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006 恥ずかしい。普段の整理整頓大事

「お待たせ、じゃあ行こうか。」


 そう言うと山下さんは歩き出した。俺たち3人は黙って付いて行く。そのまま日比谷線に乗って人形町まで。

 うーん、結構渋いお店選択なのかな?と思っていたら、何やら大きなマンションの前に。こんな所に飲食店が入っているのか?

 

 目の前のマンションは、マンションというか団地、と言った方が良い感じの年季の入った造りの建物だった。ちゃんと改装や修繕はされているらしく綺麗になっているが、流行りのタワーマンションとかではなくて、なんていうか薄くてやたら横に長い。かなりの人数が住んでいそうな感じだ。

 

「会社の近くの部屋が空いてなくてね。ちょっとだけ遠いけど我慢してね。中はリフォームされてて綺麗だし。


 山下さんは鞄の中から封筒を出すとその中から

 

「はい、これが喜瀬君、これが…えーと桃原君、そして相良さん。」


 鍵を出してそれぞれに渡す。

 受け取った鍵を見ながら頭の中に?マークが沢山の俺たち。そこに山下さんが爆弾発言を投げてきた。

 

「えー、では今日から君たちの住むところはこのマンションです。」


 と、目の前のマンションを指さしてにっこり。

 

「「「ええええええっ!?」」」


 いや、確かに住居手当は出るとは聞いたし…あ、社宅も用意するとか書いてあったか??でも…

 

「社宅…ですか?」


 最初に立ち直った桃原。

 

「そう、と言っても何部屋か借り上げてあるだけなんで、隣も上司や同僚って事は無いから安心してね。」


「分かりました。それでは、いつからこちらに移れば良いですか?」


 流石にしっかり押さえるところは確認してるな。俺は少し桃原の印象を改めようと思った。

 しかし、その次の山下さんの言葉にそんな事を思ったことなど忘れてしまった。

 

「あ、今日、今からね。君たちの荷物は全部新居に移してあるし、引っ越し手続きも全て終わっているからね。」


「「「はぁぁぁ?」」」


 そして俺たちは今日何回目かのフリーズとなったのだった。



------



「はぁ、なんかいろいろありすぎて疲れた。」


 用意された部屋に入るとスーツのままベッドに倒れこむ。大体そうだよ、二日酔いだし睡眠不足だし、研修は驚愕することばかりだし。

 すっかり疲れ切っていて、このまま眠ってしまいそう。あー、そろそろ枕カバー洗濯しないとなあ。

 

「って」


 ガバッと起き上がった。抱えた枕を見る。うん、俺の部屋の枕だ。

 そして部屋の中を見回す。クローゼット、台所、洗面所。住んでた所の物がそのまま丸ごと運んである。洗濯物もそのままだし。あ、台所の使いっぱなしの食器類は全部洗って仕舞ってあった。恥ずかしい…

 落ち着いて良く見回すと俺の住んでた安アパートより断然広いし綺麗だ。まあ、タダでこんな都心に住めるんなら良いんじゃないか?

 山下さんは

 

「部屋の中を監視してたりしないから安心して。」


 と言ってたが、それはどうだかなあ。

 

 ま、とりあえずなんか食ってきて寝るか。この辺コンビニあるのかな?

 着替えて外に出ようと思ったら、テーブルに袋が置いてある。なんだろう?と中を見るとおにぎりにカップ麺におかず。そして手紙。

 

『良かったら夜食にでもしてください。飲み物は冷蔵庫に入れてあります。 総務・井沢』


 おおお、ありがたい。

 どれどれと冷蔵庫を見ると、お茶やスポドリ、水、●ィダーまで入れてあった。ありがたやありがたや。

 ではメシ食いましょうかね。今朝から何も食ってなかったし。

 

 おにぎりを食いながら井沢さんて誰だろう?と考えた。まあ、普通に考えると、朝と夕方に会ったあのお姉さんだよな。

 わざわざこの部屋に来たのか、ってまあそれも仕事なんだが。そして冷蔵庫…

 うわあ…あの汚い冷蔵庫の中を見られたんだよな。最悪。

 きっと今朝の醜態と言いだらしない奴と思われているよ。

 

「あー、もう済んだ事!」


 気分が落ち込んでメシがマズくなるので、テレビでも見ようとリモコンを取りスイッチオン。

 …あれれ?映らない?

