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世界大樹と狐の唄  作者: 春ノ嶺
嘘の社
92/293

6-5

 まず皇天大樹の地理を確認する。

 現在一行がいるのが最下層も最下層、だいたい8年前まで海底だった地表居住区画である。円形に広がる土地の内側をこの市街地が占め、その外側を田畑が囲み、風よけの森を挟んだ後、外縁部を砂が覆う。この砂浜、というか砂丘の地下には石炭が眠っており、至る所に縦穴が穿たれている。地表に住む人間はほとんどが市民の中でも低所得者に分類される者達で、樹上の家屋に住む市民は富裕層とはいかないまでも、少なくとも1円の無駄遣いも許されない生活はしていない。これはいつも通りの身分の高い者は高い場所に〜のくだりとは違い、ここで言う低所得者とは主に坑道で岩石を掘り出す仕事をする人間の事であり、政府が職場にほど近い場所に住居を提供しただけ、悪く言ってしまえば奴隷の居住地なのだ。だからと言ってスラム街の如く治安が悪い訳ではなく、常駐部隊がいた頃の鳳天大樹住民と比べれば遥かに自由が認められている。大都市にほど近い下町、そんな雰囲気だ。

 樹を登った先は他の大樹と大して変わりなく、物流の活発な下層に商店街、中層でまた密集市街地が現れ、酸素の薄くなる高層へ近付くにつれ家屋が無くなり行政、軍施設が増えていく。その中で重要な建物は2つあり、まず下層にある遺物保管庫。アリシアが言う所の”脱出手段”がそこに安置されているらしく、一行がここに来た目的の達成未達成に関わらず必ず占拠しなければならない。もう一つ、重要というか危険な場所が最上層にある大内裏だいだいり、つまり敵の本丸である。政治にまつわる機関の本部施設がこの一箇所に集められており、日依が仕切っていた斎院も本来ならここに建っていなければならない建物で、神祇官の施設、斎院(西院)と東院のうち斎院が日依の悪巧みにより分離させられ、ここには東院だけが残る。とにかく不用意に近付いて見つかりでもしたら間違いなく帰ってこれない、そのため高度4000m以上には進入禁止という規定がまず設けられた。

 なお、中心部の内裏だいりは皇族の住居、つまり第一皇女という肩書きを持つスズの実家である。お盆の帰省に興味はあるかと一応聞いてはみたものの、返答は「興味ない、てか目に入れたくない」だった。まぁ、断片的に伝わる彼女の過去を鑑みれば極めて当然の反応ではある。


「話を進める前に少しだけ確認させてくれ、今この樹は高さ何キロある?」


「18キロ後半に入ったとこよ」


 コーヒーと間違えて一気飲みしたスズを痛い目に遭わせた瓶詰めの黒い炭酸飲料をちびちび飲み続けて空にしつつ日依がまず問い、水蓮が答える。


「ここ7年は一貫して500メートルずつの成長だったのに今年はかなり速い、現時点でもう600メートル、海水面も60センチ下がってる。このまま加速が続けば大台超えるわよ、一体どこから栄養取ってるの?」


「土からでは絶対にないだろうな、水が引いてくのと合わせてそれも調べる必要がある。当事者である政府が何もしていないのを見ると人為的に起こされているような気もするが、とにかく、失踪したアホ天皇をとっ捕まえて締め上げる所から始めよう」


「締め上げ……」


「これから2日以内に元号伊和いわ、御名嘉明よしあきを探し出す。地図をくれ」


 そんな言い方して大丈夫かと意味を込めてスズは日依の肩をつつくと、日依からは手をひらひら振るジェスチャーが返ってきた。こちらの身分がバレるのはまずい、というのも皇族であるスズを(建前上の)首領とし、三笠に拠点を置く一行と、西洋から派遣されてきた水蓮ら諜報機関の利害は”天皇を探し出し話を聞き出す&その立場を利用する”という目的において一致しているものの、利用する点のみに関して言えば水蓮の目的は天皇の娘で、ある程度以上の影響力を持つスズを捕らえる事でも代用が利く。しかし日依の行動から察するに、奴が見つかった暁には間違いなくバレるし、彼女らの戦力でスズを組み伏せる事は不可能に近い上、下手に暴れれば皇天大樹の兵隊がすっ飛んでくる、そんな考え無しな行動をする無能ではない。だったら後々バレて気まずくなるより開けっぴろげにしといた方がいい。

 という意味、なのだと思われる。


 ああ…はい……と、東洋の最高権力者に対して敬う様子の無い日依に眉を寄せてしまうも、結露で濡れたコーラをテーブルの上からどかし、布巾で水を拭き取り、どかしたついでに空瓶をシンクへ置いた。折り畳んだ状態の地図を取り出し、完全にテーブルの水気が飛んだのを見計らってから広げるという妙に女子力の高い動作を見てアリシアがぽつりと言う、少しは見習って欲しいものです。

 地図は地表のものだった、円形の面積のうち半分ほどが赤ペンで塗られていたり、丸でチェックしてあったりする。


「彼が内裏から姿を消したひと月半前から船舶と航空機の出入りを監視しつつ地表を中心に捜索してる、塗りつぶしてあるのは探し終えた所よ。樹上は陸軍が猛烈な勢いで総洗いしてるわ、しばらく経った今でも未だに止めてないとなると、彼は樹上にはいないんじゃないかしら」


「正しい推測ではある、いかに女を口説くためだけにあの手この手で脱走を繰り返したあやつといえど軍隊を動員したローラー作戦には敵うまい」


「……ごめん、何だって?」


「しかし一度も調べないで見切りをつけるのもアレか。スズ、アリシアを連れて上に行き簡単に気配を探してきてくれ、脱出手段を確保できそうならやっちまっていい」


「無視しないで、何脱走って」


「水蓮、炭鉱の内部はどれほど探し終えた?」


「あの…………稼働中の坑道は万に一つもないレベルで」


「では閉鎖した穴は手付かずという事だな。ついでに大樹の根っこも調べたいが…まぁそれは後でいい、私は小毬を連れてそちらへ向かう」


 それから少し地図を見つめ、やがて炭鉱跡と書かれた一点を指差す。水蓮がそこに丸を付けると、日依はそのへんに投げられていた麦わら帽子を掴み。


「時間はないぞ、何としても2日以内に見つけ出せ」

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