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世界大樹と狐の唄  作者: 春ノ嶺
竜と刀と仇と狩りと
55/293

4-11

「金の装飾が施された甲冑が確認されたそうです」


「うん、ちょっと待ってね」


 ゴールデンハインドの偵察結果を報告しようとするアリシアに両手のひらを見せるジェスチャーをしてからスズは素早く立ち上がり部屋から出て廊下を通り厨房に飛び込む。

 そこには昨日と同じく小毬がいた、鍋はふたつ、お湯と油である。その横で極めて迅速に海老を衣液まみれにしつつ、さらに横で待機するレンコンとマイタケ、流し台にはザルとボールに入った氷水が準備済み。背後のテーブルには食器と小さいザルと、先程まで冷蔵庫で冷やされていたであろうペットボトルに入っためんつゆ。

 沸騰するお湯では太麺が踊っていた。


「3日連続うどんとか何考えてんだ!!」


「冷やしざるうどん天ぷら付きデス」


「聞いてねぇぇぇぇぇよ!!」


「ちょっと今は……死ぬ!麺が死ぬから!」


「死ぬってなんだ!!収穫されて粉微塵になった時点で小麦さんは死んでんだよ!!」


 ぽいぽいと海老2尾を油に投入、香ばしい音をBGMに大鍋を持ち上げ中身をザルにぶちまけた。氷水の中で一心不乱に麺をシメ出したのを見てから溜息をつき、もはや手遅れと部屋まで戻る。アリシアは無言で待っていた、自分には関係無いとばかりに。


「よろしいでしょうか」


「うん……」


「ではまずあちらを向いて一礼してください」


「うん…?」


 あっちと指差された方向、たぶん西に体を向けて言われるがまま一礼、わっけわからないが感謝しろという事らしいので拍手もおまけしておく。それが終わってから座布団に座り直し偵察結果報告に戻った。


「台風は直径80km、高さ9.5km、中心部に直径5kmの目を持ちます。なお観測を行った際、ゴールデンハインドは全備状態で最大高度30000フィート(9120m)、爆弾全投棄、偵察機離船状態で45000フィート(13680m)を記録しました」


「数字がでかすぎてよくわかんないわ、んで甲冑ってのは?」


「上空を通過中に双眼鏡で観測しただけですので詳細は不明ながら、他にも人型の動体がいくつか確認された中でそれが最も異彩を放っていたそうです、異彩というのが私には理解できませんが」


「うーん、普通の人間が視覚で捉えられるくらい力を放出してるって説明すればいいのかな。大霧さんにその手の才能があった可能性もあるけど」


「おそらくないでしょう」


「ふははひっでえ……」


「甲冑は赤をベースとしていますが非常にカラフルです、所々に黒が見え、全体に覆い被せるように金の装飾、兜には大きな鍬形くわがた、これも金です。甲冑の下には青い模様の着物が見えたそうですが、距離がありましたので顔までは」


「そいつはどこにいたの?」


「中心部の最も高い場所に」


 ならそれが狩猟団の頭領なのだろう、東洋製のワイルドハントなんて聞いたことも無いので確証ではないが。そもそも本家のワイルドハントは台風を纏ったりしない、風のように駆け抜けるのみだ。

 団体の形態を取っている以上、頭を潰せば瓦解するのは保証できるが。


 と


「源氏の匂いがシマス……」


 しかめた顔をしながら部屋に小毬が入ってきた。


「ああうん…君は平氏所属だもんね……」


「今さらどうこうって話じゃないデスけどぉ、宝のひとつでも海に投げ込みたくなりマスよぉ」


「うん、ひとつじゃなくてみっつだし、その宝物ってうちのだし」


 ざるうどん、海老とレンコンとマイタケの天ぷら、めんつゆ、塩がまとめてお盆に乗せられてスズの前に置かれた。味は文句無いのだ、金取れるくらいの出来である。バリエーションが無いのか気が狂ってるのか知らないがただうどん以外作ろうとしないだけで。


「……あの剣ってまだ沈んでるの?」


「さあ?そのままなんじゃないデスか?」


 同じものをもうひとつ持ってきてから小毬も座り、間もなく冷たいうどんをずるずるし始めた。いい加減食べ飽きたがまぁいい、この手の責め苦はアリシアの薄味病院食で慣らされている。


「源氏について教えて頂けますか?」


「あたしのご先祖様が廃墟暮らししてた頃に戦争したり幕府開いたりしてた一族」


「廃墟……」


「小毬が嫌ってるのは鎌倉幕府成立前後の人達かな、頼朝とか義経とか」


「特に義経」


「特に義経了解でーす」


 彼らの名が教科書に登場するのは治承・寿永の乱、いわゆる源平合戦と呼ばれる内乱である。ちょっと権力欲しさに火着けたら日本全域に燃え広がっちゃったって話であり、平氏のクーデターに始まって、3歳児が天皇即位したり他の皇族がブチ切れたり2人目の天皇が即位したりした結果、武士道精神全盛の時代に奇襲するわ非戦闘員を狙い撃つわとやりたい放題やらかした牛若丸こと源義経の活躍により小毬の先祖が味方していた平氏側は滅亡、天皇を蚊帳の外に置いた武家中心の政治、さらには数百年後に始まる戦国時代の基盤を敷く事になった。彼らの栄華はそう長くは続かなかったが、都暮らしの貴族から政権をぶんどったという点において歴史上欠かせないターニングポイントである。ちなみに衰退の原因を作ったのはフビライ・ハンとかいう完全な部外者だったりする。


 しかし、この手の話において重要となるのは彼らではなく。


「鬼殺しって呼ばれた人がいマシてね」


「あの人なの?」


「や、あの、鬼と甲冑で連想しただけで……」


「……狸め…」


「狸関係ないデショ!」

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