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世界大樹と狐の唄  作者: 春ノ嶺
嘘の社
88/293

6-1

 言葉で飾る事に意味はない。

 この手ですべてを壊した過去を変えられないなら。

 せめて未来は、少しでも取り戻せるように。

 そして彼女が帰ってきた時、少しでも許して貰えるように。




























「だだ、で、大丈夫?ねえ大丈夫?」


「スズが暴れない限りは大丈夫です」


 西洋、ソッピース社製キャメル戦闘機、茶色く塗装された胴体の下部に少しだけくの字状に曲がった下翼があり、その斜め上方に上翼。地上滑走用の車輪は固定式の棒の頂点に車輪の付く非常に簡素なスタイルで、コクピットもまったくのむき出しである。元々はごく普通の複葉単座戦闘機だが、飛行船へ搭載するために小改造を施されており、現在操縦席にアリシア、拡張された偵察員席にはスズが収まっている。飛行船内部に積まれている以上、本来自重を支える筈の車輪は使わず、上翼に付いたフックで吊り下がっていて、ワイヤーの先には発進機構がある。そこの形状を一言で説明するなら”シーソー”で、発進作業は反対側の重りを外して降ろし、次に腕を伸ばして機体を突き出すだけという、なんというか、紅茶臭い装置だった。


「姫様、お気を確かに、ちゃんとした整備を受けてますから、そうそう故障するものでは……」


「大丈夫じゃないよ……大丈夫じゃないよ……」


 赤みがかった褐色のボブカットから三角の狐耳が伸びる頭、緑に黄色のアクセントが入るキャスケット帽は吹っ飛ばされるのを見越して外され、今はデニムのショートパンツを履く足に挟まれている。その代わり目を保護するゴーグルを装備、レンズの向こうで目を見開き、顔を真っ青にしながら、帽子と同じカラーリングのパーカージャージを着る上半身を座席前方の壁面に押し付けしがみついていた。

 彼女とて飛行機に乗るのは初めてではない、しかし今まで乗ってきたシュターケンもゴールデンハインドも風をモロに感じる事は無かった、今回はガラス1枚とて遮るものが存在せず、身を守るのはシートベルトのみ。


「ドラゴンの背中に乗るのは良くてこれが駄目という理屈がわからないのですが」


「いやいや…飛竜が飛ぶのは当然じゃん…鉄の塊が飛ぶのは不自然だよ……」


「姫様、物理法則的には飛竜が飛行する方が説明できません」


「いやーなんでぇ…?あんなおっきい翼があるのに……」


「もう行きましょう、回してください」


「よくわからないけど性格のキツさが増しましたわね……」


 キャメルの右側面にあるキャットウォークで雪音は乾いた笑いをした後、近くの要員へ指示を飛ばした。およそスターターと呼べる装置が積まれていないこの機体のエンジンを始動する為にはエンジンにクランクをぶっ刺すか、もしくはプロペラを手で回して初動をかける必要がある。普通はクランクだ、だが彼は宙吊りのこの機体にクランクスタートは具合が悪いとプロペラに手をかける。当然ながら回りだしたプロペラと接触すれば機体の前に腕が飛ぶ非常に危険な仕事であり、操縦席のアリシアとハンドサインでタイミングを合わせつつ、まずエンジン内シリンダーが圧縮し切った状態になるプロペラの位置を探す、いきなり始動させようと力を加えた場合、シリンダーが圧縮した空気の圧力で反発を起こしてプロペラを跳ね返してしまうので、こうしておけば腕を失う危険をひとつ減らせるのだ。スタート地点を探し終えたら後は簡単、力の限り回し落とすだけ。目覚めたエンジンは自力でプロペラを回し始め、それに巻き込まれる前に要員は退避する。ぶぶぶぶぅぅぅぅぅぅぅぅん!という騒音にかき消され、たぶんいってらっしゃい的な事を叫んでいるのだろうが雪音は何言ってるかわからなくなり、シーソーの反対側に複数付いている重りがひとつずつ外されていく。間もなく均衡、ガコンと機体が揺れて、その直下で船外に繋がるハッチが開放された。


「やっ!!に゛ゃっ!!だだだ駄目駄目駄目駄目!!」


「動かないで!危険です!」


「ラージャ!!」


 ゆっくりゆっくりシーソーは傾き、それが終わった後キャメルのぶら下がる側のみが伸びていく。ゴールデンハインド船外へ突き出されつつ操縦席のアリシアは立ち上がった。背中で肩紐が交差するリゾート気分な真っ白いワンピースと、その上から羽織る薄地の白カーディガン、簡単に束ねた白い長髪を強風で震わせ白い肌の両腕を上へ伸ばす。腕時計っぽいレーザー発射装置のある左手で吊り下げ装置の最終セイフティを解除、右手でレバーを握り、左手は操縦桿へ、そのままシーソーの固定を待つ。


「ひっひっひっ……!」


「トラピーズ固定良し!安全装置解除良し!要員退避良し!」


 視界を埋め尽くす青い空と青い海、100km/hオーバーで飛行するゴールデンハインド。灰色ベースに緑色のラインが複数入った船体の外で、船内とハンドサインを交わして意思疎通、すべての準備が終わった事を確認した後、レバーを握るアリシアの右手に力が入り


「離船!」


「ひっ…………」


 拘束を解かれたキャメルは空中へ放り出された。

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