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遅くなってしまい、申し訳ありません。いつもお読みいただきありがとうございます。今週もよろしくお願いします。

追記〜6/30に加筆修正しました。〜

あの日から数日たち、サラは毎日猫のクリスティーナこと、筆頭魔術師のクリスティアン・リーベルの研究室へと通っている。


あのとき話した通り、クリスティアンがサラを助手として引き抜いてくれたおかげで、侍女として働くことなく、魔術師団に所属することになった。


国お抱えの魔術師は、国の有事の際には前線に立つが、戦がない時分には魔術に関する研究が主な仕事になる。


筆頭魔術師であるクリスティアンの研究室は広い。

が、書類仕事をする机もテーブルと長椅子も、資料やら器具やらが山積みになって物で溢れかえっていた。


ーー研究し始めると熱中しちゃうのよねぇ。今日はちょーーーっとばかり散らかってるだけよぉ〜ーー


白銀のオネエ言葉を話す美丈夫は、根っからの研究者だった。

笑顔で言うクリスティアンに、初めてこの部屋を訪れたサラは絶句した。


魔術師助手の初日の仕事は、部屋の整理整頓からスタートした。


新しい魔術の研究を始めると寝食を忘れることもある根っからの研究者のクリスティアンが新しい魔術を考えるのに没頭すると、研究室は散らかり放題となった。


この研究室では、密命でルードヴィヒの延命のための魔術を研究しており、秘密裏に行わなければならないものだったため、気軽に手伝いを頼める者がいなかったこともこの部屋が散らかった一因だ。


サラによって呪いであることがわかり、現在クリスティアンは解くための魔術を嬉々として考案中だ。


「んー、これもなんだかパッとしないわねぇ。

蛇みたいな呪いなんて、かけた相手はすごく執着してるのかしらん?


あぁ、サラちゃんは、そのまま魔石に込められるだけ魔力を注いでちょうだいねぇ」


「っはい」


サラの奮闘の甲斐あって昨日ようやくこの部屋が片付き、今日は魔力量を上げるための訓練を初めて行うことになった。


今、クリスティアンの研究室の傍らで、サラは魔石に全力で魔力を注いでいる。


今まで魔力量を測ったことなどなかったサラは、魔力量を上げる訓練の前に、まず自分の最大値を知ることから始めるのだ。


魔力を込めることに全神経を傾けているサラをよそに、部屋の主人であるクリスティアンは、机に無造作に広げた魔術式の紙よりも懸命に魔力を注いでいるサラの横顔を興味深く見ていた。


フェリクスから話を聞いた時には信じられなかった。


国一番と言われた自分でさえも見破ることができなかった、ルードヴィヒ殿下にかけられた呪いを、どこにでもいる一介の魔女が見破ったことに。


クリスティアンは魔術の研究以外さほど興味がない。それには人も含まれている。


地位がある分、何か目的があって近づいてくる輩も多いが、興味がないものは独特なあの喋り方で適当に煙に巻いてしまうのだ。


だが、自分でも分からなかった呪いを見破った魔女は別だ。


魔力量はどれくらいなのか、どんな魔術を使うのか、自分の知らない未知の魔術や秘術を知っているのか、見た目はどんなものなのか、この魔女が作った魔法薬の効果はどれくらいなのか、俄然興味がわいた。


きっとすぐに会うことは無いだろうから、偶然を装って見に行こうと思っていたところ、幸いにも会う機会はすぐに訪れた。


フェリクスがサラを王宮へと連れて来た時、偶然だが2人とすれ違った。


ーー凡庸そうねぇ。魔力量は普通、容姿も普通。

魔力量から言って、特別な魔術が使えるわけでもなさそうねぇーー


よくも悪くも平凡そうと言うのが、クリスティアンの感想だ。

高揚していた気持ちが、一気に失われていくのを感じた。


クリスティアン自身も気づかぬうちに、魔女という存在に期待していたようで、落胆とともにため息が一つ溢れた。


魔女への興味を失い、頭をさっさと切り替えルードヴィヒの延命や呪いを解くための魔法薬や魔術式の組み立てをするべく、そのまま資料室で呪いに関する本を再度調べ直すことにした。


思っていたよりも落胆していたようで、あまり捗らなかった。それならばと、仮眠を取ろうと長椅子の上に横になった。


部下らに見つかると休むこともままならなくなるので、簡単に見つからないように、変幻の魔術をしっかりとかけた。


クリスティアンがうとうとし始めたところ、急に誰かが入って来た。こちらに気づく様子もなかったから、そのまま寝たふりをしてやり過ごそうと思っていた。


しかし、相手がルードヴィヒと件の魔女と2人、どんな人間かわからない相手であること、しかし何か退っ引きならない様子に、とりあえずその場では息を潜めることにした。


正直、サラの事情はあまり気持ちのいい話では無かった。

しかし、その話を聞いて失ったはずの興味が再び、クリスティアンの胸に湧き上がってきた。


ーーなぜサラの瞳だけ色が変わったのか、何をすれば瞳の色が変わるのか、きっかけはなにか、魔力量や魔力の質に違いがあるのか、場所による魔術の影響や違いがあるのか、魔術の発動条件は…ーー


