4-24
「いよっとぉ!」
まず右に傾く横転を行い、同時に機首上げすると日依の乗る飛竜は右上へ上昇しようとするが、横転を継続すると天地が反転しやがて降下に転じる。真下を向いた瞬間に緑の着物を着た狐が後ろから追い抜くように現れ、それに向かって左手を伸ばすと右手で掴んできた。引き寄せて、アルビレオの背中に乗せ、上昇中横転を再開し1回転して水平飛行に戻った。
「説得はしたんだけどな、わかっててやってる奴ってのは御し難いもんだ」
「涼しい顔して言ってる場合じゃないでしょ!早く戻って!」
「そう焦るな、こうなっちまえばもう人狩りはできん。そもそも全部ワイルドハントと戦うためにやってた事だろ?戦闘が始まった今、円花ちゃんの優先度はぐっっっと下がる」
しがみつくスズを乗せたまま円花のいる枝から離れる形で主幹へ向かう。両翼を羽ばたかせて飛行するアルビレオの背中から馬乗りの状態で両手を離し、接着剤で貼り付けたかの如くブーツの側面と膝だけで体を支える日依は右手に錫杖を持ち、スズの右手を握っていた左手は離して鱗に覆われた首を叩き出した。主幹の表面をなぞる緩やかな左旋回で一度ワイルドハントの範囲内から脱し大樹の反対側へ。
「だからって…!」
「頼光公とタイマン張ったらあの子負けるぞ、止める以前に死んだら元も子もないだろうさ。だったらザコに気を取られてる間に先回りして安全を確保”してやる”べきだ。気持ちはわかるが、ここは堪えろ」
スズの舌打ちを聞きながら日依は尻尾を分離、周囲に展開させる。
ちょうど反対側に回った後、主幹の半分までを内部へ飲み込んだ雲の壁と対面した。上昇しつつ突入すると、突如として目に映ったのは鳳天大樹軍の一大銃撃戦である。互いを援護し合えるよう等間隔かつ互い違いに配された機関銃が絶え間なく火を吹いて空飛ぶ武士と足軽を蹴散らしており、おそらく弾切れを起こすか銃が故障するまでは安泰だろう防御陣地の直上を飛び抜け。
「時間制限もある、あいつらがへばる前にカタをつけないとな」
そこから少し離れただけでこちらにも兵隊達は向かってきた。空を飛んでいるとはいえアルビレオは非常に遅い、固定翼航空機なら失速している。兵隊達はそれより遅いが、前から横からわらわらやってくるそれらを捉えた途端に9本の刃が散開を始め、その日依の背後で金属音2回、太刀を鞘に収める音と、ハンドガンのスライドを引く音が鳴った。次いで消えていた玉が復活、アルビレオに先行して接近する敵を削減し出す。
「既に北端の観測隊が赤い鎧を確認してる、お前はそこに行って頼光公を撃破してくれ。私はこのまま台風の中心部を調べに行く」
「なんでさ」
「なんとなくだが、頼光公だけじゃコレは止まらない気がする。別の何かが隠れてる気配がするっていうのかね」
光弾を受けた兵は消し飛び、弾幕を切り抜けた者は刃に切り刻まれた。それでも空を埋め尽くすほどの数だ、僅かながら残った奴はアルビレオまで到達してそれぞれ武器を振りかざす。前から突っ込んできた刀持ちは相対速度そのまま単純に錫杖でぶん殴られ、左から襲ってきた薙刀は45口径弾に頭を撃ち抜かれた。
「もしかしたら雪音ちゃんの言ってた竜っての、虚言じゃないのかもしれない」
「……オーケー、こっちはなんとかする」
雑魚を蹴散らしながら真北の枝へ到着、そこで明らかに雰囲気の違う個体と相対した。
濃い緑の鎧を着た刀と、笠をかぶり弓を構える灰色の着物。便宜的に渡辺綱、卜部季武と名付けられた武将は接近してくる飛竜を見つけるや綱が前進、季武はその場で長大な和弓の弦を引く。
「今のお前にはちと厳しい相手かもしれんが……いよっとぃ!それは頭使ってどうにかしろ、全部隊に爆薬持たせてるから火力が足りないなら頼れ」
綱の脇を通り過ぎ、気合いを入れて矢を避け、勢いそのままアルビレオは枝の上に急接近した。着陸直前のように減速し。
「お前が死んだらすべてご破算、ではあるが、まぁ自分の人生だ、好きに使え。よし勝ってこい!」
「当然!!」
接触寸前の高度、日依が左を指差した瞬間にスズはアルビレオの背中から飛び降りた。それを見届けず再加速、上昇し台風中心部へ首を向けると、偶然ながら2射目を番える季武と鉢合わせする。3メートルの体長に見合う巨大な弓は既に日依へと照準されていたが、不敵に笑い、最高速度で突進。
「邪魔ぁぁ!!」
すれ違いざまに錫杖を叩きつけた。
鐘というよりドラみたいな音が鳴り、普通曲がらない方向に季武さんの腰が曲がる。弾丸の如く右前方へ飛んでいって、民家の屋根に突入、そこで霧散し果てた。
雑魚に用は無い、本当に竜がいるなら接近すら許せないのだから。




