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世界大樹と狐の唄  作者: 春ノ嶺
アンドロイドは電気羊の夢を見るか
78/293

5-4

 簡単に言ってくれる、何においてもまずはそれである。

 皇天大樹はここから南南西520km、途中に投錨停泊できそうな環礁地帯がふたつある。知っていた事ではあるが皇天大樹近海は一様に浅い、暗礁も複数、というかたくさんあり、360度全方位が海に囲まれているとはいえ取れる航路は限られている。接近する為にはどのルートが最適かとか、もし敵が攻めてきたらこのルートを使うだろうなどは向こうの知り尽くす所であり、さらに退路を塞ぐのも容易である。実際、かつて2倍以上の戦力をもって攻撃をかけた西洋軍は馬鹿正直に正面ルートから侵入した後に蓋を閉められ海戦史上稀有な事例、1隻残らず全滅という偉業を記録している。船で近付く、というのはまず諦めるべきであろう。


「送り届けるだけなら簡単ですわ、ゴールデンハインドの偵察機キャメルを使い捨てにすれば十分可能でしょう」


 長官公室に集められた一行のうち、まず口を開いたのは雪音である。暗礁地帯の外側から離船、民間航路で近付いて、途中で墜落を装いつつ機体を海に沈める、爆破処分も加えればなおよし。やっこさんが沈んだ機体に気を取られている間に日依が用意するセーフハウスに駆け込んでしまえば、何かが侵入したのはわかるがそれが何なのか気付くまで時間がかかるはずである。

 沈んだ機体を引き上げて解析されるまでなので、稼げるのは2日か3日くらいか。


「ですが脱出手段が失われてしまいます、言った通り船での接近は不可能、向こうも当然警戒するでしょうし、そこらの漁船を使うとしても、引き止められたら終わりです」


「逃げ切れないの?」


「不可能と断言しますわ、最大速度39ノットの峯風みねかぜ型駆逐艦の追尾を振り切れる暴走族御用達みたいな漁船があるなら話は別ですけれど」


「……のっと」


「1ノットが時速約1.85キロメートルですので72.15キロとなります。単純に数字だけ並べると三笠の2倍以上」


 実際には排水量の違いによる高波への耐性があって、天候次第ではもう少し複雑な計算になるのだが、キョトン顔で疑問符を浮かべるスズに言っても仕方ない。ちょうどアイスコーヒーが出来上がった所なので、姫様の頭脳を煩わせる程の事ではとか都合のいい事言っといてゆっくり飲んでて頂こう。

 他に室内にいるのは給仕と艦長を除き、スズに向かって苦笑いする日依と、皇天大樹の地図や写真など、テーブルに広げられたこちらの保有するすべての資料をぺらぺらと眺めるアリシア。日依ならどうにかしてしまいそうな気もするのだが、魔法が科学に勝利できる時代はとうの昔に終わっていると返答された。


 元々警備は厳重、その上偵察機を墜落させ警戒レベルを引き上げた後となると、こっそり脱出は極めて困難、強行突破は論外。妙案も浮かばず一様に黙り込んでしまった、が


「雪音、これに見覚えはありますか?」


 いきなりアリシアから1枚の写真を見せられた。

 斎院の資料室にあった皇天大樹の資料のうちのひとつ、研究開発関係を写したアルバムに挟まっていたものだ。白黒ながら、その写真には機械が写っている。


「え?……あぁー…遺物保管庫の写真ね、下層の東部にあるコンクリートの大型倉庫で」


「良いです、最高に近い、続けてください」


 遺物と聞いた時点で自分自身が遺物であるアリシアは無表情のまま上機嫌を表現するという器用な真似を見せ、それに気を取られつつ雪音は改めて写真を眺める。

 士官候補生だった頃に一度だけ、施設見学として中に入った事がある場所だ。写真の中央にあるものは発掘された遺物のうち修理再利用の余地ありと判断された中では最も大型で、それを形作る部品の大部分は何の為についているかもわからない始末。一応、やたらと縦に薄い全長18メートルほどの機体にはプロペラがあり、さらに先端部分にはガトリングガンらしきものがある事から、これは空を飛んで攻撃を行う兵器なのではないかと推測は立てられているものの、戦闘機にしてはタイヤではなくソリみたいな棒状の足で自重を支えており、これでは滑走不可能どころか移動すら困難を伴う。というかそもそもプロペラの位置、どう考えても戦闘機ではない。とりあえず”西洋では垂直に浮き上がる飛行機が研究されてるらしい”という噂だけを頼りに海底から引き上げられた直後こそ人員が割り当てられ修理が行われていたが、あまりにも複雑な内部構造、動いたとしても使用方法がまったく不明な装備と操縦席回り、そして担当部署の偉いさんが放った一言”ガトリングなんて今更時代遅れすぎるだろJK”により、現在はもうちょっと頑張れば稼働させられるような状態で放置プレイを楽しんでいる筈である。


「みたいな感じだと思うけど」


「はい、もう十分です」


 その説明を聞いたアリシアは満足した、資料を片付け、地図のうちそれが保管されている場所へ鉛筆で丸をつけて、日依に見せる。


「この場所の占領を任務内容に追加してください、それさえクリアできれば脱出可能です」

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