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Phantom Song  作者: 聖 聖冬
12/17

ネメシス

重い体を起こして風呂に入り、友希のデバイスの中にあったアプリを開く。


画面に出て来たのは通っている学校のらしく、電子生徒手帳が表示される。


県内にある有名な学校で、よくCMでも見かける学校だった。


仕方なく仕事の前に届けに行こうと、鈴鹿が置いていってくれた服を着る。


天音に置き手紙をして、机に置いてから外に出る。


丁度隣からも人が出て来たらしく、顔を合わせて会釈をしておく。


「あの、もしかして聖冬さんですか?」


出て来た青年は私に恐る恐る声を掛けて来て、もじもじしながら指と指を絡めたりして気を紛らわす。


「はい。あの、どちら様でしょうか」


「僕は降魔ごうまりんと言います。えっと、九条君から僕の家の隣の人は凄い人だよって聞いたので」


丁寧に挨拶をした後、身を乗り出して喋り出した少年に、殆ど人と話さない私は既に目が死んでいる。


何故友希に住所を特定されたのか、鍵をどう開けたのかとか、色々問いたい事が沢山ある。


「九条に会ったら伝えて下さい、学校終わり次第私の研究所に来る様にと」


「あ、分かりました。伝えておきます、お邪魔してすみませんでした」


深々と頭を下げて走っていった少年を見送って、研究所に向かう。


建物の中に入って全身の殺菌を終え、五番の被検体の前に立つ。


特に以上も無く、今まで通り体の中にあるチップが、健康状態をパソコンに送り続けている。


被検体も衰退する様子は見られず、発表す日ももうひと月も無いかもしれない。


「聖冬さんおはようございます。珍しく一番なんですね」


「そうね。珍しく一番」


「そう言えば、昨日誰かと出て行きましたよね。妹さんですか?」


「いや、同じ研究者の九条って人だけど」


被検体に挨拶をしながら準備をしていた響夜は、その名前を聞いて手を止める。


「九条さんってあの有名な九条さんですか? 見たことないんですよ本物を、論文を見ててすっかり憧れになってしまって。やっぱりあんなに凄い事を証明してしまうんですから、お爺さんとかですか?」


目を輝かせながら言葉を次々に撃ち出す響夜に圧倒されながら、未だに進展を見せない人工知能の実験室に移動する。


付いて来る響夜は質問に答えて欲しいのか、珈琲を淹れて私の前に出す。


「私とそう変わらない年齢、響夜くんともそう変わらないってこと。大学生二年生らしくて今朝びっくりした」


「えー! 確か発表したのが二年前だから、高校生で放射性廃棄物をエネルギーにする方法を見付けたんですか! オゾン層の復元も宇宙の巨大コロニーも全て……天才って怖いですね」


ひとりでわいわい騒ぐ響夜を無視して、珈琲に口を付ける。


「苦い……」


急いでティッシュで口から溢れ出た珈琲を拭いて、スティックシュガーを六本入れる。


「入れ過ぎですって、病気になってしまいますよ」


「飲まなかったらどんな事が起こるか分からないよ。ほらほら良いのかな、その手を離して私に飲ませるのだ」


「いつもの聖冬さんじゃないよ、どうしよう」


「その手を話せば良いんじゃないかな?」


突然現れた九条に驚いた響夜は、珈琲の入ったカップを跳ね上げる。


宙に舞ったカップが開発途上の人工知能を管理している機器の真上に滑り、逆さまになって珈琲を振り撒く。


咄嗟に機器に覆い被さって背中で熱い珈琲を受け、後から落ちて来たカップを頭に受ける。


「聖冬さーん! 御免なさいすみません申し訳ありません」


「あはは……ナイス根性」


何の恨みか覚えは無いが、私に被害を出さないと済まないこの凶星ネメシスは、拭くのを手伝いもせずに唯見ている。

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