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今回はかなり短めです。
ーサラちゃんのこと色眼鏡なしでちゃんと見ておあげなさいよ〜ー
先日、フェリクスが資料室でクリスティアンに言われた言葉だ。
そして今手渡された書類にも同じことが書かれている。
もちろん文の内容は他の人間にはわからないようにはなっているが、それをわざわざ暗号にして、サラ本人に届けさせるクリスティアンの神経はどうなっているのか。
ーわかる訳がない。
以前話した時に彼本人が魔術は一流、人としては変人と言っていたではないか。
眉間に寄せられてしまったシワを揉みほぐすように押さえるものの効果はない。
目の前でアタフタしているサラのことを思い返せば、初めて店を訪れた時だって、疲れ切った2人を見てわざわざ滋養のあるお茶を出してくれた。
召喚状で呼び出し、こちらの無理難題にも些か強引ではあったが、最終的に彼女自身が是と返事をくれた。
疲れていたであろうその日にも、しっかりと役目を果たし、不審な動きは何一つなかった。
ちょっとお人好しで責任感もある、人としては好感を持てるが、サラがルードヴィヒに仇なす者であるかどうか、あの短い時間では判断がつかなかった。
これからサラとはルードヴィヒのためにも良好な関係を築いていくべきだと思っていたところに、あの眼を見てしまった。
今思えば、王宮に留まる事を断ろうとしたのも、あの眼を知られる事を怖れてのことだったのだろう。
ルードヴィヒに負担や危険が増すような事態を避ける為ならばなんだってする、それがフェリクスの行動理念だ。
だからあの時、騎士として取った行動にも、一切非はないと思っている。
それでも、フェリクスの本気の殺気をあてられて、青褪めとても傷ついた顔をしていたサラのことを思い出すと少し胸が痛む。
それでもフェリクスが疑い警戒するのは、どんな人間も人柄だけで全てが判断できるものではないと思っているからだ。
もし弱みを握られていたら?人質を取られていたら?その瞳を元に戻してやると取引を持ちかけられていたら?
目的のためならば人はいくらでも残酷になれる生き物だと、身を以て知っているからこそだ。
ルードヴィヒから、サラの境遇を聞いて不憫には思うが、それでも警戒を解くことは出来なかった。
なぜなら国滅ぼしの悪魔の言い伝えは、所々脚色されているものの、あれはこの国で過去にあった史実の話だと知っているからに他ならないのだから。
次回は通常通り金曜日の22:00に更新予定です。