5-1
やるだけやって理解したのは、人が思いのままに命を操り、作り出すなど不可能だって事である。だから私にとってあなたは諦めきれない理想の置き場所、いわばゴミ箱、なんて言ったらあなたは怒るだろうか。
あなたは人じゃない、人に紛れて生活できるだけの機能と、本来の存在意義を忘れられる仕掛けは付けた、でもそれでも、可能な限り人に似せて作られた別の何かでしかない。いつか感情というものを持ってしまった時、その事があなたを苦しめるかもしれないけれど、それでもその道程に、心から送らせて欲しい。
光あれと。
「よーしお前らちょっと記憶を遡れ、だいたい3-3くらいまでだ」
「3-3って何……」
「最初から数えてもう半月以上鳳天大樹に入り浸ってるが、そもそもお前ら、私を仲間にして何をさせるつもりだった?」
南側にあったとか、数万人が密集する狩場があるのにわざわざ数人しかいないボロ宿を襲う意味が無いとか色々あったが、屋根の瓦が半分くらい吹っ飛んでった以外に被害を受けなかった朱雀亭のいつもの部屋で日依は言う。右隣にスズが座り座卓を挟んで反対側にアリシア、その隣に雪音。座卓の上には人数分の湯のみと、あと中央に紙っぺらがあるが、それはひとまず置いといて。
戦艦と飛行船どっちに乗るかでぎゃあぎゃあやった後結局乗ったゴールデンハインドのゴンドラで話した事を思い出す、九尾だとかドラゴンライダーだとか色々言ったが、今重要なのは1点。
神祇伯は階級としては低いが影響力だけなら大臣並み。
「……大内裏に入り込んで暴れ回ったあと討ち死にして欲しかった?」
「てめえ……」
いくら設定値を2ケタくらい間違えたようなチート人間でもそんな事をしたら生きて帰っては来れないだろう、それができるのはスティーブン・セガールくらいのもんだ。口だけで笑う日依にウソウソとか言いながらもう一度、この事実上の義妹に何をさせたかったか思い出す。
要するに情報戦、ロビー活動である。いくら皇天大樹が恐怖政治を敷いているといえどそれを保持する基盤は腐敗っつーか崩れかけのジェンガみたいな独裁政権なのだ、金儲けの事しか考えてない奴はハシゴを外してやれば簡単になびくだろうし、恐怖の象徴たる海軍でさえ元帥を懐柔してしまえば無力化どころか味方にできる。それがわかっているからこそ日依は今まで何も聞かなかったし、既に下準備は済ませていたのだろう、影響力が落ちるのを承知で現職を辞め自由に動き回れる身になろうとしていた。今回どうしてそんなわかりきってるだろう点を確認してきたのかというと、神祇伯を辞めたは辞めたのだが予定と違う辞め方になってしまったというか。
「となるとコレなんだが」
手を伸ばし、紙っぺらを指で叩く。
皇天大樹から送られてきた、日依に対する辞令のようなもんである。数枚のA5用紙に長ったらしい文章が羅列されているが、簡単にまとめると連中が言いたいのは2点。
現神祇伯、両神日依を解職とし政治に関わる一切の権利を剥奪する。
後任はこちらの人間を送る。
「すまんな、役に立てそうにない」
これによって日依の職業はニートに早変わりした、大内裏に入る事自体を禁じられ、ロビー活動をしたくともロビーに辿り着けない。このたかが数枚の紙っぺらによって政治的価値は失われてしまったのだ。
「まぁ向こうとしちゃ当然の対応でしょ、思えば最初からグダってたし」
「あんなしょうもないの1人の為に台無しになったのは悔やんでも悔いきれないが、過ぎた事を気にしても仕方ない。この話はもう終わりにしてもっと現実的な話をしよう、どうやって大内裏を乗っ取るか」
で、各々唸り始めた。
まず一番簡単なのはスズが名乗り出る事である、そりゃもうあっという間に全員味方になる、うん万人の死人も生まれるが。その死人が許容できないからこの手段は封印されているのであり、その為に日依に会いに来たのだ。じゃあ次、と言われても、民間人だったら小学校低学年の頃に家出をかましたスズが人脈なんて大層なものを持っている筈もなし。
いや、思い当たる節はあるのだが、両名ともそこに触れるのを避けているというか。
「スズのお父上は」
触れちゃった。
「ここまでの情報だと、真の黒幕は母上で、皇太子を傀儡に政権を乗っ取っており、今上天皇である父上は行方不明なのですよね。単純に考えるなら政権を乗っ取られたので逃げて隠れているとなるのですが、もし見つけられれば………………」
そこまで話して、異変に気付きアリシアは止まる。
実の娘と義理の娘、揃いも揃って座布団に座ったまま、座卓に肘をつき、俯きながら頭を抱えてしまっているのである。
「かつてあたしは奴をこう表現した…下半身の欲求を満たすために人生の半分捧げてると……」
「半分…ですか…?」
「ちゃんと理由はある、あたしの祖母の家系に問題があって……」
「姫様、姫様?」
「うんわかってる、できちゃった婚って点は今どうでもいいんだ」
皇位継承前は遊び倒してたとか、そこで既成事実がどうとか察してしまったのだろう、話に割り込んできたので先手を打ち、まじかぁ、みたいな顔を雪音にさせつつ、つまりとスズは続ける。
つまり
「奴はただのバカだ……」
「…そう、ですか……」
娘にバカと言い切られる父とはどんな人間なのだろう、見てみたい気もする。その簡潔な説明を終えてから、続いて日依が顔を上げ、とにかく、と一言。
「他に手がないのも確かではある、無職に成り下がった私でも幸い隠れ家くらいの提供はできる。まったく準備ができてないのは承知だが、じっとしてても包囲網が迫ってくるのみなら、じっとしてる理由はない」
紙っぺらを握り、部屋の隅のゴミ箱へ投げ。
「行ってみるか」