自身の胸に、際限無く沸き起こる疑問によってしばらく思考に耽っていたようで、いつの間にかルードヴィヒがサラを慰めていた。


それにしても2人の距離が近く、しかもここは密室だ。


2人の話からすると、フェリクスや他の人もサラやルードヴィヒを探している可能性が高く、下手にこの状況で見つかれば、ルードヴィヒが魔女に唆されたと、難癖をつけられる可能性がある。


更に言えば年頃の女性と密室で過ごしていることも、ルードヴィヒの身分からすると色々とまずい。


後々の厄介ごとを考えた結果、クリスティアンは空気を読まずその場に割り込むことにした。


サラとの短いやり取りでも、人を見た目で判断せず物事の本質を見ようとする、その姿勢は好感が持てた。

猫にも礼儀正しく接する姿が、ちょっと面白かったことは言うつもりはない。


遠慮がちに手を伸ばしてきた時には、大人しく撫でられてやってみた。

逃げられないとわかったからか、嬉しそうに笑顔を浮かべたサラは、可愛かった。


忌み嫌われていると言われる目は、移り行く一瞬の美しい空を切り取ったような、夕闇色は美しかった。


だからもっと近くで、自分だけを映す瞳が見たくて、その目元に唇を寄せた。


ーー隠さなければいいのに。ーー


「クリスティーナさん?大丈夫ですか?」


「あらぁ、ごめんなさいね。大丈夫よ」


心配そうに見つめるサラの目の色は、魔術で隠されてしまっている。


クリスティアンは、自身が思っていたよりも物思いに耽ってしまっていたようだ。


「いいアイデアが浮かばないわねぇ〜。

アタシちょっと気分転換してくるわねぇ。

サラちゃんも魔石に魔力を込め終わったら休憩してちょうだいねぇ」


クリスティアンは、考えていたことを微塵も感じさせない笑顔を貼り付け、さっと変幻の術で猫の姿になると、サラが返事をする前に研究室から出て行ってしまった。


クリスティアンは研究室から出て手近な部屋に入ると、無詠唱で転移した。


「あなたは何故毎回毎回、急に現れるんですか」


クリスティアンが移動した先は、先日ルードヴィヒとサラがいたクリスティアンの資料室で、そこにはフェリクスが壁に寄りかかって待っていた。


「失礼いたします〜。

フェリクスったら、前々からこの時間にって話したじゃないのぉ。

もう忘れちゃった?」


「そう言う問題ではありませんよ。

なぜ扉があるのにそちらから入ってこないんですか」


「次からはちゃんとするわよぅ」


「あなたはいつもいつも…あなたの"次から"はいつになるんでしょうね。

余計なことはいいので、さっさと本題に入りましょう」


「そうね。

じゃあ単刀直入に。サラちゃんはアタシが預かることになったわよぅ」


「ルードヴィヒ殿下に害はないと言えるんですか」


「もちろん変な動きがあれば、すぐフェリクスに教えるわよぅ。それにあの魔力量じゃ、殿下にかけられてる呪いなんてかけようがないわよぅ。

も〜疑り深すぎないかしらぁ」


「殿下に何かにあってからでは遅いんです。すでに今、生死の危機に瀕しているのに、さらなる危険を増やすべきではありません」


「そもそもぉ、サラちゃん以外が殿下に魔力を注いでも眠れない訳でしょう?

もしも仮によ?サラちゃんが、国滅ぼしの悪魔の生まれ変わりだったとしても彼女以外にすがれる人はいないのよ?


だから、殿下に魔力を注いでもらう時には、アタシかアンタのどちらかが必ず側に控えていればいいことじゃないのよぉ。

ほんっとにアンタは頭が硬いわねぇ〜、そのうち禿げちゃうわよぅ」


「ぐっ、それはそうですけど。

クリスティアン、その話し方はなんとかならないんですか!?」


「えぇ〜、そんなこと言っちゃうのぉ?

もちろんどうにかしようと思えばできないことはないけどぉ、この方が何かと便利なことも多いのよぅ。


まぁ、アタシを含めて魔術師なんてものは魔術は一流、人としては変人って方が多いもんなのよぅ。

もう、フェリクスってばわがままなんだからぁ〜。

それとクリスティーナって呼んでちょうだいっていつも言っているじゃないのよぅ」


猫がふくれっ面を作り、くねくねとする姿は可愛らしいものの、その中身がクリスティアンとわかっているフェリクスにとってはげんなりするだけだ。


「…あなたと話をしていると疲れます」


「んもう!結構いい子だと思うのよぉ、サラちゃん真面目だしお掃除も上手よ。

アタシは俄然サラちゃんに興味が湧いちゃったわぁ!


ルードヴィヒ殿下のことを思えば、フェリクスが頑なな態度になるのもわかるけどぉ、サラちゃんのこと色眼鏡なしでちゃんと見ておあげなさいよ〜」


怒涛のごとく喋るクリスティアンに、フェリクスはこれ以上の話はもう十分とばかりに、疲れた顔で頷いた。


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