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復讐の一滴  作者: ハグキング
6/6

5 褒賞



 服も手に入れ、B級の冒険者となったロイは、王城の門前に来ていた。


 市民街はとても広く、迷いそうになっていたところ、たまたま近くを騎士が通りかかったので、事情を話して案内してもらったのだ。


 途中、貴族街を通ったが市民街に比べるといささか活気がなく、店の数も少なかった。


 それもそのはず、貴族街はほぼ住宅しかない。食料の買い物などは使用人が市民街まで降りるか、高級な品を取り扱う商人から直接卸しているのだ。

 豪華絢爛な作りの家に、美しい庭、たしかに目を見張るものがあったが、田舎育ちのロイにとっては市民街の雑多な人混みのほうが好みであった。


 王城の周りは5mほどの深い堀で囲われており、入城するには見張り兵のいる跳ね橋を渡らなければならない。


 ここでも行列ができており、ほとんどの者が貴族であろう高級な服装に身を包んでいたが、商人らしき人もぽつぽつと見ることができた。


 冒険者の訪問はさすがに少ないのか、ロイの格好は多少目立っていた。



「こんにちは、今日はどのようなご用件で?」



 跳ね橋で検問をしていたのは、街の入り口にいた一般兵とは異なり、いかにも騎士という感じの鎧を纏っていた。

 こっそり鑑定したところ、実際に2倍近いレベルの差があった。



「テレンシア王女とヴォルフォードさんに城まで来るように言われているんだけど・・・」



 一応B級の冒険者証も見せる。


 騎士はロイの格好をまじまじと見ると「少々お待ちを!」と城に入っていった。

 しばらくすると扉が開き、ヴォルフォードを連れてやってきた。



「オルレアン殿!早速来てくださったのですな!どうぞこちらに。」


 ヴォルフォードはロイの手を取って城に入る。



 城に入ったロイはその光景に圧巻される。


 入り口の大扉を入ると、そこは広いロビーになっていた。

 床や壁の素材には、美しい大理石をふんだんに使い、通路には高級そうな赤い絨毯が敷かれていた。ロビーの中央には直径20mはある大きな池があり、騎士の銅像に囲まれたライオンの彫刻が口から水を出している。


 ガラス職人が懇切丁寧に作り上げたであろうシャンデリアの温かい光が、噴水の水しぶきに反射してキラキラと輝いている。


 さらに奥の二階通路の壁には、歴代の王の肖像画が並べられていた。

 どれもまるで生きているかのような迫力を感じさせる名画だ。



「ふむ、我らが城はお気に召しましたかな?」



 ロイがポカンとあたりを眺めていると、ヴォルフォードが嬉しそうに髭をさする。


「ああ、街を見た時にも驚いたが、ここまでとは・・・さすが巨大国家だ。」



 ロイは素直に感想を述べる。

 田舎育ちの一鍛冶師であったロイは、貴族街はもちろん、王城など入ったことがない。

 初体験の豪華絢爛な景色に胸が少し高鳴る。

 ロビーの奥の部屋に促され休憩する。



「早速ですが王と謁見していただきます。テレンシア殿下が誘拐にあったことは極秘情報ですから、実施に会われるのは王族の方々と一部の騎士のみですな。しばしお待ちを。」



 そういってヴォルフォードが目配せすると、部屋の隅にいた使用人が紅茶と茶菓子を持ってくる。

ティーカップや器も美しい装飾の入った高級品だ。


(うまい・・!)


 紅茶と茶菓子のあまりのうまさにロイは目を見開き、1分ほどですべて食べきってしまったのであった。


 それから少し待つと、ヴォルフォードが戻ってくる。



「お待たせしましたオルレアン殿、王がお会いになられます。こちらに・・」


 ロイはヴォルフォードについていく。

 普段であれば、こういったことは”謁見の間“という広場で行うそうだが、極秘内容だっただけに会議室のようなところで行うことになった。


「テレンシア殿下の恩人ではございますが、王に対しては、それ相応の態度をお願いいたします。」


 白塗りの扉を開けると、20人ほどは座れそうな円卓の最奥に、赤い衣装を纏った壮年の男が座っている。


 年齢は40代後半といったところだが、逞しい体つきに鋭い眼光、若々しく力強い雰囲気を纏っている。王冠こそ被っていないが、後ろに控える強そうな騎士や衣装から、ナボリスの王であることが伺える。


