断章 夢の果てまで
『古代文明』
現代よりも優れた魔術を持っていた者たちの世界。
現代の人間には扱えない不思議な道具が遺されている。
この世界には、古き文明が栄えた跡がある。
人はそれに触れてはならない、きっと恐ろしいことが起こってしまうから。
ああ、だから言ったのに。
彼らが持ち出した遺物は『アーティファクト』と名付けられた。
『アーティファクト』は人知を超える魔力を秘めた魔法道具だ。
ゆえに人が使える代物ではない。
「だからってなんで私なんですか……」
白衣を着た少女が怒りに任せて机にファイルを叩きつける。
大量の書類が入ったそれは大きな音を部屋に響かせた。
「……ルナリス。これは決定事項だ。覆すことは出来ない。お前以外に適任者はいないんだ」
赤毛の男は、少女が叩きつけたファイルを机から回収しながらそう呟いた。
「そんな……わ、私がもし死んだらどうするつもりなんですか……!」
「……ならば、お前以外に適任者はいるのか」
男からファイルの中の書類の一つを手渡される。
書かれている条件を何度確認しても、自分以外に適任はいないと書かれていた。
それも、この男が書いた推薦状だ。
今目の前にいる男は自分より位が上の研究者、自分が刃向かって勝てる相手ではなかった。
悔しくても逆らえる相手ではない、そんなの知っているんだけど。
「どうした、ルナリス。もう何も言えないのか」
男は書類を見つめるルナリスをつまらなさそうに眺める。
もう少し何か言うのかと、期待していたらしい。
「……ルナリス。それを読んで満足したか?」
「出来るわけないです……でも、何を言っても無駄なんでしょう。あなたは私が死んでもいいと、そう思っているのでしょうから」
書類を彼に返し、ルナリスは渋々と言った様子で頷いた。
そして、肩をすくめて部屋を出ていった。
一人残された男は書類をすぐさまファイルの中に戻す。
「実に心外だな。死んでもいい、なんて一言も言っていないのだが。俺はそれよりも『アーティファクト』がどんな力を持っているのか気になっているだけなのだがなぁ?」
ぱらりと額に落ちる髪を優雅な手つきでかきあげ、彼は小さくため息をついた。
その視線の先に、どこからか持ち出したぼろぼろの黒い本を置いて。