14
昨日ルードヴィヒの魔法のおかげもあって、そのまま朝までぐっすりと眠ることができたサラは、魔力枯渇の怠さも残らずいつも通り研究室に向かった。
サラはゆっくりと休めたが、ルードヴィヒはきっと眠れない夜を過ごすことになってしまったと思うと、少し心苦しい。
研究室に行けば、今までと魔力の様子や魔術を使うのに変わったことがないかなど、あちこちとクリスティアンに確認された。
その姿が幼い頃怪我をして家に帰った時の母と同じだったので、サラは懐かしさに思わず笑みがこぼれた。
特に変わった様子や具合の悪い様子もなく、自分の目でそれを確認できたクリスティアンは、ようやく一安心したようだった。
大事をとって今日は早めに上がるよう言ってくれたので、そのぶん早めにルードヴィヒの元へと向かえるようにクリスティアンに、許可をもらった。
今抱えている書類を騎士団に届ければ、今日の助手としての仕事は終わりになる。
広い王宮の中の他の場所への道順は覚えきれていないが、騎士団の詰所は研究室からも近く、道順も簡単なものなので気構えずに向かうことができる。
だから油断していたのだ。
今サラの目の前には、騎士団の隊服を着た壁が立ちはだかっていた。
「へぇぇ〜、こんなに可愛い子が魔術師団にいたなんてなぁ」
「ねぇ、名前は?」
「…大事な書類を届けなければなりませんので、失礼します」
2人の横をすり抜けようとすると、1人の男がその腕を壁に伸ばしサラの行く手を阻んだ。
思わずその行動にサラはムッとしてしまった。
「通して下さい」
「その顔も可愛いなぁ、ねぇちょっとそこで話でもしようよ」
サラはなぜこんな軟派な騎士たちに絡まれなければいけないのか、そもそも今は職務中なんじゃないのだろうか、今日はこれで終わりなのにと色々と思ってしまう。
サラが動かないのをいいことに、その腕を男がさっと掴み、強引に連れ出そうとした。
「いい加減にしてっ」
「照れなくてもいいんだよ」
「そうそう、怖いことなんてなにもしないしさぁ」
この通路には目の前の男2人以外に、人はいない。腕もサラの細腕では振りほどけそうにもない。
「何をしている」
このままでは本格的にまずいことになりそうだと顔を青くしていたサラに、天の助けとも思える声が聞こえた。
「あぁ?邪魔するなよ、って、リーヴェンガルト副団長!?」
「フェリクス様?」
邪魔をされて苛立ちを隠しもせず後ろを振り返り、声をかけてきた相手が誰だか気づいたとたん、男たちが顔を青くした。
「もう一度聞くが、何を、している」
目の前のフェリクスはサラの知っている彼よりも、声も表情もずっと鋭いもので思わずサラも男たち同様に息を詰めてしまっていた。
「なっ、何もしていません!失礼しました!」
サラに迫っていた2人の騎士の男は、フェリクスの姿を見ると脱兎の如く逃げていった。
「…サラさん大丈夫でしたか?」
「はい、フェリクス様が来てくださったおかげで何もありませんでした。
ありがとうございました」
「なぜここにいるのか聞いても?」
「クリスティーナさんから騎士団に届ける書類をあずかっているんです」
「あぁ、私宛てのものですね。ありがとうございます」
「リーヴェンガルト副団長ってフェリクス様のことだったんですね。
クリスティーナさんが渡したらその場で中身を確認してもらうよう、言付かっていますのでお願いできますか?」
「わかりました」
フェリクスは受け取った書類を確認すると、どんどんその眉間にシワが寄って行き、最後には深いため息を吐いてしまった。
そんなフェリクスの様子にサラはアタフタするしかなかった。
次回はイレギュラーで7/17(月)の22:00に更新しますので、宜しくお願いします。