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第十話 兵士はデートをする


 そして二週間が経ち、ついにその日はやってきた。



 要はいつもと違う私服姿で駅前のところに立っている。

 ちなみに二週間経っても種崎の印象は何一つ変わっていない。


 そしてもう一つ言うならば要は種崎に嘘をつかれた。


 現在、昼の一時半を回ったくらいだが、要が駅前に来たのは一時だ。集合時間は一時であるのだが、現在来ていない種崎が寝坊したとは思っていない。なぜそう思うかというと先ほど種崎から連絡があったからだ。


 その内容は、ちゃんと来ているのかどうかというもの。


 この時、要は確信した。種崎はそもそも一時にくる気がなかったということを。種崎はおそらく階級の低い要が先にきて待つべきだと考えている。だから嘘の時間を教え先に来させたのだ。


「種崎のやつ……、俺をどれだけ待たせる気だ」


 険しい顔の要は辺りを見渡すと、周りを歩いている人たちがなぜか同じ方向を見ていることに気がつく。特にそれは男が多かった。要は不思議に思い同じ方向をみてみると、不覚にも目を奪われてしまった。


 そこには種崎が道の真ん中を優雅に歩いていた。他の男同様、視線を止めてしまい要の険しい表情も消え去った。種崎は白のワンピースの上にピンクのカーディガンを羽織っており、みんなから注目されているにもかかわらずまるで気にもとめていないようである。


 要は軍服姿の種崎しか見ておらず服装が変わるだけでここまで印象が変わるのかと驚き、いつもの雰囲気とは正反対だ。


 そして種崎はそのまま要の目の前まで来た。何も言わない要を不審に思った種崎はいつもの口調で話し出す。


「何じっと私を見てるのよ」


 その言葉で普段の種崎が思い出され、思わず目をそらしてしまった。


「だ、誰がお前なんか見るかよ。貧相な体してるくせに」


「なっ! まだそのこと言ってるの! 早く忘れなさいよ!」


 今にも飛びかかってきそうな種崎を無視し要は自己嫌悪に陥る。


 一瞬とはいえ種崎に見惚れてしまった自分を殴りたい。

 可愛げさなどゼロに等しいはずなのに服だけのせいでそれが一気に百まで上がってしまった。今なら黛の言ったことも嘘ではないと思える。確かに種崎とのデートは悪くないかもしれない。


 しかし、要はそう思いたくなかった。今ここでそのように思えば種崎に負けた気分になってしまう。


「それよりも来るの遅すぎだろ。どれだけ俺を待たすつもりだったんだ」


 要は自分の内側を隠すため話題をそらした。


「うるさいわね、階級低いんだから当然でしょ。あんたはどうせ言った時間通りにしか来ないんだから」


「ここで階級なんて関係ないだろ」


「大ありよ。そもそも訓練で負けたせいでこうなったんだから、これは言わば訓練の一環みたいなものでしょ」


 これを訓練だと思うのはおかしい気がする。いや、部隊を円滑にするためのものだと考えれば訓練といえば訓練になる気がしないこともない。


「それにあんたとデートだなんて訓練だと思わないとできるわけないでしょ」


 嫌そうな顔をする種崎。要もそのことに関していえば同意である。

 だが要はあることに気がついた。


「でも、そんな嫌々なのになんで服は気合が入ってるんだ? もっとラフな格好でもよかっただろ」


 思わず要も見惚れてしまうほど綺麗な格好をわざわざ着てくるのは、このデートに関していえば気合が入っているように思える。

 すると種崎は恥ずかしそうに少し顔を赤らめた。


「ば、馬鹿じゃないの! これはで、デートなんだから……その……、わ、私だって服ぐらい気にするわよ!」


 なぜか種崎は必死に弁明し、要はその姿を不思議に思う。何か余計なことを言ってしまったのか。


 そういえば女子というのはいつでも見た目を気にしていると、どこかで聞いた記憶もある。おそらく種崎もそうなのだろう。


「そういうことか」


 要は一人で自己完結し一人で納得する。


「か、勝手に解釈しないでよ! あんなたが思っている事とち、違うから!」


「ん? そうなのか。俺はてっきり女子というのは見た目を気にしているもんだと思ったんだけど……」


「合ってるわよ!」


「どっちだよ」


 意味のわからない種崎に要は目を細める。


 どこか様子がおかしい種崎、今日一日このようなのが続けば精神力が持つかどうか不安ではあるが、気にしていてはデートが進まない。

 要はため息一つ吐き切り替える。


「はぁー…………、めんどくさいけど近くのショッピングモールでも行くか。そこで服でも見てたらデートっぽいだろ」


「けど、どうするの」


 種崎はふと投げかけてき、要は首をかしげる。


「何をだ?」


「だから、みんなと約束してきたでしょ。デートをした証拠を持って帰るって」


 そういえばそうであった。嘘をつかないように証拠を持って帰ってこいと第八部隊のみんなと約束したのであった。そうしなければもう一度デートをさせられてしまう。この提案をしたのは黛なのだが、要たちにとってはいい迷惑である。


