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世界大樹と狐の唄  作者: 春ノ嶺
アンドロイドは電気羊の夢を見るか
80/293

5-6

 問題が発生したとは言っていたが雪音は焦っているのか何も説明してはくれず、「とにかく大急ぎでお願いします!」とだけ言い残して去って行ってしまった。風呂で大騒ぎしてる所にそれだけ言われてもなんのこっちゃわからないのだが、敵の本拠地に接近中の現在、問題とか言われたらこっちだって焦る。先に上がって着替えまで終えていたアリシアは騒ぎが完全に収まる前に全員分の服を回収し、着替えを並べ、まったく同じ服を何着も持ってるとか狐の考える事はよくわからんなんて考えつつ3人を出迎える。バスタオルをかぶせ、早くも帰りたがってる小毬を大雑把になだめ、サイフくらいしか持ってこなかった彼女の為に紺の浴衣(雪音私物)を与え、髪を乾かし、その間お母さんと呼ばれること3回。いい加減苛立ちを覚えてきたもののそもそもが人の世話をするために生まれてきたアリシアにとってやめるという選択肢は無く、つーかそれマジで母親といかずとも乳母と何の違いがあんだと気付いてしまってテンションダウン、スズの耳を引っ張って、古今東西獣耳の例に漏れず妙に嫌がるスズを置きざりに退出した。

 太陽はまだ沈んではいないが艦内は赤色照明が点いている、この赤い電球、平時では使わないものだ。何故今使うのかというと、レーダーという概念自体が無い現在、夜間だろうが何だろうが周辺警戒を行うのは人の目だからである。眼球は暗い場所では瞳孔を大きく開いてたくさんの光を取り込もうとし、逆に明るい場所では過度の光で傷付くのを防ぐために瞳孔を絞る。よって見張り員は夜目を維持するには明かりに照らされてはいけない、んでこの赤い照明、白色灯と比べ瞳孔が閉じにくいという。当然ながら視界は真っ赤、何から何まで赤く見える。もっともアリシアにとっては色彩補正をかければそれで済む話であるが。


「のぼせた……」


「遊んでいるからですよ」


 その赤い通路にスズが出てきた、この後は夕食食べて寝るだけだったので着ているのは黒いTシャツとショートパンツのみ、よろめきながらサンダルをパタパタ鳴らしている。急いで艦中心部の司令部区画へ行かねばならないのだが、数歩歩いた後壁に手をつき止まってしまった。他の2人も似たような状況、それぞれしゃがみこんだり放心したりする中、まず日依がピクリと反応、ほとんど間を置かずスズも顔を上げた。


「なんか臭うな」


 火薬炸薬満載の軍艦で臭うとはまた穏やかじゃない、しきりに鼻を鳴らす日依の真似をしてアリシアもセンサーを動かしてみるも、確かに火薬の臭い成分自体は検出されたがそれはどうしても漏れてしまうもの、というか人間の鼻腔では感知できるレベルではない。それ以外に大した成分は無く、強いて言えば酸化鉄が舞っている程度。

 つまり彼女は臭い以外の何かを指して臭うと言っているのだ、そしてまったく同じものをスズも感じ取っている。


「まずいね、何かしてくるとは思ってたけど…ああもう!」


 嗅覚に異常は見られなかったが視覚に異常が現れた。通路に煙のようなものが立ち込めつつある、浴室から漏れてきた湯気かと思ったが、赤い視界に補正をかけて正常に近い視覚を再現するとそれは僅かに紫色をしている。触れたくないのかスズは払いのけるように腕を振りつつ日依の肩を掴み。


「小毬、こっちに来い」


「な、なんデ…………」


「いいから来い、早く。ア…………駄目……マ…機械じゃな…ろ……」


 おかしい


 何がおかしいのか不明ながら、からだがどうしても動かないというか、そういえばみみもきこえな


「アリ…ア…!」


 じこしんだんはどこにあったか、いやそういうもんだいではない、たぶん、そうならすずはあんなにさけばない


 ああ、もうしかいもしろくなって






































「ッ…!?」


 すべてが反転したような感覚だった。メインCPUが正常状態に戻ると同時にいつのまにか走らせようとしていたらしい自己診断プログラムは異常無しを吐き出す。

 故障を起こした訳ではない、ソフト、ハード共に稼働を続けている。いつ壊れてもおかしくはないとは思っているのだ、海底で眠っていた期間はどれだけ少なく見積もっても1万年に届くのだし。

 アリシア自身に異常は無い、異常があるのはそれ以外のすべてだ。


「ここは……」


 つい数秒前までアリシアは赤い照明に照らされた三笠艦内にいた、それは間違いない。今はどうだろう、少なくとも照明は白色蛍光灯が使われている。


『オーケー、気密できた。発電機は1週間くらいで止まるだろうけど、施設自体はいくらでも』


 中央にテーブルの置かれた15メートル四方の部屋にはレーダー、FCS等の制御を行うパソコンがこれでもかと並び、そこら中に置かれた銃火器や弾薬箱と、1面の壁を占有するほどの巨大なディスプレイが計3枚ある。戦闘指揮所である事は明白だが、機材のほとんどは沈黙しており、かといって電源が死んでいる様子ではない。おそらくレーダーはアンテナが、FCSは管制すべき兵装が破壊されてしまっているのだ。つまり、この軍事基地と思われる場所は既に命運が尽きている。


『後は強制シャットダウンすれば……』


『フェル…先行、…ナ、メ…、左右を警戒してください、後ろは私が』


 音声は途切れ途切れで、目に入るものすべてに実感が無い。これはきっと”見えているだけ”だ、現実とは違う。

 既に沈黙した機器類の中で唯一まともに稼働しているデスクトップパソコンの前に少女が1人、外ハネのあるショートカットの黒髪で、ブラウンのニットワンピースを着て、ライフルスリングから提げた重アサルトライフルをパソコンを操作する度に揺らしている。それ以外に人間は3人、いずれも女性で、白いコートを着たボブカット、黒い長袖シャツとデニムのショートパンツの長髪、ワンピースのおさげ。それぞれアサルトライフルを握っており、間も無く戦闘準備を終えようとしていた。


『……!』


 付け加えもう1体、コールドスリープ用のカプセルに突っ込まれて、声が何故か聞こえないながらも必死に叫ぶ人型機材アンドロイドがいるが、自分で見間違える筈は無い。身長146センチの体に白い髪と白い肌、着ている服はワイシャツと黒のタイトスカートだったが。


 アリシア自身だ、どう見ても。


『ごめんねぇ、連れてったって帰ってこれるようになる訳じゃないしさ』


 カプセルの分厚いガラスに手を触れたおさげ髪が言い、作業を終えたショートカット、長髪も続いて、最後の別れとばかりにガラスを叩く。軍人にはとても見えないので、何らかの理由により取り残された民間人なのだろう。だからこそかノリは軽い、これから無力化された基地を出て勝率皆無の戦いに赴くとは思えないような。


『まぁご安心を、ここは死守しますからね、ええ物理的に』


 コッキングレバーを鳴らしながらカプセルから離れ、最後にボブカットが泣き出しそうなソレに近付き。


『未来の人類によろしく』

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