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今回は短いです。
「サラさんはどちらの出身ですか?」
ルードヴィヒの部屋へ行く間、フェリクスに話しかけられるとは思ってもいなかったので、サラは突然のことに驚いてしまう。
「生まれは北にあるビュールの村です」
「あぁ、あそこは大きな風車のあるのどかそうな村でしたね」
「とても小さな村なのに、良くご存知ですね」
「一度あちらの方へ行く機会がありましたから、覚えていたのですよ」
サラの生まれたビュールの村は、王都からもかなり離れていることに加え、特産品なども無い小さな村だ。
だから、フェリクスが村の目印となる風車のことを知っている事に、驚いたのだ。
「そうそう、確かあそこの近くにはハーフェンの森が近くにありましたね」
「はい。実り豊かな森ですから、良く母と一緒に木の実を取りに行きましたよ。
フェリクス様もハーフェンの森に入られたことがあるんですか?」
「いえ、その時は近くを通るだけでしたので」
サラの生まれたビュールの村の近くに、ハーフェンの森と名のついた森がある。
森の中のどこかに死者の魂が天に昇るための場所があると言われているが、見たという人の話を聞いたことはない。
森の近くに住んでいる村人にとって、そこは山の恵みを分け与えてくれる豊かな森だ。
サラも小さな頃に何度か母とともに行ったことのあるその場所は、小さな頃の幸せな記憶を呼び起こしてくれる。
そのおかげか、サラは先ほどよりも随分と柔らかい表情をしていた。
それとなく観察していたフェリクスも、サラの様子をみて幾分か表情を緩めた。
フェリクスもサラが自分といると、緊張してしまうことを分かっていた。
ルードヴィヒのことを考えれば、警戒しないわけにはいかないが、威圧をしたいわけでもない。
白黒がはっきりすればフェリクスとしても万々歳なわけで、無言で歩くよりも、少しでも判断材料が集められればと、日常のなんてことのない話題を振ったのだ。
そうこうしているうちに、2人は目的の場所へと到着した。