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Phantom Song  作者: 聖 聖冬
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優しい人よ

警察が帰った後、天音の勉強を見ていた鈴鹿が、わざとらしく声を上げる。


「そう言えばさ、この近くにパンケーキ屋が出来たよな」


「ふーん」


「そうなんだー」


天音とふたりで冷たくあしらうと、鈴鹿はあれ、と言うような顔で立ち上がる。


「パンケーキ屋だぞ? 甘いものが好きな聖冬が何故食いつかない、もしかして本当に風邪か?」


「いや、あんな事があった後で外出しようだなんて思わないでしょ。それに外には出たくないし」


「休日にパソコン弄って人に作ってもらったご飯食べて、お前はニートかこら。仕事はどうした」


「んー、何か休みまーすって言ったら。んー良いよーって言われてさ、おーラッキーで今に至る」


「何の為に私は早く仕事を切り上げて来たんだよ、車で約三十分飛ばして聖冬の家に来ました、不審者が居ました。無事だったけど本格的に引き籠りこじらせてました、笑えるか!」


ひとりで騒いでいる鈴鹿に、問題が分からず手を止めていた天音が、冷静に一言を放つ。


「ひとりで騒いでてさ、楽しい?」


そう言われた鈴鹿は静かに正座をして、小さな声ですみませんと謝る。


「まぁ全員疲労が見えてきたし、行くのも悪くないとは少しだけ思わない事も無いかも」


「だよな聖冬、こんな生意気なの置いといてふたりで行こう」


「また不審者が来るかもしれないけど、天音は行かない?」


「そんな事言われたら怖くて居れないじゃんか」


「それが狙いだからね」


ダンボールから服を引っ張り出して、ジーンズを履こうとすると、留め具が届かない。


静止して暫く考えた後で、もう一度挑戦するが、同じ結果に終わる。


「聖冬早く着替えろよ」


取り敢えずワイシャツを着てボタンを止めて、もう一度だけ挑戦してみる。


「鈴鹿」


「何だよ」


「もうひとサイズ大きいの無かったっけ」


「聖冬が持ってるジーンズはそれだけだろ。私服で外出することすら少ないから一枚だけで良いっていつも買わないだろ」


ワイシャツとジーンズを脱ぎ捨てて、元々着ていた高校のジャージを着る。


「よし」


「よしじゃねーだろ、ジャージは有り得ない。高校生に見えるけどそれは無い、個人的にはありだけど。何で部活帰りみたいなお前を連れてパンケーキ屋に行かなきゃならんのだ」


「まぁ、これがいつも通りと言うか」


「どうせ運動してなかったから、前が閉ま……」


「それだけは言わないで。違うから、胸が大きくなってたから閉まらなかっただけで」


「お前の胸はそんなに下に付いてんのか? えぇ? 言ってみろやこら。て言うか万年A以下が何を言うか、今更大きくなってもA以下だろうが」


鈴鹿に両頬を引っ張られて、天音に哀れんだ目で腹の肉をつままれる。


「酷い鈴鹿、胸に行く筈の肉が何故かお腹に行くのよ。部活やってる高校生と、現役の警察官と一緒にしないでよ」


「その警察官を頻繁に呼び出すお前は何様だよ。SPだから暇だと思うなよ」


「最近は九条とか言う人のお陰で要人を狙う人が全く居なくなったんだから、それ程今は仕事が無いでしょ」


「下見とか訓練とかあるんだよ」


「最近の政治家はゴミばっかりだけど、そんな人の為に税金やら命やら失われるのは納得がいかない」


「仕方が無いだろそれが仕事なんだから。その為にお前の研究が期待されてるんだろ」


「唯の戦争の道具よあんなの。どうせそっちに流れるんだから」


鈴鹿に頭突きをされて、頬を手で挟まれる。


「これ以上国を悪く言うのは駄目だ、勿論それ以上に自分の研究に誇りを持て。お前の頑張る姿を私は見てるから、必ず世界を変えてくれる筈だ」


「そんなの……分からないじゃない」


「泣くなって、私が悪いのか? 後免強く言い過ぎたって」


「違う、ひとりでも信じてくれてる人が居て……少しだけ嬉しかっただけ」


「もう訳が分かんないもの見せられて頭が追い付かない。早く行こうよパンケーキ屋」


待ちくたびれた天音は、私が着ようとしていた服を着て、ソファーの上のクッションを殴っていた。


結局鈴鹿の車にあった変装用のワンピースを借りて、渋々家を出る。

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