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世界大樹と狐の唄  作者: 春ノ嶺
狸と鴉の鎮魂歌
36/293

3-12

「もう嫌だ…コイツと一緒にいると命がいくつあっても足りない……」


「今のところ1個で足りてるじゃん」


「減らず口を……」


 鈍く、大きな音を立てて主幹にある枝のひとつに着地した。その途端にスズは転げ落ちるように背中から降り、へたり込みながら自分が乗ってきたそれを見上げる。


「ひどい言われようだなー?」


 頭から地面まで3メートル、尻尾の先までだと8メートル、全身が暗緑色の鱗に覆われた長い首を持つトカゲのような頭と胴体、それから尻尾。前脚があるべき部分はコウモリに似た膜状の翼となっていて、肩から数えて3つ関節がある腕のうち手首と肘に相当する部分から指のような細長い骨格が後方へ伸びており、合計7本あるそれらの間を黒い飛膜が覆っている。通常飛膜といえば反対側が透けて見えるほど薄いものだが、それは銃弾を跳ね返せるくらいの強度を持っているように見える。鉤爪を持つ後脚で体を支えて、翼腕の手首部分前方にもある爪を地面に突き刺すようにして4足で立っている。

 飛竜ワイバーンと呼ばれるその生物は現在、背中に乗った日依ひよりから首筋を撫でられキュルキュルと鳴いていた。彼女に飼われ始めたのはもう8年も前の事で、当然ながらスズも知っているし、名前もある。


「おーアルビレオ、大っきくなったねー、元から大っきかったけど」


 日依が錫杖を鳴らしながら降りるとアルビレオと呼ばれたワイバーンはスズに顔を寄せてきたので、鎧のような鱗で覆われた頭を撫でる。撫でるといっても生半可な触り方では気付いても貰えないので、さながら鍋の焦げ付きをタワシでこそぎ落とすような。


 これの存在こそ、日依がドラゴンライダーと呼ばれる所以である。


「ていうか、結局今どれくらいの年齢なの?」


「知らんよ、人間より遥かに長く生きるのは確実だが」


 錫杖で肩を叩く、アルビレオは顔を上げそれを咥える。日依が錫杖から手を離すと、僅かな音と共に光り輝く魔法陣が地面に出現し、それに吸い込まれるようにして暗緑色の巨体は錫杖を咥えたまま細かい光に分解され消えた。


「しかしスズ、幅広く術を持つのは良い事だが、いくらなんでもネクロマンシーは趣味が悪いぞ」


 ひらひらと、先程ポーチから抜き取っただろう符を揺らして見せる。死霊魔術というものに使われる魔法陣の描かれたそれを見せられ、説明の必要は無いとばかりにそっぽを向いた。


「まぁ…とにかく話を戻そう」


 符を自分のポケットに入れつつ日依は歩き出し、スズも立ち上がって後に続く。周囲には誰もいない、家屋はいくつかあったがどれも放棄されたように荒れてしまっていて、枝先に向かっていくと狸の住宅地と似たような惨状、黒焦げた燃えかすのみが残る集落跡である。

 付け加えて、そこには大きく抉れた跡があった。何かが爆発したように丸い、直径15メートルほどの穴。


「ここが天狗の住処だった、さして大きくはないが20人はいただろう。狸を粛清するための虐殺から逃げ延び、青年に助けられた小毬こまりはここに匿われた、ここだけが唯一、彼女の味方をしてくれた訳だ」


 味方をしてくれた、といっても現状は見ての通りである。この場所はもう死んでいる、きっと同じように襲撃され、全滅したのだ。


「小さいとはいえ天狗の集落、100人の兵隊で攻め落とすにはリスクが高すぎた。そしたらあいつ何やったと思う?戦艦から砲弾をぶち込みやがった。当時ここには艦隊がいたからな、そのあと旗艦は沈んで、一部はお前の傘下に入ってるが」


「よくやる……」


「まぁ狸と違って反乱を企んでるのは事実だったし、神格を持つ天狗に刃向われたらたまったもんじゃないしな。対応は早かった、狸の粛清から3日後だ」


 右手の親指で抉れた跡を指し示し、左手の人差し指を立て頭の横でくるくる回す。指を開いてぱっとやった所でスズは溜息をついた、この有様が三角関係のもつれた結果だとは。


「それで、その渦中の青年ってのは?死んじゃったの?」


「ん?妙な事を聞くなぁ」


 にやりと日依が笑う、そして上を仰ぎ見る。その先には停止したロープウェイと、床を失い大破したゴンドラ。


「たった今会ってきたばかりだろう」


「……は?」


 会ってきた、というのは。

 あの鴉天狗の事を言っているのか。


「さてここからは過去の話じゃない、具体的に現在進行形で起きている問題について話し合う事になる。お前の連れと合流するぞ、頭数が必要だ」

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