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第五話

 リズが一瞬で踊り場に到達して、折り返した階段の上を見上げると、階段を上がった先には金髪の青年兵がいた。

 青年は右手には剣を持ち、左腕には短剣が刺さって出血をしている。


「なんだ……!?」


 青年は狼狽の声を上げる。

 リズは一気に階段を駆け上がると、その青年兵に、野獣のように飛びかかった。

 青年兵は慌ててそれをかわそうとするが、敏捷なリズの動きに対応することはかなわず、二階の廊下で、リズに押し倒される形となった。


「ぐっ……! あ、あんた竜人の……」


「リィンはどこ!? あの子に何かしたら、ただじゃ済まさない!」


「ちょっと待て! 俺は──」


 そうして揉み合う二人の横を、階下から上がってきて、疾風のように駆け抜けて行く姿があった。

 トリスである。


 トリスはそのまま廊下を駆けていくと、その先で立ちすくんでいたリィンを無造作に抱え上げ、手近な部屋──リィンとアルヴィンが元いた部屋へと飛び込んで、扉を閉めた。


「えっ……?」


「おい! あいつに何吹き込まれたかしらねぇけど、ヤバいのはあいつだ! さっきリィンをマジで殺そうとしやがった!」


「えっ……ええっ!?」


「んがっ──くそっ!」


 アルヴィンは弱まったリズの拘束を力づくで振りほどき、起き上がって、トリスが潜り込んだ部屋に駆け寄る。

 そして扉の取っ手を持って開こうとするが──ガチャガチャと引っ張っても、開かない。


「くそっ、内側から鍵かけやがった!」


「どいて!」


 少女の声がしたので、アルヴィンはとっさに扉の前から身をよける。

 扉の前に駆け込んだリズは、全力で扉を蹴り飛ばした。


 爆裂火球ファイアボールの魔法が炸裂したような轟音がして、鍵をかけられていた扉が、蝶番ちょうつがいごと吹き飛んだ。

 開いた戸口から部屋の中に踊り込む、アルヴィンとリズの二人。


 しかし、そうして飛び込んだ部屋の中は、もぬけの空だった。

 部屋の窓に設えられた木戸が解放され、部屋のランタンの明かりが外へと漏れている。


 アルヴィンとリズが二人して窓から身を乗り出して外を見ると、リズには、宿の裏手から走り去る人影の姿が見えた。


「あいつ──ちょっとどいて!」


 リズはアルヴィンをどけて、窓から飛び出す。

 宿の裏手の地面に着地し、あっという間の勢いで、逃げた人影を追って走って行く。


 そして、アルヴィンもその後を追おうとしたときに、部屋に別の人物が入ってきた。


「おいアルヴィン、何があった──って、こりゃあ」


 部隊長だった。

 その後からも、寝ぼけ眼の兵たちが次々と部屋に殺到してくる。


「トリスの奴が、リィン──あの竜人の娘をさらって行ったんだよ!」


「はぁ、あのトリスが? っていうかアルヴィンお前、その腕──」


 アルヴィンの説明に、部隊長が抜けた声をあげる。

 アルヴィンはその察しの悪さに苛立つ。

 一秒を争うというときに、こんな連中の相手をしている場合ではない。


「じゃあな!」


 部隊長らほかの兵たちにそう別れの挨拶をしたアルヴィンは、部屋の窓に足をかけ、思い切って飛び降りた。

 四メートルほど下の地面に落下し、どすんと両足で着地する。


 思わず膝をついてしまった。

 両脚を、痛烈なダメージが駆け上がってくる。

 足の骨が折れたというようなことはなさそうだが、すぐに走り出せる状態でもなさそうだ。


「あいつら、当たり前みたいに飛び降りやがって。こちとら常人なんだよ」


 悪態をつきながら、それでも懸命に立ち上がって追いかけようとするが、そもそもトリスどころか、それを追うリズの姿すら見失ってしまっていた。


「ったく、自分でもなんでこんなに必死になってんだかわかんねーけどな」


 アルヴィンはその場に立ち止まり、左腕に刺さった短剣を引き抜いてから、目を閉じて精神集中をする。

 そして口からは、魔法語による呪文を詠唱する。


『我が探せしもの、いずこにあらん──そを我に示せ、移ろいゆくままに──』


 アルヴィンの体内で魔力が活性化し──アルヴィンの意思の通りに、彼が使った魔法の効果は発現した。


「──あっちか。ガキの頃の家庭教師ってのは、案外役に立つもんだな」


 アルヴィンが使った探査シーカーの魔法は、今も移動を続けているリィンのいる方角と距離を、アルヴィンの知覚に伝えていた。

 アルヴィンは、ようやく少し言うことを聞くようになってきた両脚に鞭を打ち、その場からひょこひょこと歩き出す。




 アルヴィンが魔法の指し示す方角へ向かって進んでいると、途中の道端で慌てふためく竜人の少女の姿を見つけた。

 様子から察するに、トリスを見失ったのだろう。


「リィンなら、あっちだぜ」


「分かるの!?」


 アルヴィンが声をかけると、泣きそうな様子のリズが、悲鳴同然の声で聞いてきた。


「ああ、この辺じゃない。探査の魔法が示してるのは、もうちょい向こうだ」


「案内して!」


「するけど、足を痛めてるし、あんたの速さに合わせるのは無理だぜ」


「~~っ! もう、じゃあ乗って!」


 リズはじれったいという様子で、自分の背中をアルヴィンに向け、そこに乗るように言った。

 アルヴィンをおぶるつもりらしい。


「あのな、そんな恥ずかしい真似が」


「うるさい。早く乗らないと殺すわよ」


「お、おう……」


 アルヴィンは仕方なく、リズの背中におぶさる。


「どっち?」


「あっち──うぉわっ!?」


 アルヴィンを背負ったリズは、とんでもない速度で走り出した。


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