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世界大樹と狐の唄  作者: 春ノ嶺
竜と刀と仇と狩りと
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4-14

「24人です」


 昨日より幾分か顔色の良い香菜子が言う。家にも帰れず働き詰めなのだろうが、ちゃんと休息を取り、身なりを整えるくらいの余裕は生まれたようだ。シワの無い緋袴を着て、ベージュの三つ編みも綺麗に編まれている。


「目撃者複数、ある程度の食い違いはありますが、刀を持った黒髪の女性、服装は白いシャツとジーンズパンツで一致しています」


 飛行場の手前、繁華街の裏路地でその惨劇は行われた。今でこそ被害者全員、ボディバッグに包まれて整列しているが、当初は斬り刻まれた死体とはねられた首、腕、足が散乱していて、そこら中に飛び散った血痕は今も残っている。今までの被害者とは違い、焼かれず斬られたそのままで放置されていた、おそらく凶器の跡を隠す為に焼いていたのだろう、隠す必要が無くなったから焼かなくなった。

 彼らは一帯に住む不良グループ、ヤクザでもマフィアでもギャングでもはたまた他の犯罪組織でもなくただの不良だ、確かに万引きやらひったくりやらを繰り返すれっきとした犯罪者であり、昨夜も若い女性を捕まえて色々お楽しみしようと考えていたようである。結果的に助けられたその女性の証言によれば、いきなりリーダー格の首が飛んだかと思えば、彼らが唖然としているうちに片端から斬り伏せられ、何人かは反撃を試みたものの結局何もできず四肢を絶たれたという。彼らを殺した女性は何も言わず、1人残らず息絶えたと見るや背を向けて去っていった、とのこと。


「えっと……容疑者の方、円花さんの行方はわかっておらず、今も捜索を続けてはいますが、見つけたところで拘束できる見込みもありません。明日には伯様がこちらに戻るそうですので……」


 詰まる所、推測はすべて当たっていたのだ。

 彼女の目的はワイルドハント、その一団のうち親の仇に当たる個体の打倒、それが誰なのかは恐らく判明していないが、丸ごと消滅させれは諸共倒せると考えているのだろう。で、その為の切り札としているのがあの大太刀。

 人の血を吸う事で発動する呪いが込められていると彼女は考えている、刀工である彼女の父の作であり、その生涯は刀に呪いを付与するに値する悲劇を有するものだ。直に見た限りでは大太刀は沈黙を保っており、呪いを発した痕跡は見受けられなかった、まだ一度も目覚めた事が無いのだろう。

 であれば、あれはきっと。


「スズ」


「え…?」


 不意に、両肩に白い手が添えられた。


「な、何?」


 壁に付いた血痕を見ながらずっと考えていた為か、現実に引き戻されたような感覚がする。正面に立つアリシアに目の焦点を合わせると肩の両手は離れ、腕を下ろしながら1歩引く。


「あの時と同じ顔をしています」


 あの時とはどれの事だとまず思ったが、この場面は確かに覚えがあった。海坊主と戦う直前、こうして彼女が前に立って。


「どうすればいいかわからないのですか?」


「うん、まぁ……」


 理由がどうあれ、今の円花は悪に該当する。自らの為に人の命を奪い続け、この数日だけで27人、ここに来る前にも恐らく相当数。通常ならば極刑、通常じゃなくても絶対に許されない行為である。


「そうですね、報復行為に対する道徳的議論は前時代からずっと行われていますが、明確な結論が出た事はありません。思想の問題である以上、個人で決めるしかないものです」


「でも関係ない人を巻き込むのは……」


「それは確定的に間違いですが、今重要なのは彼女自身がそれを納得しているかどうかでしょう」


 言われて、まず思い浮かぶのは、手すりにすがりつくあの姿。


「香菜子、遺体の状態は検証済みですか?」


「いえ、死因は明確なので何も」


「では少し見せて頂きます」


 アリシアはスズの正面から離れ、整列する24個のボディバッグへ向かう。胸をひと突きから細切れまである中、彼女は腹部で両断された遺体の横で膝をついた。

 徹底的に燃やされた人型の炭で顔をしかめていたのがバカらしくなるほど生々しい、血染めで、中身の飛び出た遺体に、一目見ただけでスズは目を逸らす。生理的な嫌悪感により気分が悪くなった、のは間違いないのだが。


 それ以外にも色々、思い出してしまうというか。


「侵入速度と脱出速度に明らかな違いが見られます」


「え、ど、どうやって判断……」


「それはどうでもいいのです」


 ファスナーを閉めて、もうひとつ、違う遺体を確かめる。

 よくわからないが、刃が体に入った時と、斬り終えて出ていった時では加えられていた力が違うらしい。切断面を見ただけでは、我々人間には違いなんてわからないが。


「勢いよく斬りつけて、肌に触れた瞬間に痙攣した形跡、斬り進めるごとに失速して、最後は止まりかけたので、そこでまた力を加えて強引に引きちぎっています」


「あー、要するに?」


「彼女は納得していない可能性があります」


 2人目でも同じ結論に達したアリシアは立ち上がり、スズの元へ戻ってくる。

 あれだけ考え悩んでいたものを、彼女はあっという間にそう判断した。


「悲しんでいるのなら、多少無理にでも止めてあげるべきだと思いますが」


「そうかな……」


「私とて差し引き20年間、止める意思も止めてくれる相手もいないまま悲しみ続けていました、まぁそれが悲しみだとすら気付いていませんでしたが。似たような境遇者として言ってもいいのなら、たとえ組み伏せてでも」


「それはまぁ……悲しみ…感情か……」


 結局、円花自身の考え次第で対応、極端には討つか救うかが変わってくる。もしこれが単なる愉快犯なら、対応についてこんな苦悩などしないのだが、加害者の感情、それだけで非常に複雑な話になってしまう。

 感情、といえば、2日前に何か日依が。


「感情……」

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