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復讐の一滴  作者: ハグキング
2/6

1 死の経験値



「は・・・!」


 暗い暗い森の中、ロイは目を覚ます。

 確かな死の感触があったはずなのに、なぜ生きているのか分からない。


 ふと腕を上げると、ベノムアントに食いちぎられたはずの腕がある。


 そこで気づいた、ついさっきまでと同じ光景、ベノムアントの集団が目の前にいたことに。

 逃げる体力もなく、再びロイの体にベノムアントの顎が食い込む。


「がああああ!!」


 痛い痛い痛い!!



 またも体中をバラバラにされて、ロイの意識は消失する。



 そして体感的には数瞬後、また目を覚ます。

 また腕も足もついたままだ。


(神が見せる幻覚か・・?)


 そんなことを考えているとまた自分の肉を目当てに巨大な蟻たちが群がってくる。


 ブちっ!ブチブチッ!!


「や、やめっ!!いぎいいいい!痛い痛い!!あああああ!!」


 三度目になる四肢を捥ぎられる感触。

 頭に冷たい顎が当たる感触を最後に、またロイの意識は消失する。



 そして次の瞬間目を覚ます。



「やめてぐれ!ああああああ!!」



 また食われ

 また目を覚ます。


「許さない・・・イダイ・・・ゆるざない・・・」


 また食われる。

 また目を覚ます。


「なんで俺ダケがこんナ目に・・・ごロス・・」


 また食われる。

 また目を覚ます。


暗い森に何時間もの断末魔と恨み言が響いた。






 ――――どのくらいの時間がたっただろうか。

 

 ベノムアントに食い殺されては甦るコレ(・・)を何度繰り返した。

 甦るたびに食い殺されることもあれば、しばらくしてからベノムアントが寄ってくることもあった。

 死に方は常に同じではなく、時には紛れ込んだ大きな狼に食い殺されることもあった。


 どんな状況でも人間は慣れるものなのか、激しい痛みが走る中でもクリアな思考ができるようになっていた。

 何百回目の死を迎えた時だろうか、痛みに慣れ始めたロイは、この死と蘇生のループが、神の幻覚等ではなことに気が付いた。


 目の覚める寸前、頭に声が聞こえるのだ。


ブチ!!!


またロイは食い殺される。


『”復讐の一滴”が発動しました。体力の10%を回復します。死の経験値を得ました。』


 この声が流れると、体の欠損もすべて回復し、死から甦るのだ。

 声の言っていることが本当であれば、体力の10%が回復していることになる。しかし10%程度では逃げる気力もなく、すぐに食い殺されていた。


 そしていつしか、死ぬまでの時間がだんだん延びていることに気がついた。

 

 ブチブチと体を食いちぎられる痛みに耐えながらステータスを確認する。



**


ロイ・オルレアン Lv.20


体力 100/1000

攻撃 1500

防御 1500

敏捷 1000

魔力 1000

 

オンリースキル《復讐の一滴》

スキル《鍛冶師》

**


 以前の自分のステータスはすべて100くらい、レベルも3くらいだったはずだ。

 

 ”死の経験値を獲得しました。”

 頭に響くこの声が原因だった。

 この声が何度か響くと自分のレベルが上がっているのだ。

 死への時間が延びたのは体力と防御のステータス値が上がっているからだろうとロイは推測する。


 そしてステータスの《復讐の一滴》の情報を念じる。


 復讐の一滴:神への復讐を果たすまで何度でも蘇生するスキル。持ち主は死んだとき、体力値の10%を回復し、一定の経験値を得る。



 (つまり簡単に言えば不死身、そして死ねば死ぬほどレベルアップするってわけか)


 力を求める戦士や魔術師はの語から手が出るほど欲しがるスキルだろう。

 

 (だが俺にはもうどうでもいい。こんなものを手に入れたところで・・メイアもレックスもラミアも戻って来はしない・・・)


