気をつけてね」


「そんなわけ……」


 花宮に抑えられ逃げることができない男は否定することしかできない。


「本当かどうかは味わってみるといい。それに言ったよね? 最後に僕の銃で君を撃ち抜くって。人の忠告はちゃんと聞くべきだね」


 引き金に黛の指がかかる。


「ま、待て……」


「これが僕の全力だよ」


 瞬間、空気が破裂する音が響き、辺りは弾け飛んだ。


 巨大な空気の銃弾は地面を抉りながら男の左手に直撃する。


「ぐっっ!」


 男の左腕に凄まじい衝撃が走り、右足を踏み込み既のところで耐える。

 さらに男の右腕を抑えていた花宮は退避しており、巻き添えにすることもできない。


「クソ野郎どもがっ!」


 耐えているのもやっとであるのは誰が見てもわかるほどであるが、男はそれでも殺意を向ける。

 黛自身も衝撃で飛ばされ地面に横たわっており、これで本当に指一本動かすことができない状態になった。


「ぜってぇ許さねえ! てめえらは俺が、殺す!」


 じりじりと後ろに下がりながらも必死に男は叫ぶ。


「まったく、どこからそんな声が出るのか……。でも、終わりだよ」


 黛の言葉通り男の左腕全体を痛みが覆い、上半身が後ろに反り顔が歪む。


「クソ! クソ、クソ、クソがぁ! 俺がこんな、こんなガキどもにぃ……!」


 男の人差し指が音を立て逆方向にへし曲がり、さらに続いて小指も折れ曲がる。右足が地面にのめり込むが、逆に耐えることによって限界を迎えた能力で左腕が壊れていく。


 そして、壊れた左腕では耐えることなどできない。


 男の左腕が手首から折れると、ついに空気の銃弾が男に直撃する。


「っ!」


 それは一瞬であった。


 男の声が聞こえないほど消えるように飛ばされ、残った微風だけが漂う。

 黛は仰向けの状態で男を確認した。いくら憑依文字所持者であろうとあれだけの衝撃をくらってはただでは済まない。たとえ死ぬまではいかなくても戦闘を続けるのは不可能だ。


 一つの任務を終え安堵からか黛は空を眺める。


 すると、黛の視界に花宮が覗き込んできた。


「ま、黛くん……」


 花宮はしゃがみこみながら心配そうに黛を抱えた。


「いやー、心配かけてごめんね。でもどうにか勝つことができたから、ほんとよかったよ。二対一で勝ったんだから周りに自慢できるレベルだね」


 いつもの軽口に何故か花宮は少し涙ぐむ。


「え! ちょ、ちょっと花宮、どうしたんだい?」


 長年一緒にいる黛でもなぜ花宮が涙ぐむのか理由が分からず、珍しく慌てふためく。


「……まゆ、ずみくんが…………、や、優しいから……。私に、怪我をさせ、ないように……さ、作戦も考えて……、そのせいで、こ、こんなに……」


 ところどころ掠れた声で言う花宮の顔を見て黛は理解した。


「あー、そういうこと。それは花宮が責任を感じる必要はないよ。僕は敵に勝つための最善の策を選んだだけだから、この怪我も必要なものだったし」


「で、でも……」


 花宮は分かっている、黛が自分を犠牲にして花宮を危険から遠ざけていたことを。だからこそ心痛の念でいっぱいになる。


 花宮は言葉を発さないが、表情から黛は心の内がわかった。


「……じゃあ、そうだね。帰ったらパフェでも奢ってくれるかな」


 突飛なことを言う黛に花宮は目を丸くする。


「え……」


「この前、種崎が食べているのをみて美味しそうに見えたんだよね」


 いくら口で気にするなと言っても気にしてしまうのが人である。だから黛は一つの提案をした。こういう時は何かしらの代償を払えば気持ち的に楽になるものだということを黛は知っている。


「この戦いが終わったらでどうかな?」


 花宮は小さく頷いた。


「よし、じゃあ決まりだね」


 黛は膝に手をつきながらフラフラと立ち上がる。


「ま、まだ、休んで……ないと……」


「大丈夫だよ。要や種崎に紫木少佐も気になるし、休んでるひまなんかない。特に要たちの元に救援に行かないと」


 歩き出す黛だが、急にガクッと片足が崩れる。


「危ない」


 崩れ落ちる瞬間に花宮が肩を支えどうにか倒れずに黛は済んだ。


「あはは、また花宮に助けられたよ」


「む、無茶しちゃ……だめ……」


 黛は笑顔を向け花宮に支えられながら二人は歩み出した。



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