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世界大樹と狐の唄  作者: 春ノ嶺
嘘の社
105/293

6-18

「スズの旦那、つーか許婚いいなずけは8年前に死んでるが、殺したのが悠人だ」


「ちょっと待ってください」


 いきなりである。

 その坑道はやはり入口を塞がれていたが砂を払うと人間1人が通れそうな隙間があり、中に入るや分岐していたので、二手に分かれにゃいかんが腹の傷の心配があるからと理由をつけてスズだけを別の道に行かせたが、別れ終わるや否や日依が本当にいきなり爆弾を叩き落としてきた訳だ。


「あなたの兄ですよね」


「そりゃもういい」


「よくありません」


 傷口を刺激しない程度に早足で歩く日依に追従しつつアリシアは言う、恐竜が出るというのでウッズマンを握りながら。


「いいか?あの騒動があった次の日にスズはここを脱出した、奴とは8年ぶりの再会だ。だが私はその後もずっと留まってたからな、会う機会も話す時間もたっぷりあった、”私の兄が殺された話”についてはもうとっくに決着済みなんだよ。唯一、”スズの許婚が殺された話”だけが8年ずっと宙に浮いてる、だから私の事はちょっと忘れてろ。スズと合流する前にお前にはもうひとつ話をしなきゃならん、あんまり止めてくれるな」


「分けましょう…演算回路が保ちません……」


 オーバーヒートを気にしながらまっすぐ下に伸びる幅2mの通路を狐火2体と共にひたすら降りていく。こちらの坑道はスイッチバックを用いていないらしく、また線路もそのまま残されている。昨日の坑道の隣に位置する以上石炭層の深さも大して変わらないはずだが、このままずっとまっすぐなのだろうか。


「当時の大内裏は腐ってはいなかったが完全世襲制だった、生まれた時から将来の職業が決められてたんだな、平均寿命の件もあるし、義務教育を終える頃には跡を継げるようになってなきゃいかん。ま、神祇伯の家系に関しては私の代で打ち止めだが。それで私らは幼い頃から大内裏によく出入りしていた、自分の仕事を覚える為にな」


「……スズとはそこで?」


「ああ、私は結婚相手の妹として、悠人は護衛見習いとして。だがそこにひとつ、この事態を引き起こした問題がある。悠人が付いていたのは厳密にはスズではなく葛葉ババアでな、奴の命令は絶対に守らにゃならなかった」


 後の説明は不要だな?言いながら日依は狐火を1体前に飛ばす、通路は少し幅が広がり、その奥に何か構造物が見えてきた。


「奴は、スズを政略結婚に差し出して目的を達した後、すべてを白紙に戻そうとした。手っ取り早く、諸共殺してしまうっつーやり方で。するとどうだ、自分の懐がまったく痛まない手駒がそこにあった」


 垂直に移動できる装置、エレベーターである。トロッコが1台乗れるよう線路が付く壁の無いむき出しのゴンドラと吊り下げるワイヤー、動輪に繋がるモーターと制御装置のみという簡素なそれは撤去も破壊もされずにそのまま残されており、電力を供給できれば稼働可能なように見える。実際、2人より前にここに来た人物は修理を試みたようだ、ワイヤーと動輪には錆を取った形跡、いくらか工具が散らばっていて、配電盤もカバーが取り払われている。しかし電源だけはどうにもならず、結局諦めてワイヤーをそのままハシゴ代わりにしたらしい、スズの父は思った以上にワイルドだった。


「いつ機械いじりなんて覚えたんだか。アリシア、まだ使えそうか?」


「安全を確保します、そこの電源コードをほどいておいてください」


 何もしなくても動くだろうが、途中で壊れたらもう目も当てられない。ひとまず雑としか言い様の無い応急結線は強度を上げておきたい、そう思ってアリシアは落ちていたペンチを拾い上げ、ブレーカーを一度落とす。


「良くも悪くも命令に忠実だからな、奴とて兄とは仲が良かったが……まぁなんだ、過程の話はやめよう。最終的に生まれた状況がこれ、第一皇女が家出して、近衛大将の跡継ぎは反政府活動に精を出し、で残された最後の1人は、8年ずっと待ち続けてた」


「……」


「ああ勘違いするなよ、私自身は別になんでも良かった。スズが”その場の雰囲気に流されて”あそこを出てこなければ一生何もしなかっただろうし、腐った世の中とはいえ、変化を望まず、自分を忘れて、ただ静かに暮らして死にたいのなら、それでもいいと思ってる、今もな」