 王の右隣には王を若くしたような見た目の青年が座っている。金色に輝く鎧を身に纏い、穏やかな表情を浮かべているが、顔つきなどから判断するに王の子供、つまり王子であることがわかる。


 王の左隣には、先日ロイが助けた第2王女 テレンシア・ナボリスだ。ロイが入ってくるとわずかに笑みを浮かべた。


 ギルフォードは部屋に入るや否や入り口扉の傍に控えている。

 

(それ相応の態度って礼儀作法のことだよな・・・・まずいな、俺そういうの全然わからないぞ。)


 とりあえずロイはその場でペコリとお辞儀をした。



「ロイ・オルレアンです。」



 そんなロイを見てテレンシアはクスクスと笑いを漏らし、王や王子も顔を崩して笑みを浮かべる。


 世間で王に対する最初の礼としては、片膝をついて首を垂れるものだが、貴族にすらあったことなかったロイはもちろん知らない。


 王や王子が当初警戒していたのは、テレンシアを助けたロイもルナメリア王国の間者である可能性だった。


 ルナメリア王国が王女を攫い、それを助けるという自作自演で信頼関係を築き、国にスパイとして潜り込ませようとしているのではないか、と疑心していたのだ。


 本当にそうだった場合に備え、王の後ろに控えている騎士は、ナボリスでも1、2を争う実力者だった。


 しかしロイの腰を曲げるだけのお辞儀は、王に対する礼儀としてはあまりにも無礼であり、もし敵国の間者であればあまりにもお粗末だ。王の機嫌次第では不敬罪になることだってあるのだ。


“礼儀の知らない田舎者”、悪く言えばこういう評価をするしかないロイに王と王子は毒気を抜かれ、笑みをこぼしたのであった。



「だから言ったではないですのお父様、そんなに警戒する必要はありませんの。」



 テレンシアが可笑しそうにそういうと、王は手をひらひらと振る。



「クク、面をあげよロイ・オルレアン。余は帝国ナボリスの王、ガブラスカ・ナボリスである。礼を言う、此度は娘のテレンシアをよく救ってくれた。そこの椅子に掛けてくれ。」


 王は鋭かった眼光を緩め、ロイに話しかける。

 ロイは促されたとおりに近くにあった椅子に腰を掛ける。


「私からも重ねてお礼を申し上げますの。ロイ様、本当にありがとうございました。」


 テレンシアも改めて礼を述べる。



「いえ、可憐な女性が襲われていたら助けるのは当然ですよ。」


 社交辞令もかねてロイは色を付けて返す。

 テレンシアは「まぁ」と言って頬を染める。



「さて、此度の事件の概要だが、テレンシアがルナメリア王国の刺客に攫われたところ、偶然通りがかった貴殿がこれを救出、総勢8名の刺客を無力化し、なおかつ召喚されたストームドラゴンをも打倒した。相違ないか?」


 手元の資料を読みながらガブラスカ王はロイに問う。

 なぜか王子が目をキラキラさせながらロイに熱い視線をぶつける。


「間違いありません。」


 そう答えるロイの後方に立つヴォルフォードもうなずく。



「こんなチミッ子の娘だが、これは国民に人気があってな、誘拐の事実が露呈すれば大混乱を招くことになった。貴殿の行動はこれを防いだすばらしい功績だ。そこで、何か褒賞を与えたいと思う。従来であれば金品を贈呈するが・・・何か望みはあるか?」



 テレンシアの頭をガシガシと撫でながらガブラスカ王は聞く。

 チミッ子呼ばわりされたテレンシアはご立腹な様子だが全く相手にされず、兄に慰められている。




 ロイ自身が欲しいのはただ一つ、【神】に関する情報だけだ。


 国によっては宗教を全面禁止しているところもあるし、ナボリスがどういう対応をとっているかロイは知らない。

 もしかしたらこの場で争いになるかもしれない。



「“神”に関する情報を探しています。」



 しかしロイは素直に聞いた。

 あれこれ考えている時間がもったいない、いざとなればこの場で戦いになっても良い、くらいの野蛮な考えを持っていた。


(いざとなればこいつらを拷問してでも情報を聞き出す。いや最初からそうしたほうがはやいんじゃないか・・?いや、なにを言っているんだ俺は、罪もない人を殺す気か!)


