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サラはもぞりと動くと、ゆっくり目を開けた。


何かさっきまでとても懐かしいような、だけど泣き出したくなるような気持ちで胸がいっぱいだったような気がしていた。


少しの間ぼんやりとしていたが、しっかりと意識が覚醒すると先ほどまでのことを思い出した。

勢いよく起き上がろうとしたが、頭がひどく痛み、思わずサラは呻きながら顔をしかめて、そのまま長椅子に沈み込んだ。


「あぁぁ!サラちゃん気がついてよかったわぁ!」


少し離れた椅子に座っていたクリスティアンが、サラの元に慌てて駆け寄った。


「まだ起き上がっちゃダメよ、身体に魔力が馴染んでないのよ」


起き上がろうと試みたものの、頭の痛さとめまいのせいでサラは起き上がることができなかった。


「無理に起き上がろうとしなくていい」


「…申し訳ありません」


「気にするな。

サラ、お前は魔力枯渇を起こしていた上に、命まで魔力に変えかけていたんだ。


意識が戻ったのならば、もう心配ないな」


クリスティアンも、斜め向かいの椅子に座っているルードヴィヒもサラの意識が戻ったことに、胸をなでおろした。


さっきまで魔力を注いでいた魔石は目の前のテーブルに鎮座していた。

この魔石は魔力を測定するためのもので、それが自分の命を脅かすようなものでは無いはずのものだ。


「サラちゃんごめんなさいね、アタシが離れたばっかりに…」


「そんな、私の方こそご心配とご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありません」


「サラちゃんのせいじゃないわ。

あの魔石は通常魔力切れを起こせば、そこでストップするものなのよ。


これは支給品だから特別なものじゃないし、となればサラちゃんがいつでも命と引き換えに魔力を引き出せる体質?

それとも訓練?誰かにそうさせられてるとか…」


「クリスティーナさん?」


最後の方は独り言になっており、クリスティアンは難しい顔をして、そのまま自分の世界に入ってしまったようだ。


「魔術研究のことになるとこいつはすぐこうなるから、気にするな」


サラは初めて見るその姿に驚いているが、クリスティアンがこうなるのは本当にいつものことのようで、ルードヴィヒは全く気にならないようだ。


「あの、先ほどからおっしゃる魔力枯渇と魔力切れは違うものなのですか?」


「あぁ、魔力切れは厳密に言えば魔力がゼロになったわけじゃない。

身体をめぐる分以上の魔力がない状態だ。


だから魔力切れを起こせば魔術が使えなかったり疲労などの症状は現れるが、命に関わるものじゃない。

しばらく休めば魔力も回復する。


だが、魔力枯渇は本当に魔力がゼロの状態のことだ。体に巡らせる分も全くない。


だから今回のサラのように魔力がゼロになっても使い続ければ、魔力の代わりになるエネルギーが必要になる」


「それってつまり、生命力を魔力に変換していた…」


ルードヴィヒは静かに頷いた。


「魔力がゼロで生命力を使えば、全て使い切った時には命を落とすことになる」


つまり、サラはあのまま一人で魔力を注ぎ続けて、ルードヴィヒが部屋に来ていなければと考えたら、もとよりよくない顔色が更に悪くなった。


「その通りよぉ。だから、魔力枯渇を起こした場合、体力魔力共に回復させなくちゃならないのよ。


幸いこの部屋には体力を回復させる魔法薬はたくさんあったし、殿下が魔力を注いでくれたおかげで、大事にはならずにすんだのよ」


いつの間にか思考の世界から戻ったクリスティアンが、サラを安心させるように明るく答えた。


「たまたま近くにいたのが俺だっただけだ。それに知っての通り、ごくわずかな魔力量しかないから、後はクリスティアンのおかげだ」


「殿下、クリスティーナさん本当にありがとうございました」


サラはなんとか起き上がると、二人に向かって深く頭を下げた。


「そもそもアタシがちゃんと側にいなかったのがいけなかったのよ。

本当にごめんなさいね、サラちゃんが無事でよかったわぁ。

疲れたでしょう?もう少し、休むといいわ」


「いえ、もう大丈夫です。いつまでもここを独占しているわけにもいきませんし」


「青い顔をしてフラフラの状態で、頑張らなくていいのよ。

今はまだ身体に魔力が馴染んでいないから身体を休めなくちゃ、ね?」


「そうだ、サラ。もう少し休め」


そう言うと、ルードヴィヒはサラの目元を覆うように手をかざした。


「あ、あの、殿下?」


サラは咄嗟のことに、フラついた身体では上手く対応することができず、ただ慌てるだけだ。


「そうでなければ、俺も困る」


すると目元が少し温かくなり、流れ込むルードヴィヒの魔力に、サラは目覚める前に感じた懐かしさにその身を委ね、すぐに眠りに落ちていった。


ルードヴィヒは長椅子にサラを寝かせ、その頭を優しくひと撫ですると、クリスティアンが座る席の近くに座り直した。


「通常魔力を注ぐだけで、魔力枯渇を起こすなんて聞いたことがない。


それに生命力を魔力に変換することだって簡単にできるものじゃない。

それ相応の方法や、死を覚悟したものが使うものだからな。


クリスティアン、今一度サラがどんな方法で魔術を使っているのか、調べた方が良さそうだな。


それと念のため、あの魔石も調べるように」


「ええ、色々な角度から調べて見るわ。

殿下の呪いを見破ったことと何かに繋がりが見つかるかもしれないし。


そうすれば、呪いを解く魔術式のアイデアも編み出せるかもしれないし、魔力の馴染み方も面白いのよねぇ。


アタシの魔力に比べて、殿下の魔力はサラちゃんにすごく馴染みがよくて。

たまに馴染みやすい魔力を持つ人もいるにはいるけど、それとは違うような気もするしぃ、なんだか妬けちゃうわぁ」


「…それが幸いして、今回は極僅かな魔力でも効果があったんだろう」


クリスティアンが興味津々な視線を送っていたが、ルードヴィヒは素知らぬふりで窓の外を眺めていた。


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