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世界大樹と狐の唄  作者: 春ノ嶺
嘘の社
97/293

6-10

「でしょうね」


 取り乱し気味な小毬の状況報告を聞き終えたのち、無線機のトークボタンを押してそれだけ言う。

 エレベーターから降りてアリシアとスズの目にまず入ったのは星空、あれやこれやとやっていたらすっかり夜になってしまった。


『でしょうねじゃなくて!な…何をどうすれば……」


 聞こえてくるのは若い男性の声だが、無線機の向こうにいるのは小毬である。早足でエレベーター前の広場を脱し、人目に付かなくなってからアリシアは駆け足へと移行、ナイトビジョン映像を通常視界に重ねつつ防風林までの距離を確認する。その内部で三菱A型がフロントグリルを木に叩きつけて停止しているらしく、日依が重傷、いや重傷なのは元からだ、シンデレラよろしく魔女の魔法が切れてしまってそれ相応の状態となっている。いつもと変わらずけらけらにやにや笑ってるものだからほとんど全員が忘れていたが、彼女は1日前に開腹手術で小腸を繋いだばかりの立派な患者である。


「聞きたいのは日依への処置ですか?車の運転ですか?」


『処置を!』


「なら後部座席のメディカルバッグを取ってください」


「めでぃ…?」


「スズ、しばらく黙っていてくれると助かります」


「はい」


 そのまま100m走った後、アスファルト舗装の道路から左へ外れて土の駐車場に入った。地表の中央近くである現在地から小毬らのいる場所まで直線距離でも10km近い、徒歩で向かうのは現実的でないし時間もかかる。


「モルヒネと書かれた紙箱が入っていますね?ああ、開封の際に潰さないよう」


『おい……そりゃまっとうな奴なのか…?わたしゃまだ人間やめる気はないぞ……』


「患者は寝ていてください」


『はい……』


 自前で調達した車は向こうが持っていってしまったため、こちらは水蓮から二輪車の提供を受けていた。彼女の私物らしく無傷で持ち帰れとのお達しで、わざわざカバーを被せての駐車をしていた。駐車場の端でいくつかの仲間と共に帰りを待っていたビニールシートを取り払うとオレンジ色のオートバイが現れる、現行モデルと比べると些か簡素で”原動機付き自転車”から進化してきた感が拭えないフォルムではあるが、排気量1000cc、世界中で圧倒的なシェアを(当時)誇るハーレーダビッドソン製だ、あいにくハーレーと聞いてまず思い浮かぶ広く長いハンドルグリップは水蓮自身の趣味に合わなかったらしくレーシングモデルと同じタイプに交換され、競技用自転車のように下を向いているが。


『今開けました、注射針の付いた…絵の具チューブみたいなものが出てきましたが』


「それがモルヒネシレット、鎮痛剤です。まず針のカバーを外し、薬液を少しだけ出して空気抜きをします。そうしたら日依の腹部に刺すのですが、筋肉や内蔵に届かないようにしなければなりませんので、皮膚をつまんでなるべく浅くお願いします」


 急を要するのでビニールシートはその場で破棄、出発時は持っていなかった大型の肩提げバッグをスズに預けた。中身はすべて遺物保管庫に浸入した今日1日の収穫、言ってしまえば盗品である。まぁ誰も困らないだろう、用途不明とか、修理不可と銘打たれた山だけから漁ってきたし。


「小毬?」


『……はい今打ちました。でもちょっと…待ってください、何か足音が……わっ』


 しばらく沈黙、ようやく向こうがトークボタンを押したと思いきや横から無線機をひったくられる音。ブツッと切れて、また繋がり。


『お前ら…こっち来るなら戦闘準備整えてから来いな……なんかいるぞ…力量は気配から判断して円花くらいかもしくはスズの……クソ!』


 そしてまた切れた。


「日依?どうしました?」


「大丈夫?」


「大丈夫じゃないかもしれません、急ぎましょう」


 音声のみから判断する限り、何者かによる襲撃を受けたようだ。

 呼びかけても応答は返ってこなくなってしまい、まさか負傷しているとはいえあのチート人間がもうやられた訳では無いだろうが、むやみに喚いている時間があったら移動に使うべきだ。アリシアが座席に座り、スターターを回してエンジン始動、その後ろの荷台にバッグを提げたスズが座る。


「スズ、前々から気になっていたのですが、戦闘中に着物姿になる理由とは?」


「天狐の衣装っていうか尻尾だね、普段は見えないように力抑えて消してる訳だから、まぁリミッター解除みたいなもん」


「ここでそうなると?」


「即バレ、絶対」


「ですよね」


 スズをしがみつかせ、左手でハンドルを握りつつ右手を後ろへ回してバッグに突っ込む。すぐ手を抜いて、掴んだものをスズに渡す。

 金属製の、黒い筒である。直径およそ3cm、15cm程度の長さを持ち、内部は空洞のように見える。後端には雌側のネジ山があって、何かに取り付けて使うもののようだ。


減音器サプレッサーです、ネジ山を切っておいてくれた蜉蝣に感謝しつつガバメントへ装着してください」


「付ければいいの?」


 原理も理由も説明する必要は無い、銃口にはめたまま戦闘させればいいのだ。特にソニックブームを発生させない音速以下で飛ぶ.45ACP弾とは相性がいい。


「行きます、掴まって」


「おう」


 アクセルを回し、クラッチを勢いよく繋げて

 ハーレーがウイリー気味に急発進する。

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