 いや、外部入力になってました。普段は絶対テレビが映るんだけどな。

 あ、そうか。

 設置してから動作確認したんだな。なるほど。

 

「ひっ、ぐ。げほっ、げほ。」


 しばらくテレビを見ながらメシを食っていたんだが、突然重要な事を思い出した。ちょうどお茶を飲んでいたところだったので盛大にむせた。

 慌てて飛び散ったお茶をティッシュで拭いて。テレビを外部入力に。そいて、恐る恐るDVDの電源を入れた…

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ」


 死にました。

 同期生に借りたエロDVDが入ったままでした。

 

 少なくともチェックした人は見たよね。

 もう、それは仕方ない。総務のお姉さんがその場に居なかったことを祈るだけだ。

 

 俺は味のしなくなったメシをボソボソ食い、さっさとベッドに入った。

 だが、睡眠不足なのになかなか寝付けなかった。

 人生の一日にしちゃ色々有りすぎだあ。



------



 翌日。

 朝から会社?省庁?に出勤して(通勤時間が劇的に短くなって快適だった)研修。終業後、俺は一人で生まれて初めてのコンタクトレンズを作りに行って、メシ食って、一応新居なので、いろいろと買い物して帰宅。

 

 それからゆっくり落ち着こうかと思ったが、突然前の部屋から居なくなった俺を心配して同期生が連絡してくるわ、引っ越したことを伝えたら引っ越し祝いだ、と来ようとしたので全力で阻止しなきゃならなかったわ、終わった後気付いて実家に状況を(言える範囲で)報告して長電話になるわ、であっという間に日付が変わりそうな時間に。

 ああ、テレビも点けずに過ごしてるよ。まあ、新人ですし、しばらくしたら落ち着くかねえ。

 

 そう言えば、桃原の奴が移転の手続きについて質問してたな。どうも戸籍はお上の力でやってくれてるらしいけど、免許は自分で行かなきゃ駄目らしい。免許センターって土日やっているのかな?

 後は、銀行やカード会社に住所変更を届けて。

 …んー、でもこれ研修期間が終わってからの方がいいのかなあ。

 山下さんによると、この後来週末までは研修で、その結果本採用かどうかが決まるらしい。初日に強制引っ越しさせておいて、クビもありなのかよ?と思ったが、機密保持の為と一蹴されてしまった。

 不採用でも引っ越し料金くらいの手当は出るらしい。

 

「大丈夫ですよ。ここ3年くらい不合格者、辞退者は出てませんし。」


 と山下さんは笑っていたが、『あの』スライムを見てしまったから、俺には正直自信がなかった。


「そろそろ寝るか。」


 何にしても頑張るしかないからなあ。

 一杯引っかけて寝るべ、と冷蔵庫を開く。そうそう、昨日の出来事もあったので冷蔵庫も綺麗に掃除したよ。DVDもちゃんと仕舞ったし。

 明日も研修だから軽めにしとこうね。と、アルコール分低めのチューハイで。

 

 飲みながら今日一日を反芻する。

 研修、今日も座学だったんだが、メモとか一切駄目なんだよな。全部覚えないといけない。普段の生活とはかけ離れていてインパクトあるから覚えやすいけどね。

 今日は、会社とダンジョンの仕組みだった。

 

 初日に就活フェアの会場とダンジョンの関係で気付いたが、今世界にあるダンジョン、どうも異なる時空にあるらしく、特定の人間しか中に入れないらしい。その為にああいう求人活動をしているんだと。

 あまり大規模に行うと崩壊する。(海外で一度に数百人で探索に入ったところダンジョンが崩壊したそうだ)

 

 会社はダンジョン探索のみを業務としている。実際に探索を行う人、後方支援、出土品の調査や研究と行う部門、事務等組織は一般の調査会社とあまり変わらないらしい。

 だが、会社の人間は事務方なども含め、全員ダンジョンに入れる人間とのこと。おお、なんとなく少し未来が明るくなった。どうにか、裏方の仕事に回れないだろうか?配属希望とか出せるのかなあ。

 

 俺たちは来週からダンジョンに入って実地研修。うーん、やはりあのスライムと戦うんだよなあ。でもそこをクリアしないとクビになってしまうから、何とかやらないと。

地下5階までは研修用フロアなので、やられても大事には至らないとの事。

 …って、それより下の本番?フロアでやられたら大変な事に?不安そうな目で見た俺に山下さんはにっこり笑っただけだった。

 

 うーんうーん。

 考えれば考えるほど不安しかないな。

 しかも、誰かに愚痴を聞いてもらう訳にもいかない。この気持ちを共有出来る奴が欲しいなあ。

 桃原?…うーん。あんまりウマが合いそうに無いんだよなあ。明日相良さんをメシに誘ってみようかな。

 

 そんなことを考えながら眠りに入った。

 

 

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