 メラメラと湧き上がってくる自分の(さが)とは異なる感情がロイを侵食していく。呑まれないよう、必死に静める。



「神・・であるか、それはラーゼリア法国の“唯一神ラーゼ”のことか?それとも近頃勢力を伸ばしている邪神教のことか?」



(少なくともナボリスでは“神“の名を口に出したくらいでは咎められないようだな)

と、ロイは安心する。



 南のほうに位置する宗教国家、ラーゼリア法国の象徴である“唯一神ラーゼ”のことはロイも知っていた。最も“神”という言葉が飛び交う国なので、追々はラーゼリア法国へ向かうつもりだったのだ。


 しかし、邪神教というのは聞いたことがなかった。邪神という言葉がぴったりのあの神の笑みが頭に浮かぶ。



「ある理由から私は神を探しています。信奉しているわけではないのですが・・・とにかく見つけなければならない理由があります。その邪神教というものについて詳しくお聞かせ願えませんか?」



 荒ぶり始める《復讐の一滴》を抑えながらもロイはまっすぐに王を見る。



「何年か前から流行りだした宗教でな。人と魔物の創生主である“邪神”をこの世に顕現させることを目的としたものだ。」


「この世に顕現・・?」



「ああ、邪神とやらが本当にいるかどうかは定かではないが、とにかくそういう集まりでな、しかもその儀式が残忍なことに、生きた赤子の腸で召喚陣を書いたり、複数の魔物・人間をを一つの部屋に閉じ込めて戦わせるような事をしているようだ。」


 禄でもない連中の集まりだ、とガブラスカは苦い顔をする。



(なるほど、あの神が好みそうな儀式だな。)


「その邪神教のことについてもっと詳しく知ることはできますか?」


「なぜだ?よもや邪神教に入信したいというつもりでもあるまい?」



 ナボリス帝国領にも邪神教の手は広がってきており、被害が数件報告されていた。

 もし入信目的であればただでは済まさない、といった威圧がガブラスカからは放たれていた。


 後ろの騎士の剣の柄にかけた手の力がかすかに強くなるのをロイは見逃さなかった。



「いえ、どちらかといえば敵対するほうです。詳しくは申し上げられませんが、私の目的は神を殺すことですので。」



 事の発端を詳細に話してしまうと、思い出される光景に《復讐の一滴》が反応し、理性をなくしてしまうかもしれない、と危惧した上での言い方なのだが、どうにも怪しく聞こえてしまう。



「神を殺すか、邪神のことを指して言っているのであろうが、ラーゼリア法国はもちろん、ほかの国でも決してその発言は控えたほうが良いな。ラーゼ教の信奉者は今や世界中におるからな。」



「気を付けます。」


「しかしわかった、宗教に詳しいものを後で貴殿につけさせよう。」




 ひとまずは納得してもらえようで、話は旨い方向に進んだ。



「ありがとうございます。」



 ロイは頭を下げ、席を立つとガブラスカが驚いたような顔をする。



「まさか貴殿の望みはこれだけか?王女を救うという偉業をなしたのだぞ?」


「ええ、ほかには何もいりませんので、できるだけ情報をお願いします。」



 どんな高貴な者でもある程度の名誉や金銭は求めるものだ。

 それを悪いことだとはは思わないし、労をなした物には褒美をやる、というのがガブラスカ・ナボリスのモットーであった。



「ふむ、では城に保管されている名剣を一振り授けよう。報告によれば貴殿はAランク冒険者であるバナードを超える剣の達人であり、ストームドラゴンをたった一刀の元に斬り伏せたというからな。受け取ってくれるか?」


「ありがたく頂戴いたします、王よ。」



 ロイはもう一度深く頭を下げる。

 

(素手でも問題ないだろうけどどうせ《無限収納》があるんだ。もらっとけば後で役に立つかもしれない。それに名剣か・・・興味あるな。)


 元鍛冶師の血が騒ぎだす。

 まったく必要ないようであれば売ってもいいし、ナボリスか賜った剣ということで、信用の証としても使えるかもしれない、くらいの考えだったが、どちらにしろ武器を作っていた者として、一級品に興味があった。