 まずコードや電子部品の劣化は享受するしかない、ゴンドラを上げ下げする以外のすべての部分を分離、明らかにヤバそうなコードは取り外し、分離した場所から無事なものを持ってくる。


「悠人は、そんなどっちつかずな選択ができる性格じゃなかった。何を思って今ああしてるかなんて私が知り得る事じゃないが、スズを避けてるのを見る限り、大それた理由じゃなくて個人的なもんだろう、許して欲しいとか」


「スズは彼の事……」


「見りゃわかる」


「ですよね」


「気まずいのは確かだがあそこまで拒否するのもなぁ、全部終わるまで顔向け出来ないとでも思ってんのか」


 配線を繋ぎ終える、大元の電源コードは…かなりの長さが残っていた。


「あるいは、許して欲しくないのかもしれん」


 ブレーカーを上げ、ゴンドラの戸を開けて、コードの端を握った日依を招き入れる。


「発電してください」


「ふふふふふふ……」


 安定と信頼の直流電源だ、プラス方向に送電すればいい。日依がバチバチやり出した途端にゴンドラは息を吹き返す、牛みたいな速度ながらコードを引き込みつつまっすぐ下へ下へ。


「話ががらりと変わって次、そもそも天皇という存在について。これを説明するためには先に神様というもんを説明しなきゃならん」


 妙な振動がある以外、ゴンドラの動きは安定している。それを見て安心したのかふたつめの話が始まった。


「前時代において、お前にゃ言う必要もなかろうが、神様なんてものはただの偶像、人々の心を支えて規範を作り出す為の”実在しない架空の存在”でしかなかった。生物を生み出したのはヤハウェでもアッラーでもないし、こねた粘土で人を作った訳でもない。水中で偶然組み合わさったアミノ酸が勝手に進化を始めた、それが始まり。神様見た事無いだろ?マジで居ないんだからな。だがそんな実在しないものを健気に信じ続けた結果、この世界において神は実在してしまっている」


「というと?」


「偶像崇拝という言葉がある、存在しないものを信じるという意味だ。キリスト教徒が他教を否定するために多用した言葉だが、それはともかく、その存在しないものが存在して欲しいという感情、何十万年と積み重なり続けたこれが、かつてのアミノ酸のように意思を持ってしまった。神が人を創ったんじゃない、人が神を欲したのさ」


 ごとんごとんとゴンドラは進み、やがて終点へ到着した。停止と同時に狐火が散開、空間を照らし上げる。


「詳しい理屈は誰にもわからんがな、人々の信じる神のイメージを元にして、人々の感情、信仰心で神は象られている。頼光公のワイルドハントが襲って来た時言ったな、どんな卑怯な奴だろうと人々が英雄と信じる限りそいつは英雄、人に危害を加える筈が無いと。基本的に連中は人のイメージ通りの姿で具現化される、人の力でそこに居るんだからな、予想外の動作は絶対にしない」


 石炭の積み込みをする為に少しばかり広くなっていて、その先には変わらず通路が伸びていた。が、普通坑道にはありえない、違和感たっぷりのものが目に入る。

 通路の真ん中に布団が敷かれているのだ。


「……」


「…………」


「…………あいつどこ行った?」


「奥ではないのですか?」


「奥……あ、駄目だ、崩落してる」


 そういえば恐竜も一向に出てこない、しゃがんで布団を観察した後、通路に向かって狐火を飛ばすも、10m先で瓦礫によって閉ざされていた。

 となると、入れ違いのようだ。


「スズを行かせた方が当たりだったのかもしれんな、だったら今頃は感動の再会(物理)でもしてるだろうが…寝床がこっちにあるのに向こうに居るってのも考えにくい」


 布団の他にはアルミ鍋、クッキングストーブ、サバイバルナイフ、水を入れる水筒と酒を入れるスキットル1個ずつが右側に並び、枕元に世界一有名なオイルライター、及びLuckyStrikeと書かれた緑色のタバコパッケージが投げられている。それ以外には大量の缶詰だ、軍用の牛肉大和煮から西洋民生品のポーク&ビーンズ、果ては調理済みパスタ缶などというどっかの国が苦笑いしそうなものまで実に節操が無い。


