5 旅人
『旅人』
赤毛で金色の瞳をした若い男。
どうやらソールに興味があるらしい。
「やぁ、初めまして。俺の名前はマリス。マリス=ミットライトさ」
優雅な手つきで紅茶を啜る赤毛の男はそう名乗った。
マリス、マリス=ミットライトか。
ソールは何度かその名前を頭の中で繰り返す。
どこか引っかかるような気がするのだが、気のせいだろうか。
まぁ多分気のせいだろう。覚えてないんだから、そこまで気にする事でもないや。
「ああ、えっと。僕はソール。ソール=フェアラァトだ。よろしく、マリスさん」
「マリスでいいよ。そう硬くならないでほしいな、ソール君」
マリスはへらりと笑い、空になったティーカップをソーサーに置く。
そして、皿の上に用意されたクッキーを一つつまんで口に放り込んだ。
「それじゃあ、単刀直入に聞こう。君は怪物と少女の行方を知りたいんだよね?」
怪物と少女、その言葉を聞いた瞬間ソールは椅子を蹴飛ばして立ち上がっていた。
なんでそれを知っているのとでも言いたげに、彼を睨みつける。
「そんな怖い顔をしないでくれよ。今のはちょっとした冗談さ。でも、君がそれに反応したってことは本当にあの二人を探しているってことだよね?」
貼りついたような笑顔を浮かべる彼に嫌悪感を覚える。
コイツ、僕の事をバカにしているだろ。
だけど僕があの二人を探しているのは事実、今更隠しても無駄だろう。
「そうだけど。で、僕をどうするつもり?」
「いや、何にもしないさ。ただ情報を教えてあげようと思っただけさ」
彼はソールが椅子に座りなおしたのを確認すると、おもむろに口を開いた。
「俺がこの街に来る前に乗った馬車に、それらしき二人組を見た。行先は雲の街ウォルク。でもね、追いかけたって君は拒絶されるかもしれないよ。それでも、君は二人を追いかけるかい?」