「あーそれで・・・言いにくいのだが、一つ頼みがあってな。」


「はい、なんでしょう。」



 バツが悪そうな顔でポリポリと頭を掻くガブラスカがチラリと王子のほうをに目配せする。

 王子は子犬のようにうれしそうな顔をして身を乗り出す。



「ロイ殿!お願いというのは僕からなんです!是非手合わせしていただきたいのです!ストームドラゴンを倒したその手腕!僕の腕がどこまで通用するか是非試したい!」



 拳を握りながら熱く捲し立てる王子にガブラスカはため息をつく。



「バルト、少し落ち着け。王子ともあろうものがそのようにはしゃぐな。」



 バルト王子はシュンとなって席に座りなおす。



「此奴は根っからの戦い好きでな、貴殿のストームドラゴン討伐の報告を聞いてから、口を開けば“戦いたい!”と五月蠅くてな、もしよければ一度手合わせをしてやってもらえないだろうか?」



(断っても特に咎められることはないだろうが、せっかく邪神教のことを詳しく教えてくれると言ってくれてるし、無碍にするのも良くないだろう。)



ラーゼリア法国にも向かいたいが、まずは目の前の情報を優先したいロイは受けることにした。


「わかりました。受けましょう。」


「本当ですか!!いやあよかった!!」



 バルト王子は飛び跳ねて喜ぶ。



「バルト・・・・」


「お兄様・・・・」



 20代半ばにもなる兄の無邪気な様子に、ガブラスカもテレンシアもため息をつく。

 後ろの二人の騎士も心なしか呆れた表情を浮かべる。



「バルトはこれでもナボリスで一番の実力者でな、王子と兼任して近衛騎士団長を務めさせているが、一般騎士では訓練にもならなくで困っているんだ。悪いがほどほどに相手をしてやってほしい。」



 強くなりすぎて相手のいない暇を持て余したバルト王子にとって、伝説とも呼べるストームドラゴンを倒したロイの存在は、まるで砂漠に見つけたオアシスだったのだ。


(巨大軍事国家、ナボリス帝国で一番の実力者か・・・鑑定してみるか。)


 ロイはそっと《鑑定》を発動させる。



**


バルト・ナボリス Lv.???(??)


体力 ??00/1??00

攻撃 2????

防御 1????0

敏捷 1???00

魔力 ?00?


???スキル《??身》

スキル《??》《見切り(極級)》《??》



**




(なんだ?ほどんど読み取れないぞ・・・?)


 ロイはもっと目に力を入れ、バルト王子の中身を見るように凝視する。


『レジェンドスキル《鑑定・真》を入手しました。』


 以前にきいた声がロイの頭に流れる。

 レベル300以上の者だけが獲得できる《鑑定・真》を手に入れたのは、人間では歴史上ロイが初めてであったが、もちろん本人はしらない。


(どれどれ・・・)


 早速使ってみる。



**


バルト・ナボリス Lv.150 (勇者)


体力 16500/16500

攻撃 25000

防御 10000

敏捷 16400

魔力 50000


レジェンドスキル《減らずの身》

スキル《剣帝》《見切り(極級)》《光魔法(極級)》《豪運(超級)》《鑑定》



**


(おいおいどうみてもストームドラゴンより強いぞ・・・)


 ありえないレベルのステータスにロイは苦笑いする。

“英雄”と呼ばれるものでさえ、やっとこレベル100くらいという話だ。



(しかも称号は近衛騎士団長でもなく、王子でもなく・・・・“勇者”か!)



 勇者、それは人間の到達点と呼ばれる者だ。

 あらゆる魔物を打ち祓い、人類を幸福へ導く者と伝えられている。

 魔族にも対となる“魔王”の称号を持つ者が稀に生まれるらしいが、どちらも卓越した能力を持っているらしい。



(おとぎ話でしか聞いたことのないけど、本当にいるんだな・・・)


「やったあ!やったあ!」と無邪気にぴょんぴょこ跳ねる目の前の青年が“勇者”などと、だれが信じられようか。



「ちょっとめんどくさくなりそうだな・・・」



 慌ただしい会議室で、ロイはボソッと呟いた。





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