第十八話 兵士達は反撃に出る
「さっきから何こそこそ話してんだよ。どうせ勝てねえくせによ」
不意に男の声が聞こえ見ると、自分の左腕の痛みが引いたのか男は黛たちに対して構えていた。
「残念ながら僕たちが勝つ作戦を思いついたところだから、君は負けるよ」
「一番怪我してるやつが何言ってんだよ。てめえの攻撃は一つも効いてねえのによ」
「なら予告しておこう」
黛は口角を上げ銃を男に向ける。
「最後に僕の銃で君を撃ち抜く、それでお終いだ」
男は聞き間違いを起こしたように一瞬固まる。そして黛の言葉を理解したのか右手で頭を抱え笑い出す。
「は、はははははは! 戯言も行き過ぎると面白いもんだな。てめえみたいな雑魚の銃が俺を撃ち抜くなんてありえねえだろ」
「あれ、でも君の頬についている傷は僕がつけたやつだよね。君の言う雑魚の銃を受けている君は僕よりも下ってことになるのかな」
「ほざくなよ。俺の攻撃は喰らいまくってるくせによ」
「いやいや実際、君みたいに単細胞で沸点が低いと扱いやすくて行動が読めるからね。僕としても嬉しい誤算だったよ」
「なんだと……!」
黛の言葉についに男は苛立ちを見せる。
「ほら、やっぱり」
男は怒りをあらわにしながらゆっくりと右手を黛に向けた。
「どうしてもてめえは一番に死にてえらしいな……」
睨みつけるように黛に狙いを定め、言い終わると同時に右手から荒れ狂う暴風が吹き放たれた。空気を裂き黛と花宮に向かっていくが、二手に分かれ避け黛は銃口を構える。
「行って、花宮! 僕が援護するから」
黛の掛け声とともに花宮は力強く踏み出し男に近づいていき黛も射撃する。しかし男の手のひらが黛に向いており効いていない。
だが、これでいい。黛の攻撃を防ぐには一つの手を使う必要がある。そして花宮に対しては片腕だけで対処しなければならない。さらに黛も移動しながら撃っているため男は向きを変えながら防ぐ必要がある。
黛のおかげもあり花宮は男に一直線に向かい斧を構える。
ところが男は不敵に笑う。
「あー、無駄な作戦だな」
次の瞬間、黛の体が後ろに吹き飛んでしまう。
「がはっ」
男は手の平から斥力により空気を飛ばし黛の銃弾もろとも吹き飛ばした。
「はははは、てめえの銃なんかいつでも破れるんだよ!」
男の笑いがこだまする中、花宮は一度黛の方へ視線を配る。しかし黛の作戦を遂行しなければならない。そうしないとやられた黛が報われない。
すぐに男の方へ向き直り斧を振る、が男が花宮を睨みつけた。
「てめえもだよ」
「!」
花宮の振られた斧に男は触れようとはせず体を反らし避けた。
「馬鹿力女の攻撃にはわざわざ触れる必要なんかねえからな」
男は花宮が振りかぶってできた隙に右手を伸ばし花宮に触れる。
「あばよ」
「きゃっ」
触れられた瞬間、花宮は黛の視界から見えなくなるまで大きく飛ばされてしまった。
「これで邪魔者はいなくなったな。存分にてめえをいたぶれるってもんだ」
男は立ち上がろうとする黛を見る。
今、この場には男と黛だけになってしまった。紫木の言葉を守るなら黛は一目散に逃げなければならない。しかし黛が全力で逃げたとしても男は容易く追いつくことができるだろう。そして黛の攻撃は男には効かない。
逃げることも倒すこともできない状況になってしまった黛だが、表情は絶望していなかった。
「それはぜひ遠慮願うけどね」
「やっぱてめぇはムカつくな……。ヘラヘラしやがって、自分の置かれた立場がわかってねえのか?」
「十分に理解しているよ、とても危険だってことはね。でも僕は負けるつもりは毛頭ない」
「どっからそんな風に思えるのか教えて欲しいくらいだな」
男は言い終わると、瞬時に黛の目の前に現れた。
「くらいやがれ!」
男の右手が黛の右脇腹に触れ激しく黛は飛ばされてしまう。
「ぐはっ」
土煙を上げながら地面を転がり、勢いに逆らえずゆっくりと止まった。
左手を地面につきボロボロな黛は汚れた顔を男に向ける。内臓をやられているのか口からは血が流れ痛みに顔を引きつらせる。
見た目からもすでに黛の体は限界を迎えている。何よりも男の攻撃を受けすぎた。反撃に出る力など残っておらず、引き金を引くことぐらいしかできない。
それでも黛は口角を上げいつもの表情を崩さず、銃を地面に突き立てながら立ち上がる。
