001 プロローグ(腰抜けと呼ばないで)
みょいーん!
「うわぁぁぁっ!」
そんな擬音が似合いそうな感じで飛びかかってきたソレを避けようとして、俺は盛大にしりもちをついた。手にした剣?が床に当たってカシャーン!と洞窟内に派手な音が響いた。
「こらぁ!逃げるんじゃねえ、戦え!」
インカムから横山さんの怒鳴り声。
いや、ちょっと待って。いきなりこれは無理、頭がついて行ってない。
「とにかく剣を拾え。」
しりもちをついたまま固まっている俺に業を煮やしたのか、また横山さんの激が飛ぶ。言われて慌てて周りを見渡すと、直ぐ近くに剣はあった。取ろうと伸ばした自分の腕には鳥肌びっしり。
いや、そうでしょ。
生まれて初めてこの世のモノでは無いものが目の前に居るんだよ?しかもそれが自分に向かって攻撃して来るんだよ?
パニックにならない方がおかしいでしょ?
「すっげー!リアル異世界じゃーん、最強目指すぜー!」
なんてお目出たい脳は持ち合わせて無いんだよ。こちとら良識ある社会人…の1年生……の試験採用期間中だけどさ。
これ、やっぱり適正検査の結果が間違ってたんじゃね?などと考えてたら、またインカムに怒声が響いた。
「おい、ぼーっとしてるんじゃねえ!次来るぞ!」
言われてハッと前を向いたら、ソレはもう目の前だった。次の瞬間
バインっ!
という音とともに俺は後ろに吹っ飛んだ。
痛ってえええええっ!
顔を殴られたような衝撃。
大体子供の頃から文科系ひとすじで、ケンカしたり殴られたりしたことなんか無いんだよ。ほんとに。
横っ面を殴られたってこういう感じなのかね。くそう。あー、でもやはりこういう場合はお約束はしとくべきだよな。
「お、オヤジにだって殴られたことないんだぞ。」
「ほう、そんなセリフが言えるならまだ余裕あるじゃねえか。…ってんな古いアニメのセリフをとっさに吐けるとは。お前本当に新卒なんか?」
やはり横山さん、見た目40代後半なだけにきっちり拾ってくれる。はいはい、確かに見た目老けてますけど正真正銘23歳(1浪)ですっ。古いアニメ好きなだけで。
…って、そんな事してる場合ではないんだけど。
「ほら、さっさとやっちまいな。そいつは中心の核の部分を一突きで倒せるって座学で教えたろう?」
「いや、それは分かってるんですけど…生理的に気持ち悪い。今まで生き物殺したことないし。」
次の攻撃の為か間合いを計っているように見えるソレ。だけど目が無いからイマイチ状態が見極められない。
細かくプルプル震える緑の透明なゼリーみたいなものの中心に薄っすらと丸い半透明なところがある。
あれが「核」だよなあ。そうすっと、ど真ん中を突き刺さないと駄目だよね。
突き刺した時の感触を想像したら鳥肌が倍増した。
うー、逃げ出したい。
「やらねえのか?」
「…ううっ」
横山さんが追い打ちをかける。
「いや、そうやっててもいいんだけどよ。試験期間中に地下5階までクリアしないとクビになっちまうぜ?」
「……」
そうなんだよなあ、せっかく就職出来たんだし、なにしろここはありえないほど好待遇。これで不採用とかになったら…
うわ、それだけは避けたい。
剣を両手で握り直し、目の前のソレを見つめる。ソレも俺の視線に気づいたのか、さっと身構えた…ような気がした。
しかし、やっぱり現実には居るはずもないソレに対面して、身体がガクガク震えてしまう。まだ、ライオンの方が?
うーん、でもライオンだと襲われれば確実に殺されるし。それを考えればまだいいのか?
でも、倒して剣で刺してヘンな体液とかまき散らされたらそれはグロで嫌だ。
いや、生き物と思わなければいいんだ。というか、現実と思わなければ。
バーチャルなゲームだと思ってしまえば…
「…やります。」
「おし、根性見せろよ坊主!来るぞ。」
「うぉりゃあああああああっ!」
正面から顔に向かって飛んできたソレ、スライムに対し、俺は両手で握りしめた剣を真っすぐに突き出した。
目を固くつぶったまま…
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久しぶりに小説を書いてみようと思いました。
週2-3で更新できればと考えています。
よろしくお願いします。