「あー、そうだったな。だったら適当に一緒に写ってる写真でも撮ったらいいだろ。それで証拠になると思うし。……不本意だけど」


「そうね。それでみんなも納得してくれると思うわ。……不本意だけど」


 はたから見れば笑顔で話しており仲睦まじく見えているかもしれないが、会話の内容とリンクしていない。


 そんな二人は上辺だけのカップルを装いながら移動し、駅から少し歩いたショッピングモールについた。

 外観は白を基調としており、建物は長方形の形をしている。規模もここら辺では一番大きいショッピングモールだろう。

 休日というのもあり、人がたくさん出入りしている入り口を要と種崎はくぐった。


「どこか行きたいところあるのか?」


「ここはあんたが決めた場所でしょ。ちゃんとエスコートしなさいよ」


 相変わらず小言が多い。


「だったら写真を撮ってさっさと帰るか」


「あんた馬鹿じゃないの! せっかく来たのにそれだけで帰るなんてもったいなさすぎるでしょ」


 相変わらず文句が多い。


「だから聞いただろ、どっか行きたいとこはあるのかって」


「あんたはやっぱりダメね。ついて来なさい」


 要を置いてくように一人で種崎は歩き出した。要も不満を持ちながらついていく。


 そしてついた場所はいかにも年頃の女子が好みそうな雑貨屋さんだ。かわいい小物や文房具なども置いている。

 種崎は慣れているように店内に入って行き、要もついて行くと目的のものまでたどり着いたのか、足を止め小さい狸の人形を手に取った。


「なんだそれ?」


 要は流行りのもの、ましてや若い女性の間で流行しているものは知らない。なので種崎が手に取った変な顔をしている狸がなんのキャラかわからない。


「知らないの? これはたぬポンっていうキャラクターよ。この愛くるしい顔が可愛くて大好きなのよね」


 種崎は笑顔で狸の人形を愛でる。


「たぬポンって安易な名前だな」


「うるさい。それも含めてかわいいの」


 要に一言だけ言うとまた狸の人形に目を向けた。要は人形に夢中になっている種崎の横顔をぼんやりと眺める。その姿はどこにでもいる年頃の女の子そのものである。日頃の戦争のための訓練から解放されひとときの休息を満喫している様子だ。


 すると種崎が人形を持って要に向いた。


「ねえ、これ買って」


 唐突に種崎は言い放った。


「いや、急になに言ってんだよ。買うわけないだろ」


「今デート中でしょ。だったらあんたは一応彼氏になるんだから買って当然よ」


「誰が買うか、自腹で買え」


 要が無愛想に答えると種崎は人形を見て優しく撫ではじめた。


「ふーん、そうなんだ。そんなこと言うんだ。……じゃあ私の部屋で裸を見たこと誰かに話そうかなー」


 前言撤回、種崎はどこにでもいない年頃の女の子だ。わざとらしく言う姿は小悪魔のようである。もちろん要は歯向かうことはできない。


「あーったく、わかったよ。買えばいいんだろ、買えば。……ほんと何かあるとそればっか言いやがって」


 要が狸の人形を手に取ると種崎は両手を腰にあてた。


「当然でしょ。私の裸見たんだから」


「無い胸でいばるなよ」


「な、無い胸とか言うなー!」


 種崎の怒号を無視し要はレジへ向かい会計を済ませる。人形を奢るのだからこのくらいのことは言ってもいいだろう。


 雑貨屋から出ると要は狸の人形を放り投げるよう種崎に渡す。


「ほら」


 種崎はうまくキャッチするも詰め寄ってきた。


「ちょっと、雑に渡さないでよ。せっかく買ったんだから」


「自分で買ったみたいに言うなよ。……で、この後は写真を撮って帰るのか?」


「あんた馬鹿じゃないの」


 何度この言葉を言われただろうか。その度に要の神経は逆撫でされ、片眉がピクリと上がる。


「何かしたいことがあるのか?」


「私について来なさい」


 またしても種崎は要を置いて行くように一人で歩き出した。要は頭を掻きながら仕方なくついて行く。



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