表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界大樹と狐の唄  作者: 春ノ嶺
嘘の社
98/293

6-11

「いでででで!下手くそめ!」


「勘弁してくださいよ素人相手に」


 中身を出し切ったチューブに注射針カバーを装着して救急箱へ戻す。日依の出血は一度止まり、演習場の脱出まではもったものの、今また傷口が開いてしまって白いキャミソールを赤く染めていた。三菱A型の顔面を破壊したクロマツとの衝突によって開いたのか、傷が開いたから運転を誤って衝突したのか、どういう過程にしろ動けなくなってしまった事実には変わりないが。

 脱出の際に青年陰陽師の姿となって以降、元に戻るのも忘れるほど慌てていたために邪魔臭いしすぐズレる烏帽子をかぶり続けるのがどうしても耐えられなかった以外はそのまま。まぁ大きい体は日依を運転席から引きずり出すのに役立ったし無意味という訳では無い。


「てかおい…なんか近付いてくるぞ……」


「え?」


 三菱A型はまっすぐ大樹へ向かう車道から左へ逸れて林内を少し走ったのち衝突、停止した、事故現場はアスファルトまでは30メートルほど離れており、運転席のすぐ下、右フロントタイヤに日依が寄りかかっている。息を荒げ、脂汗を流しながら車道を見、それから舌打ち。あたりはもう明るくなく、というか真っ暗で、2人以外の人間を認める事は出来ない。


「殺気出してやがる……」


 見ずに感じている日依は右手で押さえていた腹部のタオルを左手に持ち替え、空いた右手で銃を撃つジェスチャー。後部座席に投げていたショットガンを拾うために日依から離れ、戻ってきた頃にはその右手にいつかの短刀が握られていた。


『小毬?』


「はい今打ちました。でもちょっと…待ってください、何か足音が……わっ」


 未だ姿が見えないものの明らかにこちらへと向かってくる、アスファルトから外れてガサリと落ち葉を鳴らした足音を聞いた途端に短刀の鞘を握ったままの右手が無線機を引き寄せ。


「お前ら…こっち来るなら戦闘準備整えてから来いな……なんかいるぞ…力量は気配から判断して円花くらいかもしくはスズの……クソ!」


 ガン!と車体に何かが突き刺さる、ほぼ同時に小毬は日依に突き飛ばされ、そこでようやく変化を解いた。無線機は暗闇に消えてしまったが、変わりに短刀と、輪ゴムで留めた符の束が投げ渡される。


「とにかく逃げろ!時間を稼げ!」


 苦しそうに叫ぶ日依のすぐ真上には狐達の腰に付いている菱形水晶を小さくした、ナイフのようなクナイのような僅かに発光する物体が突き刺さっていた。長さ10cm、黒色をしたそれは切っ先を上に向けて停止しており、小毬か日依に直撃するルートで飛んできたものを日依が弾いたものと思われる。それを認めて、砕けるように消滅するのと同時、小毬は立ち上がり、ソードオフはスリング、符は輪ゴムを取っ払い短パンのポケットへ、短刀も鞘を投げ捨てた。前回はスズの血でコーティングされていた刀身はその際に使用回数を使い切ってしまったため、今は普通に銀色の、何の変哲も無い刀である。


「いやでも…守らないと」


「いらねーよそんな頼りがいのない守り!」


「デスよね!!」


 左手は傷口を押さえたまま右手で車のフェンダーを掴み、なんとかという風に足を立て、全身からは既にパチパチと放電している。まっとうな医薬品として流通している中では最も強力な痛み止め、ぶっちゃけてしまえば純然たる麻薬を、しかも注射で投入はしたが、さすがに打った瞬間痛みが飛ぶという訳にはいかない。スズらが急行している点も鑑み、とにかく今は時間だ、時間が欲しい。

 落ち葉を強く踏みつけ故意に大きな音を鳴らしながら、水晶の発射点を中心に反時計回りで疾走、アスファルトの車道へ達した。暗闇の向こうの敵は、いや何が何だかわからないが攻撃してきた以上敵だろう、初撃を放って以降沈黙してしまった。次撃が来る訳でもなく、音も聞こえず、立ち止まっても何もしてこない。いったいこの間は何なのだろう、少なからず困惑してしまう。しかしこのままにらめっこしている訳にもいかず、ソードオフから散弾をぶちまければ何発かは当たるだろうがとにかく相手の正確な位置を特定しよう。ポケットから符を1枚、書かれている文字を月明かりで確認し、敵の推定位置上空目掛けて投げ上げた。


