第十一話 兵士はデートをする・続
そしてしばらく歩くと今度は服屋に入っていった。種崎が今着ているような服が置いてあり、ちらほらと下着も吊るしてある。これは要にとっては居心地がいいものではない。
種崎は気兼ねなく進んで行くが場違い感をすごく感じる。雑貨屋と違いここは男がいていい場所ではない。
「な、なあ種崎」
声を低くし要は呼んだ。
「何よ?」
「俺は外で待ってていいか?」
「ダメよ。そしたら誰が服を買うっていうのよ」
また奢ってもらうつもりでいる種崎に要はここにいてはいけないと決心した。
「俺は外で待ってる」
「ちょっと勝手に行こうとしないでよ」
種崎は一歩踏み出した要を止めるため手を掴んだ。
「あんた私の彼氏でしょ」
「だからってそう何度も奢れるわけないだろ」
要は立ち去ろうとするが種崎が掴んでいて逃げることができない。
退っ引きならない二人がもめていると、
「何かお困りでしょうか?」
その声で二人は視線を横に向けると女性の店員が立っていた。どうやら要たちの痴話喧嘩は目立っていたらしい。要と種崎は自分たちの会話が聞かれていたと思うと恥ずかしくなる。
「その、特に困っていることはないので大丈夫です」
ここに店員が絡んでくるとめんどくさいことになると考え、要は精一杯の作り笑いをする。
が、それは無意味なことであった。
「もしかしてお二人はデート中ですか?」
なぜ今そこに突っ込んでくるのか。要の関わらないでオーラが効かなかったのか。そして何故か種崎は顔を赤らめて黙り込んでいる。
「こんなに可愛い彼女さんを持って彼氏さんが羨ましいですよ。あ、もしかして彼女さんの服をお探しでしたか?」
「いや、大丈夫なんでお気遣いありがとうございます」
「ちょっと待ってくださいね。とびきり似合う服をお持ちしますから」
要の話を何一つ聞かず店員は服を取りに行った。その行為はとてつもなく余計なお世話である。おかげで要は店から出ることができなくなり、これは要が奢ってしまう流れになってしまう。種崎はそのことに気がついているのかいないのか、先ほどから黙っている。
「おい、種崎。絶対服が欲しいとか言うなよ」
「え! わ、私?」
種崎は急に呼ばれて驚いた。要にとっては特に変なことを言ったつもりはない。
「他に誰がいるんだよ。頼むから可愛いとか、似合いそうとか、買ってとか無しだからな」
「わ、分かってるわよ」
珍しく種崎が要の言うことに頷いた。それに要は驚き種崎をよく見るとまだ顔が赤く染まっている。彼氏彼女と言われ恥ずかしいと思っているのかもしれない。
そして店員が服を持って帰って来た。
「お待たせしました。この服はとても似合うと思うのですけど。そうですね、とりあえず試着してみましょうか」
店員は引っ張るように種崎を試着室に連れて行く。種崎もなすがままで服を持って試着室に入った。要は店員の強引さもあり何も言えず、店員と試着室の前で待つ。
しばらくしてカーテンが開かれると、そこには先ほどとは印象がまるで違う種崎が立っていた。
先ほどは可愛さを感じられたが、今は黄色いブラウスに白のスカートを身にまとい綺麗さがある。
「彼女さん、どうですか?」
「か、可愛いと思います」
開口一番、言ったことを忘れる種崎。
「ですよね。彼女さんに似合ってますよ」
店員もノリノリである。もちろん要は内心では可愛いと思っているが、口が裂けても言えない。
「彼氏さんはどう思いますか?」
要の心が読めるのか、嫌なタイミングで質問してきた。
「え、えーと。ふ、普通じゃないですかね……」
目を明後日の方へ向け気にしていないそぶりをする。
「素直じゃないですよ。彼女さんも褒められるのを待っているんですから」
服屋の店員は皆こんなにめんどくさいのだろうかと、要は頭を悩ます。褒めてしまえば買うことが決まってしまう。それに要が褒める必要性もない。
だが空気的に褒めなければいけない雰囲気である。店員も笑顔で訴えてきており、それはまるで誘導尋問だ。
「本当は可愛いと思っていますよね?」
追撃の一言にこれはもう諦めるしかない。
「……はい」
渋々、要は声が漏れたように発した。
「彼氏さんも喜んでくれて嬉しいです」
言わせた言葉なのに店員は両手を合わせ、どこか満足している表情だ。
「それでは彼女さんは一度着替えてレジの方まで持ってきてください」
「え」
要は驚きのあまり声が出てしまった。いったいどこで買うことになったのか。要も、そして種崎ですら買うとは言っていない。
だが種崎は言う通りにカーテンを閉め着替え始めた。店員もその場から去りレジの方に向かう。
要の意思とは無関係に事が進み唖然とする。要のたった一言で買うことになってしまった。これは新手の詐欺なのではと疑うほどだ。
呆然としていると着替え終わった種崎がカーテンを開けた。そして無言のまま服を要に渡す。当たり前のように要が買うことになっていることに、一応要は聞き返す。
「種崎、これって俺が買うのか?」
「し、仕方ないでしょ……」
仕方ないで済まされてしまった。
聞き返した要だが分かっている、買わなければいけないことを。しかしほんのわずかでも買わずに済む可能性があるのならばそれに賭けたい。
「本当にこれ欲しいのか? あの店員の言いなりみたいになっているんだぞ。もっとよく考えてから決めてもいいんじゃないのか」
「あんただって似合ってるって言ったじゃない」
「いや、それは言わされたというか、あの人が勝手に言ったっていうか……」
「ほらさっさと行くわよ」
可能性がゼロになった瞬間であった。
そしてそのまま要と種崎はレジへ行き、ちゃんと要が料金を支払った。
帰り際に店員が「お幸せに」と笑顔で声をかけてくれたがありがた迷惑の言葉だ。このおかげでまた要の財布がどんどん薄くなっていく。
さすがに要は写真を撮って早く帰りたい気持ちになる。これ以上いたらいくら金があっても足りない。
「なあ種崎、もういいんじゃないのか。お前も俺と一緒にいるのは嫌だろ?」
「もちろん嫌に決まっているでしょ。でも、最後に行きたいところがあるのよ」
「行きたいところ?」
「そうよ。そこまでは付き合ってもらうから」
まだ行きたいところがあるのかと、要は肩を落とす。どうせそこでも金を使うことになり、要のお金事情がさらに厳しくなる。種崎も欲しいものがあるから要を連れまわすのだろう。
「で、どこに行くんだ?」
「このショッピングモールじゃないところよ」
「だからどこなんだよ」
「いいから、あんたは黙ってついてきなさい」
今日三度目の言葉だ。種崎がいかに自己中心であり、我儘なのかが知らしめられる。これは生まれ持ってのものだろう。要は半ば諦めておりこうなったら最後まで付き合うしかない。




