5-13
「折れたね」
「折れてないし…大丈夫だし……」
「折れてるって、ほら」
「やーめろ!曲げんな!」
再度上甲板に出てきた時、日が沈み終えた紫色の空を背景に2人は昇降口前で緑の着物と黒のマントのまま、日依の左腕をぷらぷらさせて遊んでいた。
「おーアリシア、これどう思う?」
「………………」
「……どうしてそんな白けた顔を」
表情筋を動かす指令を出した覚えは無いのだが、どうも現在の感情と連動するようになってしまったらしい。眉を寄せたまま視線を右、艦首方向を見ればびしょ濡れになったアルビレオが口をあんぐり上げて仰向け、いわゆる服従のポーズで干されており、その周囲には細かく砕けた宝石が散らばっている。真っ赤に輝くわかりやすい色はたぶんルビーで、放置されている以上、もう完全に無力化されているらしい。
次に左へ目を向ける。三笠はスクリューへの動力伝達を落として微速前進中、後方から接近する日進からロープが投げられ接舷作業が進められていた。催眠から復帰した乗組員はふらつきつつもそれを手伝っていて、最後に雪音、アルビレオの背中から振り落とされた状態そのまま、まだ催眠にかかっているのか頭を打ったのか知らないが、前部煙突の根元で寝転がり、小毬に激しく揺すられても薄ら笑いを浮かべて眠ったまま。
「骨折と名がついたら最低3ヶ月です」
「そう、じゃあ2週間だね」
「お前は2週かかるのか、ならば私は2日で治す」
「何を張り合う……おっ?」
すべての確認を終えた後、スズの問いに返答し、それから緑の着物へ抱きついた。
「どした?」
「なんでもありません」
「いやそれにしては」
「なんでもありません……」
「あ…はい」
スズの背中に手を回したそのまま無言で顔を埋め、頭を軽く撫でられるのと、自分の腰に手が触れるのを感じながら日依のいやーな笑い声を聞く。その後彼女らの注意はようやく少将閣下に向いたようで、三笠と日進の船体が接触したらしき衝突音と共に日依の足音が離れていき、少し遅れて雪音の寝言。
「ひめさまぁ…雪音が一晩中…ふひひひひひひ……」
「この人どうしマス?」
「(海に)捨てちまおう」
眠らされるどころか操られていた彼女にはたった一言で終了、スズの溜息を聞いてからアリシアは離れる。なんとなく自分の頬を引っ張って、それでようやくいつも通りの無表情、紺の浴衣を着た小毬に添え木になるものを探して貰い、顔に乾いた血筋の残る日依を診察する。左前腕の骨折は確定として、頭部に縫合が必要な裂傷、腹部に妙なアザがあり内蔵があやしい。それから左足も引きずっていて、こちらもヒビが入った可能性。
「手術室行きです」
「必要ない、ほっとけば治る」
「いいから」
「いででででででで!!」
2日で治すと言った以上その戯言は現実のものとなるのだろうが、変な形で放置したら変な形のまま治癒してしまうのだ、腸が千切れでもしていたら致命的、頭の傷にしたって15歳を傷モノにする訳にはいかない。
「ヒールでもかけとけば?」
「バッカお前回復魔法ってのはグロ描写のために存在すんだぞ、骨が折れようが肉が裂けようが一瞬で完全回復して休む間もなく戦い続けさせられるって、そんな残酷なもんは採用せん」
それは知らないが。
「とにかく言う通りにしときなって、ねえお母さん?」
「誰がお母さんですか」