「いたた、これだと骨もどこかやられているかも。……けど、君は飛ばすことしか能がないのかな。同じことしかしてないけど」
黛は懲りずに挑発するが男はもう怒りはしなかった。勝負は決まっているのも当然であり、負け犬の遠吠えにしか聞こえない。
「なんだ? 近くでいたぶって欲しいのか?」
「君にそれができるのならね」
「だったら……」
男は黛の言う通り目の前に一瞬で移動する。
「お望み通りここでいたぶってやるよ!」
今度は地面に叩きつけるように男は腕を振りにいく。黛は目では追えても体が反応できず、押さえつけられるように右手が触れると目にも留まらぬ早さで地面に衝突する。
「がっ……!」
あまりにも激しすぎたため声も出ず、黛の体が跳ね上がった。その体を男は押さえつけるように右足で踏みつけ、冷たく見下ろす。
「さてと、あとはどうやって嬲り殺してやろうか。散々舐めた口聞いてたからな」
黛は咳き込みながらも薄く目を開け男を見る。
「ごほっ、ごほっ……。ぼ、僕は真実を言ってただけど、特に君が単純だってこと、とか」
小馬鹿にする黛に男の眉がピクリと上がる。
「そういうのが舐めてるって言うんだよ!」
怒りに任せ男は黛の右腕にしゃがみながら触れる。
そして、ボキッと歪な音が響いた。
「がっ、ああぁぁあああ!」
黛の悲痛な叫びがこだまし、右腕を退けようとするが男の憑依文字のせいで一つも動かすことができない。さらに腹の上からは足で押さえつけられ逃れられず、大量の汗が流れる。
「ははははは、もっと泣き叫べよ! 俺をバカにしたんだからこれだけで済むと思うな!」
男は触れている手を離し顔を上げ、さらに強く足を押し込む。
「おら、どうした? 俺を撃ち抜くんだろ、その折れた腕でよ」
足を左右に捻り押し付け、黛は荒い息を吐きながら男を見る。
「はぁ……はぁ……、き、君には二つ……弱点がある」
「あぁ?」
意味のわからないことが聞こえ男は眉をひそめた。
「何言ってんだよ、急に。仮にてめえが今それを知ったとこで意味ねえだろ」
「そうでもない、かな。それに……これは僕の持論だけど、完璧な憑依文字はないと思っているから」
声に力強よさはなく、いつもの表情は消えていた。それでも目だけは死んでいない。
「てめえの持論なんか知るかよ。それよりも命乞いの言葉とか考えてる方がいいだろ。まあ、何言っても限界までいたぶって殺すけどな」
「それは……、できないかな」
「はっ、だったら証明してみろ」
男は右手を黛の顔面に向ける。
黛は一瞬男に向けていた視線を外し別の方へ向けるがすぐに戻した。
「じゃあここは僕らしく証明しようかな。……まず君の弱点一つ目だけど」
そして黛は口角を上げた。
「君の斥力にも限界があるってことだよ」
言葉と同時に男の視界に影が目に入った。
「!」
男は慌てて振り向くとそこには、
「え、えい!」
花宮が全力で斧を振り下ろしてきていた。
「なっ!」
黛に乗せていた足を退け男はすぐさま右手で斧を防ぎにいく。
斧と右手が触れると無音の衝撃が走り、男の手が震える。
「てめぇ……、いつのまに戻ってきやがった……!」
顔を歪ませ必死で耐える男に対して花宮も歯を食いしばり押さえつける。
「クソが!」
苛立ちを含ませ男は吐き捨てた。それは男の脳裏に黛をさっさと殺しておけばという後悔が浮かんだからだ。もし黛に気をとられていなけばこのようにはならなかった……、と考えた瞬間に一つの答えが導かれた。
「……だからあんなに俺を挑発していたのか!」
黛が今まで散々バカにしたように男を挑発していたのは自分に注目させこの一撃をくらわせるためだった。
まんまと黛の作戦に引っかかり花宮に気づけなかった自分に男は余計に苛つく。
「舐めんじゃねえぞ! てめえの力なんか俺の斥力で弾き返してやるよ!」
額に血管を浮かばせ男はじりじりと押し込んでいく。
「わ、私が……」
だが花宮も押し切られまいと足を踏み込み耐える。
「クソ馬鹿力が……、なんで飛ばされねえ! 俺は憑依文字を使ってんだぞ! てめえはただの人のくせによ!」
「私が……、こ、今度は……守る、から」
「その前に俺がぶっ殺してやる!」
どちらも引かず一進一退のせめぎ合いをし、二人の額にも汗が流れる。
その状況に背後の黛が口角を上げた。