「っ…!?」


 直線的な軌道で符が飛翔し、クロマツの背を超えた頃に破裂、火炎を伴うそれは一瞬ながら周囲を照らし上げる。

 男性にしては長い部類に入る黒髪でかつ黒衣の少年だった。身長170cm前半、黒の長袖シャツと黒のスラックス、丁寧にベルトまで黒で統一し、右手に握っているのは短槍、照らされた瞬間のシルエットから判断するに腰を落としつつ左手で投げナイフの投擲姿勢を取っている。短槍は長さ1.5m、30cm程度の刃を持つ、特に装飾も無い細身の槍である。歯を強く噛み締め、眉を寄せたしかめ面、いわゆる苦虫を噛み潰した顔を最後に少年は符の燃焼終了に伴って暗闇の中へと戻る。間髪入れずにアスファルトを蹴りつけ右へとダイブ、菱形水晶の投擲攻撃を回避した。

 先手を取ったにも関わらず以後沈黙し、そして今のしくじったと言わんばかりの表情、どうにも引っかかる。もしかしたらついさっきまで小毬自身が悪人の格好をしてたのと何か関係がある、というかそう考えるとすんなり納得できてしまうが、何にせよ戦闘は始まってしまった。ついでに背後で日依が驚いたような声を上げたが注意を向ける余裕も無いので無視し、ふたつあるソードオフのトリガーを片方だけ引いて1発発射、あたりに火薬の爆発音を撒き散らしながら反対側の防風林へと突入する。落ち葉を踏みつけつつ爆符をまた1枚、投げずにその場で手放した。


「おいバカやめろ!止まれ!」


 相手の足音が聞こえたかと思うや三菱A型の方向から苦しそうな怒号と電撃が飛んでくる。その光でまた一瞬少年の姿が浮かび上がった、距離5m以内、小毬に槍を突き刺す寸前で電気ショックを受けて動きを止める。少年が黒焦げにならなかった点から出力はおそらく護身用スタンガンレベル、すなわち一撃貰えば数十分に渡り体の自由を奪われる威力のものだが、実際に稼げた時間は2秒だった。追加の符を取り出している間に落とした1枚が地雷よろしく起爆、感覚が麻痺するほどの強烈な閃光と音を発する。


「ぐぅ…!」


 筋肉の動きに続いて視覚と聴覚も制限された筈だが、効いてないとばかりに突き出してきた槍を身をよじって避け、続く横打撃を右手の短刀で受け止める。速度を殺しきれず押し倒されつつも符は破棄、ソードオフのグリップを掴んで素早くトリガー、マズルファイアが少年の顔を遮った。槍の柄が離れていった事で小毬は転倒を免れ、代わりに散弾が1粒残らず命中せず暗闇に消えていく。ショットシェルがもう1発装填されていれば確実に命中する追撃弾を与えられたろうが水平二連にその要求は酷というもの。ソードオフの銃身根元を折ったのち、回す事で発射済みのシェルを排出、が、再装填の時間は無さそうだ、ガサガサリと姿勢を立て直す足音がする。短刀の握り位置を柄後端へ、親指から中指までの3本で摘むような形に変更、左上から右下へと袈裟懸けに振り下ろし、その途中で指を離した。思いのほかうまく飛んだ短刀が相手の姿勢を再び崩す、その間に空いた右手でスリングのバンドからショットシェルを抜き取って2発同時に装填、手首のスナップで折れていたボディをロックした。


「ひっ!?」


 刀を失ってまで稼いだ時間を足しても発射まで届かず、黒い水晶がスリングを切断しつつ小毬の肩を掠めていった。ソードオフを照準するも槍の柄で押しのけられ、もはやこれまで、必死に踏み止まった、といっても10秒未満ではあるが、その場から速やかに後退、符で地雷原をしきつつも背を向け走り出す。


「ひぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