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Phantom Song  作者: 聖 聖冬
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不器用

急な呼び出しで帰った鈴鹿を見送った後、勉強で疲れて眠てしまった天音を放置して、ずっと猫の人形を抱えていた心桜に話し掛ける。


「心桜は実体化とか出来ないの? 鈴鹿が夕飯を作ってってくれたんだけど、天音が帰った後一緒に食べれないかな……なんて思ってたりして」


「それがね、ずっと練習してたら出来るようになったよ」


そう言って私の髪に手を伸ばす手が、徐々にはっきりとしたものに変わる。


心桜の指先が髪に触れると、ソファーの上で体重が移動する事で聞こえる、軋むような音がした。


私から視線を一瞬逸らした心桜は手を引っ込めて、テレビの裏側に逃げる。


「あ、もう一時だ。お昼ご飯作るから待ってて聖冬」


「うん、寝起きだから怪我はしないようにしてよ」


「大丈夫だって。夕飯は戦闘民族が作ってくれたし、一食楽になったなー」


「泊まらせる気は無いからね」


「またまたー、そう言っていつも泊めてくれるくせに。みーちゃんはツンデレだなー」


「今すぐ帰ってもらっても構わないけど?」


「冗談だってー、脅しみたいな事言わないでよ」


机の上に置いてあったスマホが振動して着信音が鳴ると、飛び上がった心桜が今度は部屋の隅に避難する。


画面に表示されたのは親戚の名で、天音の母親である天愛楽まいらさんだった。


メッセージアプリを開いて確認すると、今日から一週間長野に帰省するとの事だった。


その文を読んだ瞬間、天音にすぐ帰るように言おうとしたが、メッセージが再び送られて来る。


「テストの結果次第で大体の要望には応えます(天音が)」


キッチンに視線をやると、丁度作り終えた天音と目が合った。


にこにこしながら机に皿を置いた天音は、箸を二膳並べてソファーに座る。


「どうぞみーちゃん」


「次のテストでは全て八十点以上取る、じゃないと天音は死ぬと思いなさい」


「テスト一回が重いよ、全教科で八十点以上なんて取ったことないんだけどな。六十点以上ならあるけど」


「私でも全教科九十五点以下取った事無いから大丈夫」


「みーちゃんと同じ頭にしないでよ、研究者なら頭の良さは遺伝するって知ってるでしょー」


「五十パーセントは遺伝だけど、もう半分は生後の環境で変わるわ、だから五十パーセント勉強すれば……食べよっか」


「見捨てるなー! 頑張ってボルシチ作ったのに」


スプーンで肉を口に運ぶと、ロシアで食べていたよりも美味しい。


確認の為キッチンを見ると、作った後にも関わらずすごく綺麗な状態になっている。


ついでに昨日から放置してあった食器やグラスも洗われていて、全てが完璧な状態になっていた。


「天音?」


「どうしたの突然キッチンを見回して」


「どちら様?」


唐木からき天音ですけど」


「よし、炊事担当の嫁ということで採用」


「変な事言ってないで食べてよ」


ソファーに戻って再開すると、私に体をくっつけてもたれかかってくる。


「食べ難いんだけど」


「ありがと。ロシアまで家出した時も寒い中空港まで迎えに来てくれたり、その後気が済むまで家に泊めてくれたり」


「変な事言ってるのは天音でしょ、だって何かあったら私の責任になりそうだし」


「うわ、意外と理由がクズだった」


「冗談に決まってるでしょ。突然甘えられてもどうすれば良いか分からないって。そう言う冗談で繋ぐしか思いつかなかったの」


「そういう時は黙って抱き締めるとか、頭を撫でるとか、あえて何もしないとかあるでしょ。本当に人が関わると弱いなー」


「……」


「何もしないタイミングが違う」


「えー、難しいな」


吹き出した天音は座り直して、自分の皿に手をつけて食べ始める。


試された気がしてあまり良い気分ではなかったが、天音なので取り敢えず許してしまえる。


鈴鹿と言い天音と言い、何故かこのふたりにだけは怒れない。


それもふたりの事情を知っているからか、唯ふたりの性格がそうさせるのかは分からない。

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