新たな一歩
心桜と和解してから一夜が明けた、今まで寝ている姿を見ていなかったのに、もう私に寝顔を晒して眠っている。
研究所に行く準備を進めながら、天使のような寝顔を見つめていると、男ということを忘れてしまいそうになる。
友希も同じように女みたいな顔をしているが、格好は男の格好をしている。
それでも男装をしている女の子にしか見えず、服の効果が一切役に立たた無い。
今度女装をさせてみようと考えながら鏡を覗き込むと、心桜がいつの間にか起きていた。
「うゎぁぁ……びっくりするなー」
「良い反応でした。おはようございます」
「おはよう」
「朝からにやにやしてますね」
私の顔を鏡で見てそう言った心桜は、実体化している手で私の頬を触る。
「朝から可愛い寝顔が見れたからね」
「……今度から早起きします」
「それは困るかな。定期的に可愛い子を見ないとやってけないし」
「そですか。見るにしても口には出さないで下さい」
「見させてはくれるんだ」
顔を少し赤くして目を逸らした心桜は、逃げる様にキッチンに歩いていった。
可愛いなあと満足していると、いつの間にか遅刻ギリギリまで時間が進んでいた。
「まずい、行ってくる」
いつも通り行ってらっしゃいの一言も言ってくれないから、まだまだかと肩を落とす。
ギリギリで研究所に滑り込むと、響夜が私を一番に見つける。
「おはようございます聖冬さん」
「おはよう。被検体の様子は?」
「問題なく、正常に機能してますよ」
パソコンの前に移動した響夜は、デバイスに転送させたデータを私に見せる。
「へー、凄い」
背後からする聞き慣れた声に振り返ると、当然の様に友希がデバイスを見て頷いていた。
バレたと言うような顔をすると、机の上に置いてあったチョコを私に差し出す。
「これでご勘弁……」
「それここのだからね」
「ケチ」
「学校に行きなさい」
「ケチ」
「行きなさ……」
「ケーチー」
友希の腹を両手で鷲掴みして、擽りながら研究所の外に追い出す。
ギブアップの意思表示に私の腕を叩く友希を離して、ここに居る訳を聞く。
「だって学校帰りつまらないんです、誰かが解明した化学を学ぶなんて無駄なんですよ。私は全ての深淵を見たいんです、自分の目で、体で、頭で考えて。新しい世界を見たいんです」
「だからってここに来ても何も無いけど」
「いえいえ、とても興味深いです。特に聖冬さん、とても気になります」
「分かったから、分からないけど分かったから学校行って。話は授業が全て終わったら聞いてあげるから、私も忙しいの」
むくれた友希はいつの間にか手に持っていたチョコの包み紙を開けて、口の中に放り込む。
「忙しいとか言ったら駄目ですよ、その漢字は心が亡くなるって書くんですよ。そんなのは悲しいです」
「何突然。分かった、仕事が沢山あるから時間潰してきて。学校でね」
「ならその辺の図書館で……」
「学校でね」
「はーい。終わったらまた来ます」
珍しく折れた友希は、走って来た誰かに引っ張られて走って行く。