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世界大樹と狐の唄  作者: 春ノ嶺
瑞羽大樹沖海戦
22/293

2-14

 -瑞羽大樹、防衛隊飛行場




『こちら第3水雷戦隊、たった今第2艦隊より離脱した。第6艦隊への合流許可を求む』


『状況は把握しています、南西へ変針なさい。三笠はこのまま直進、間に割り込みます』


『第1水雷戦隊、裏切り者を追跡せよ。第18戦隊、正面へ』


 軍隊の無線通信としては情報保全能力に問題があるとアリシアはまず感じた。

 自分を含め前時代の機械が遺物として残されている以上、それを解析し本来より何十年も早く実用化できるものもある、というのは理解しているが、使用されている兵器から想定するなら、連絡手段はモールス信号や手旗信号で行われていなければならない。音声通信は実用化されていて当然であるものの、その性能は満足のいくものではなく、また暗号化も限定的であった。音声通信の方が手っ取り早いのだが、話している内容がバレるとまずい軍隊がそれを取り入れるのはもっとずっと先になる。それがどうだろう、戦艦から駆逐艦までノイズのほとんど乗らないクリアな音質、にも関わらず暗号化の方は時代相応の陳腐さというアンバランスな性能の無線機が配されている。国家という概念が無いからか、もしくは傍聴の危険性を認識していないのか。

 まぁ要するに、この戦闘区域内においてアリシアの耳から逃れられる者はいない、という事である。


「こちら瑞羽大樹防衛隊、第6艦隊指揮官へ。こちらからの放送は聞こえていますね?」


『こちら第6艦隊、聞こえています。敵の通信がだだ漏れなのはあなたの仕業かしら?』


「はい、こちらの無線傍受機で暗号を解読したのちそちらへ再送信しています、お役立てください。それでお聞きしますが、敵戦艦との速度性能差を消し去る、もしくは停止させる事ができれば撃破は可能でしょうか?」


『それは…十分可能ですけれど……』


「ではそのままお進みください。足は止めてみせます、敵艦へ艦首をまっすぐ向け、急な大波に備えるよう」


 見張り台へ陣取るアリシアは視線を背後へ向ける、まずゴータ爆撃機が発進していった。シュターケンと比べると小さい機体だが、それでも60kg爆弾なら結構な数を積める。

 そのゴータの背後に控えるシュターケンのうち1機に通常爆弾とは違う爆弾が搭載されつつあるのを確認し、それから視線を戻した。


『何をするつもりです?』


「人類史上最強にして最悪とされる兵器のひとつを使用します。本来ならば絶対に使ってはいけないものです、よって限界まで威力を抑えます。付け加え……」


 離反し味方となった軽巡洋艦1、駆逐艦7の部隊が南西へ、追いかけるようにもうひとつの部隊も変針し、両者の間に割り込むように三笠、日進、駆逐艦4。敵戦艦は軽巡2隻を先行させつつ直進を続行している。


「この先クーデターをお考えなら、前弩級艦が超弩級艦を破ったという事実は大きな武器となります。民衆は勝率の高い方に味方するものですから、それが可能だという事を示せるなら。その観点から考えても、この戦闘の主役が我々ではいけない」


 ゴータ爆撃隊は敵水雷戦隊へ、あっという間に上空へ辿り着いた。


「道義的にも政治的にも、トドメを刺すのは貴艦でなければなりません」


 ばらばらと60kg爆弾が投下される。あんな小さい爆弾では撃沈は無理だ、だが大きい爆弾ではそもそも命中が無理だ。追い払えればいいのだから攻撃力を奪うだけで十分である。


『わかりました、三笠はこれより敵旗艦へ突撃します』


「はい、ご健闘を」


 細かい爆発と水柱が連続して発生、軽巡洋艦が炎上し始めた。戦闘続行は可能だろうが、駆逐艦に先頭を譲り、離脱しつつ火を消し出す。

 やはり士気が低い、旗艦さえ撃沈できれば。


「…………」


「蜉蝣」


「あ…ああ…大丈夫だ」


 スズの無線を聞いてからずっと黙りこくっていた蜉蝣が見張り台から降りる、向かう先には爆弾を搭載し終えアイドリングを続ける巨鳥。


「シュターケン出すぞ!滑走路空けろ!」

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