 そう考えている間もずっと、ベノムアントが体を食いちぎる痛みが全身に走る。

 慣れているだけで痛みを感じていないわけではないのだ。


「なぜあいつらが死ななければならなかったんだ・・・なぜ俺がこんな目に合わなければいけない・・・・全部、全部全部全部あの悪魔のような笑みを浮かべた神のせいだ・・・」


 しかしもう神の姿はなく、周りを囲むベノムアントに太刀打ちすることすらできない。

 神の言ったように”なにも出来ない無力な自分”をロイは心から呪う。


(もう疲れた・・・・)


そしてロイは、考えるのをやめた。





 ―――――どのくらい時間がたったのだろうか、なぜか痛みが来なくなっていた。

 全身にカキン!を何かがぶつかる音がする。

 ロイは思考を取り戻し、目を覚ます。


「これは・・・どういうことだ?」

 

 以前と同じく、自身の周りにはベノムアントが群がっているが、痛みはない。

 よく見ると、ベノムアントは自分を噛んでいるが、肉に顎が通ることはなく、まるで金属を打ち付けたかのようなカキン!カキン!という音が響いている。


 もしかして・・・と思いロイは呟く。


「ステータス」



**


ロイ・オルレアン Lv.510


体力 3500/35000

攻撃 50000

防御 50000

敏捷 45000

魔力 100000


オンリースキル《復讐の一滴》

スキル《鍛冶師》


**



「なんだこれ・・・」


 見たこともない数字にロイは驚愕する。

 たしか国の英雄とかでさえ100レベルに到達するかどうかだったはずだ。

 

「この化け物みたいなステータスになったおかげでベノムアントのダメージが全く入らなくなったってことか・・・」


 痛みを感じなくなったロイに、捨てたはずの感情が舞い戻ってくる。

 怒りだ。

 この絶望を生み出した神、そして幾度となく繰り返す痛みを与えた目の前のベノムアント。


「殺す・・・・お前ら全員・・・・」


 ロイはすっと立ち上がる。蘇生しても碌に動けなかった以前とは、体力の値が違う。

 滑稽にも自分の足に顎を挟み続けているベノムアントをガシっと片手でつかむ。

 体長1.5m、体重100kgはありそうな巨体も、楽々と持ち上がる。



「よくいままで俺の体をむさぼってくれたな!!!」


 ロイは顎を掴むと、ベノムアントの鉄のような体を縦に引き裂いた。


キー!


 と断末魔を上げて、ベノムアントの目から光が消える。 


 ゴミのようにベノムアントの死骸を投げ捨てると、近くにいた別のベノムアントをまた掴み、引き裂く。


 ベノムアント達は困惑していた。

 先ほどまでなすがままだった”餌”が、自分たちの同胞をいともたやすく切り裂いた。

 目の前の光景が信じられず、動けなくなっていた。


 5匹めの同胞が引き裂かれたとき、やっと正気を取り戻した群れのリーダーが鳴き声を上げる。


 ギギーーーー!


 これは戦いの合図ではない。逃げの指令だった。

 リーダーは、目の前の人間の形をした化け物には勝てない、と本能的に悟ったのだった。


 合図を受けたベノムアントたちは、蜘蛛の子を散らしたように逃げ始めた。

 

 当然その様子を化け物が黙ってみているはずもなく・・・



「逃がすわけがない・・・一匹残らず、絶滅させてやる。」




――――森のあちこちで木が倒れ、獣の断末魔が響き渡る。


数時間たつころには森は爆撃でも受けたかのようにひどい有様になっていた。


そして荒れ果てた森の中心に、紫色の体液を全身に被った一人の人間。

口に咥えた巨大な蟻の死骸をペッと吐くと、空を見上げる。



「神、いつかお前を・・・必ず殺す」



こうして一人の化け物、ロイ・オルレアンの復讐が始まった。



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