「結局、どのような人物なのですか?」


「そうそう、話を戻して天皇家、アホオヤジとスズの血筋について。口で説明するのがクソめんどくさいから図で表してみるとだな」


挿絵(By みてみん)


 言いながら日依は壁面に風を叩きつけて文字を刻もうとしたが、この狭い空間では岩を削り取るだけの空気移動を起こせなかったらしく、埃を巻き上げて終わった風に眉を寄せ、足元のサバイバルナイフを拾って地道に刻む。

 まず一番上に日本神話の最高神アマテラスの名を書き、そこから下へニニギ、神武じんむ天皇、鳥羽とば天皇、嘉明よしあきと並べる。その直線は嘉明の少し手前で横に分かれ、上に戻ってオオクニヌシ、スサノオと羅列した。更に鳥羽天皇からも枝分かれさせて、玉藻の前との間に日依、兄と示す。そして嘉明の横に書かれた葛葉であるが、遡れば著名な陰陽師、安倍晴明あべのせいめい、ひいては彼の母の葛の葉狐くずのはぎつねの子孫であるらしい。名前は同じなのになぁ、ぽつりと日依が呟いた。


「何百代続いてるかわかったもんじゃないから要点だけ話すぞ、天皇家は世界で唯一現代まで途切れず続いている”神の子孫を自称する家系”だ。昔は他にもたくさんあったが、すべてどこかで途切れるか普通の人間に戻ってる。この戻ってるってのは要するに、神の子孫として振る舞う力を失ったという事。そんで、さっき言った通り神様ってのは”人の想いの集合体”であるから、個々の神の力は信者の数と完全に比例する、有名な神なら信者はもとより名前を知っている者も相当いるから、それだけたくさんの信仰心が集まってくるんだ。逆にマイナーな神は知名度が無いぶん人々から力を集める事ができない」


 最後、嘉明と葛葉の間にスズと記述。ついでにスズと兄を線で繋げて、下に?と書いた。


「つまり半神半人の天皇家はこの”信仰心を糧に力を高めるシステム”を自身に適用する事ができる、できるというか、そうなってしまっている。よって勉強こそするが、スズが特訓や修行みたいな肉体的努力をした事は一度たりともない、意味が無いからだ」


 このシステムに束縛されている限り、彼らにとっての修行とは自分の信者、従者を集める作業そのものとなる。だから歴代天皇は必死になって東洋を統一しようとしたし、他の神、例えばキリスト教グループなども世界中で布教活動に精を出した。という解釈になる。

 しかしそうなると、家出して公の場から姿を消し、今も意図的に存在を隠し続けるスズの力量は現在最低値という事に。

 最低状態であれなのか?


「以上が、奴と接触するに当たって知っておくべき知識だ。ここから先は蛇足となるが、天皇家は基本的にアマテラスから始まる天津神あまつかみの系統だ。アホオヤジの母はそれとは別、普通の人間ながらスサノオの息子であるオオクニヌシの国津神くにつかみ系統とかつて関連のあった出でな、神道における二大系統両方の血を引いてる。まぁこのオオクニヌシとかいうあっちこっちに女を作って産めや増やせや180人も子供を設けた末に子宝の神として祭り上げられたやつの遺伝子こそアホオヤジをアホオヤジたらしめる要因でもある。スズも、男として生まれてたら危ない所だったが、幸か不幸かあいつは母親似だ」


 で、と言って、家系図の終点にいるスズをナイフで指し示し。


「恐ろしいことにスズは人類最強の陰陽師安倍晴明の血まで引いちまってる、更に狐最強である九尾の血まで合わさっていたらどういう事になったのか、兄が死んだ以上もはや手遅れながら見てみたかった気もする」


「まだあなたが生きています」


「バカ言うな、女と女じゃどうしようもなかろう」


「最先端科学を甘く見ないでください」


「………………えっ?」


 いやいやそれはなんか、いやほらさなんか駄目だろ常識的に考えて、みたいな感じに薄ら笑い浮かべて固まった日依の手からナイフがからんと落ちた頃

 通路全体が僅かに振動した。


「…………」


「ん…どうした?」


 震源は真上、本当に少しだけで日依はまったく気づかなかったが、この地下深くにある空間を僅かなりとも揺らしたという事は地表で何かとんでもない衝撃が発生した筈だ。

 天皇陛下と何か関係があるかは不明だが、少なくとも上には小毬が残っている。


「戻りましょう、上はおそらく戦闘中です」

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