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003 出社初日、まだ酔ってるのか俺?

「うえっぷ…」


 4月1日、霞が関駅で満員電車から降りた俺はトイレに直行。しばらく便器と対面お友達状態に…

 なんとか出て来てて洗い場で口をすすぐ。顔を上げると3日くらい完徹した後のような酷い顔の俺が居た。


「ちくしょう、あいつら覚えてろよ。」


 ふらふらと駅の売店に向かい、ソ●マックとレッド●ルとミネラルウォーター、それからミントタブレットを買う。

 昨夜は、入社に備えて早めに寝ようと思っていた所に、同期生の奴らがなだれ込んできて、なし崩し的に大宴会になってしまった。あっさりと都内での就職が決まった俺は絡まれまくって飲まされ、ようやく明け方に解放された。

 結局、ほとんど寝ないままに入社1日目を迎えてしまったのだ。


 飲み物飲んで何とか歩ける状態にして、会社に向かう。

 面接以来だなー。

 会社は霞が関の一角の古いビルの5階にあった。面接の時も思ったけど、多分戦前からあるくらいの古い建物だ。

 5階に上がり受付で待っていると、総務の人らしき女性が来て中に通された。


 会議室のような部屋に入ると、既に2人部屋の中に居た。軽く会釈して自分の名札が置かれた席に座る。

 他には名札が無いって事は、同期はこの2人ってことなのかな?

 まあ、そんなに大きな会社ではないからこんなもんなのか。

 1人はいかにも体育会系といった感じの大柄な兄ちゃん。うーん…あまり気が合いそうにないなあ…

 もう1人はショートカットのちょっと気の弱そうな女子。結構若そうだから短大卒なのかな?

 

 そんな風にしていたらまたちょっと気分が…

 もう一回トイレに行っておこう、と席を立ち上がろうとした時、部屋の扉が開いてさっきの総務の人らしき女性が書類を抱えて入って来た。

 慌てて席に座りなおす。

 やべえ、最後まで持つかなあ…

 

 

 その後は、会社の案内、待遇や守秘義務についての説明をしていたが、正直ほとんど何も聞いていなかった。

 とにかく、気持ち悪くて早くトイレに行きたかった。

 説明が終わって、ようやく最後の契約書へのサインとなった。よし、これを書いたら一旦休憩になるからトイレに行ける。

 早くサインして終わらせちまおう、と思ったら、もう一人の男子が手を挙げて質問なんかしてやがる。

 

「あの、これ社名のところはこれでいいのでしょうか?」


「あ、はい。皆さんはここからの出向扱いで『ジャポニカ』勤務ということに建前上なりますから。」


「建前上って?」


 あー、もうそんな細かいところいいからさっさと終わらせちまおうよ。

 切羽詰まってたので、男の方をちっと見たら目が合ってしまった。慌ててそらしてさっさとサインをする。

 

「細かいことは、この後の業務内容の説明の時に行います。もし、その時点で何かありましたら、こちらを破棄することも可能ですから安心ください。」


 そーそー、折角就職できたんだし多少は目をつぶらないとね。

 

「では、10分休憩します。」


 お姉さんの声に俺は挨拶もそこそこにトイレにダッシュした。


------


 トイレから戻って来ると、部屋の中に男性が居た。スーツをパリっと着こなして、きちんと整えた髪にフチなし眼鏡。いかにもエリートサラリーマンか官僚っていう感じだ。

 なんか、調査開発の会社っぽくないというか…


山下ヤマシタと言います。今日はこれから、守秘義務についてと皆さんの立場、これからの生活について説明します。よろしくお願いします。」


「よろしくお願いします。」


 あ、やはりこの人が講師か。

 山下さんは先ずはこれから、と俺たちの席に一つずつ物を置いていく。

 なんだろこれ?

 持ってみるとミサンガ?ファイ●ンのようでもある。編み込み模様の腕輪…かなあ?


「今配ったのは、まあ、腕輪のようなものと思って下さい。左右どちらでもいいので手首にはめて下さい。」


 そう言われてもはめるにはちょっと小さい。両手で引っ張っても特に伸縮性はないし… 俺たち3人が戸惑っていると


「はめたい腕と逆の手で持って、はめたい腕に通して下さい。そのままはめたい場所で手を離してください。一旦はまると位置を直せないので気を付けて。」


 山下さんの言葉に、俺は左手で腕輪を持つ。右手の先から手首を通すように…おお!?

「おおっ?」


「えっ!!?」


 他の2人もびっくりした声を出している。

 そうだよなあ、固い腕輪だと思っていたのに、すっと大きくなって拳のところを難なく通過した。一体どうなってるんだ?これ。

 おっと…

 一旦はまると直せないって言ってたっけ。

 右手首の先の方で位置を確かめると左手を離す。

 うわっ。

 腕輪はシュルっと縮まって、手首にぴったり収まった。慌てて左手で掴んでみるがしっかりと手首に固定されて動く気配が無い。なんだろうこれは?


「はい、リングはしっかり装着できましたね。」


 山下さんの声に、リングを触ったりかざしてみたりしていた俺たちは慌ててたたずまいを直す。

 

「では、改めて。皆さん、おめでとう。内閣府へようこそ。」


「ええええええっ!?」

 

 つい、大声をあげてしまった俺。


「喜瀬さん、どうしました?」


 山下さんが聞いて来る。真顔だ。冗談じゃないらしい。

 

「『ジャポニカ調査開発』だと…」


「それは、建前上の出向先の会社名ですね。皆さんの所属は内閣府になります。先程の契約書にも書いてあった筈ですが。」


「あ、は、はい。」


 それでさっきあいつが聞いてたのか。そう思って男の方を見ると、今更何言ってるんだコイツ、という冷ややかな視線。くそう…

 でも、なんでだ?

 内閣府なんて中央省庁でも上位も上位。そこに3琉大卒の俺がなんで就職できるんだ?さらに、なんで別の会社名で募集してたんだ?

 そんな事を思っていたのが多分顔に出ていたんだろう。山下さんが話を続ける。

 

「内閣府では現在、国の重要機密にあたる調査発掘を行っています。これには学歴や経験等には関係なく、特殊な適性を持った人が必要です。その為あなた方を採用させて頂きました。」

 

 なるほど納得。

 

「そして、皆さんのこれからのお仕事、それは。」


 でもなんだ?内閣府って言うと国の中枢機関だよね。スパイとかかね?いや、俺にそんな才能は無いはず。

 他の2人もそんな感じじゃないよなあ。

 そう考えてた俺に山下さんは今日2度目の爆弾を落としてきた。

 

「それは、ダンジョンの攻略です。」

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