象牙
『象牙』
夢にまでみた修道院での生活。
生徒用の宿舎に入った瞬間に、全身の筋肉が引き締まった。
すべてが象牙でつくられているかのような、
それこそ、巨大な象牙、いっぽんをくり抜いて拵えた迫力で建物じゅうの白が、物凄い形相で迫ってきた。
後になってみれば、何と言う事もない壁やベッド、そして窓枠の白。
いまになってみればすべてが懐かしい。
その白が付きつけてきた事実は、入ってきたときと、出ていくときでは、
まるで同一の場所とは思えないくらいに異なっていた。
すくなくとも当時の彼には予知能力がなかった。
そのことだけは事実だろう。
何となれば、当時の彼は、不安がなかったといえば嘘になるが、
大概は、美しい未来というアルコールに酔っていたのだから。