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投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。
よろしくお願いいたします。
ルードヴィヒに捕まり、遅ればせながらも逃げようとサラも自分の腕を引くが、ビクともしない。
「離して!」
「離せば逃げるとわかっているのに離すやつなどいない」
互いに一歩も引かないままだったが、いくらサラが踏ん張っても、やはりそこは男女の差でルードヴィヒに軍配が上がった。
それでも往生際悪く悪あがきをするサラは、フカフカの絨毯に懸命に足を突っ張っていた。
「あっ、」
しかし、サラを引っぱる力が急に弱くなり後ろにバランスを崩した次の瞬間、強く引っ張られ俵を担ぐようにルードヴィヒの肩に担ぎ上げていた。
急に変わった視界と高いところに持ち上げられたせいで、サラは思わずルードヴィヒにぎゅっと抱きつく形になってしまった。
「降ろして!」
「嫌だ。そこで大人しくしていろ」
ルードヴィヒの足取りは軽く、サラの重さなど感じていないかのように廊下を颯爽と歩いていく。
それに比べ担ぎあげられたサラは、最初から混乱していたところに担ぎ上げられ、もうスカートの裾を気にすればいいのかみぞおちに当たるルードヴィヒの肩を意識すればいいのか、はたまた異性に担ぎ上げられているこの状況を意識すればいいのかどうしていいものかわからなくなっていた。
そうこうしているうちに、廊下に並んだ部屋の一つにルードヴィヒはその身を滑り込ませた。
ガチャリと内鍵がかけられ、ようやくサラの足は地面に降り立った。
降ろされたサラは、すぐさまルードヴィヒと距離をとり、手負いのケモノのような険しい顔でルードヴィヒを睨みつけた。
「私は、国滅ぼしの悪魔じゃないわ」
険しい顔のサラとは対照的に、サラを見つめるルードヴィヒの目は落ち着いていた。
「あぁ、そうだろうな」
「…」
「もし言い伝え通りに国滅ぼしの悪魔の生まれ変わりだとしたら、膨大な魔力があるはずだ。
だが、サラからは強い魔力を感じない。
そもそも、膨大な魔力がある奴が俺に魔力を送ったぐらいでこんなにへばるわけがない。
よって、お前は国滅ぼしの悪魔なんかじゃない」
ーなんてとんでもないことをさらっと言うのか。
目の前のルードヴィヒの言葉に、ぽかんとあけてただ目を見開いて見つめてしまった。
何も言わないサラを、不思議そうに首を傾げてルードヴィヒも見つめていた。
「…本当にそう思っているの?」
「なんだ?違うのか?やっぱり生まれ変わりなのか?」
「違うわ!」
「ははっ、それなら違うってことでいいだろう」
サラがいくら自分は国滅ぼしの悪魔じゃないと言っても、誰にも信じてもらえなかった。
先ほど見たフェリクスの姿はサラの瞳を見た人間の当たり前の反応だ。
きっとルードヴィヒも今までの人たちと同じだろうと勝手に思っていた。
それだけサラはこの目を見た人たちが、自分のことをどう思っているのか嫌という程見てきたからだ。
それなのに目の前のルードヴィヒという男は、会って間もないサラに事も無げにその悪魔ではないと明確な理由までつけて言ってのけたのだ。
言葉にならない思いがサラの胸に込み上げては、その瞳からあふれ落ちる。
「信じて、くれるの?」
「信じるも何も純然たる事実を言ったまでだ。
もし仮に、お前が国滅ぼしの悪魔だったとして俺に災厄が降りかかったとしても、俺の見る目がなかっただけのことだ」
まっすぐにサラを見て答えるルードヴィヒには、怯えも不安もない。
もうサラの声は言葉にならなかった。
ルードヴィヒはサラが落ち着くまで静かに寄り添い、サラがポツリポツリとこれまでのことを話すのを辛抱強く聞いていた。
ルードヴィヒに話したおかげで、ようやく落ち着いてきた。しかしこうして冷静になると、急に恥ずかしさが込み上げてくる。
「あの時、殺されるかと思いました」
「フェリクスは職務に忠実な男だ。俺が呪いを受けてから余計にな。
だがもしもの時は、もちろん俺が止めていたから安心しろ。
それに、俺はお前に約束をした。どんな憂いも取り除いてやると言ったはずだ」
サラは最後の言葉を聞いて、これではまるで恋人同士の甘い会話のようで照れ臭くなってしまった。
サラが頬を赤らめたそのとき、部屋の奥の長椅子からバサバサと本が落ちる音が聞こえた。
2人が弾かれたように音の方へと顔を向けると、誰もいないと思っていたその場所には、本に埋もれながらも気まずそうにしている白い猫が一匹座っていた。
「えぇーっと、邪魔しちゃった?ごめんね?」