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「アンタあの喋り方……」
「仕方ない、咄嗟に思いついたのはあれだけだった」
「いやその…うん…お久しぶりです……」
「やめろ、やめてくれ……」
適当な路地裏にスズは拾得物を放り投げる、背後には人の往来を監視するアリシア、前方には奥が行き止まりである事を確かめ戻ってきた小毬。
「それでその蛇は」
「ウワバミ」
全長1m、白と緑のまだら模様、蟒蛇といえば長さを測り切る事すら出来ないような巨大なヘビだといくつかの伝説で伝えられているが、捕獲したのはサイズ的には大きくも小さくもないただのヘビだった。これから途方も無い時間をかけて大蛇へと成長するのだ、その頃には相応の貫禄を付けているだろう、そう信じたい。
「ほれ喋れるようになれ、蹴るぞ」
前後を日依とスズに挟まれて逃げる事もできずうねうねしていたウワバミは直近に落ちてきたサンダルにビクついて動きを止めた。その後すぐにドロンと煙を上げ先程と同じ、いやちょっと顔の形が変わっているが大男へと姿を変えた。
「おい!さっきと性格違うじゃないか!」
「そこはもうどうでもいいんだよ!!忘れろ!!今すぐ!!」
で結局蹴る。
「重要なのは飯代だお前、あんな鉱夫に栄養を与えるためだけに存在するような食堂で2万に届いたんだぞ、暗い洞窟で岩拾って稼いでる連中が2万円稼ぐのにどれだけ苦労すると思ってんだ」
「おお、ごちそうさん」
「焼酎に浸かりたいようだな……」
「待った待った絶対不味いって!」
これはまずい、せっかく捕まえたのに酒作って終わりそうだ、キレる寸前とばかりに一瞬放電してしまった日依をスズが一旦離してなだめ出す。間に逃げようとでも思ったのかそろりと背を向けるウワバミさん、四つん這いのまま足を動かした直後に耳を掠めるコースで背後から照射されたレーザーが地面に命中、じゅん!と音を立てたところで固まった。乾いた笑いを漏らし、逃走を諦めて腰を降ろす。するとそこで小毬が目に入ったようだ、1歩間を置いた距離でやりとりを見ていた彼女の頭に丸くて小さい狸の耳が付いているのを認めるや否や、またすぐ腰を上げで勢いよく立ち上がり。
「たぬき!よく顔を見せられたもんだな!お前に騙されたのは忘れてないぞ!」
「”たのきゅう”の事言ってるんデスか?、あれはそっちが勝手に勘違いしただけだしそもそも狸は関係ナイ……」
「この!さっさと元に戻りやがれ!相変わらず女装の上手い…!」
「女装じゃねぇーよ!!腹かっさばいて串刺しにして蒲焼きにすんぞクソボケヘビ野郎!!」
「小毬、小毬!口調!!」
日依が落ち着いたのと入れ替わりで今後は小毬を引き離すスズ。ウワバミの方もなんか興奮していたが、そっちはまず腰のあたりが甚平ごとじゅっ!と焼かれて激しく痙攣、続けてその火傷した部分に日依がトゥキックかますと叫びながらのたうちまわる。
「痛めつけて楽しもうってつもりじゃない、ちょっとやって欲しい事があんだ」
「言ってる事とやってる事が違うぅ…!!」
うつ伏せで腰を押さえつつウワバミは泣きそうな声、やり方に問題はあったがひとまず落ち着いてくれた。なお威力最低とはいえきっちり命中させたアリシアの意図は不明、無言のまま周囲の監視に戻っている。もしかしたらあまりの駄目ヘビぶりにイラっときてるのかもしれない。
「陰陽師のカッコして南の防風林まで行ってくれ。わかるか?藍色の装飾が付いた白の狩衣装束、体はできるだけ細く、身長は今より頭ひとつ低くな。林の中に壊れた車があるから、それにタッチして大声で10数えたらそれで終わりだ」
「そんな事して何になんだよぉ…それやって何の得があんだよぉ……」
「飯代払ってやったってのにこの野郎……」
およそ感謝するという気配を見せないウワバミにまた日依がヤバくなってきたが、とにかく嘘でもなんでもいいから納得させて兵隊の待ち構える例の地点へ向かわせなければ。一度背を向けて頭を振り、そうしたらアリシアがまたレーザー構えてるのを見つけてしまったので苦笑いしながらやめさせる。
「理由は行けばわかる、行って帰ってくるだけなんだから大した苦労じゃないだろ。褒美はそうだな…………んー、そこの姉ちゃんがほっぺにチューしてくれるってさ」
「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!?」
いきなり指差されたスズ絶叫、腕に力が入ったらしく両肩掴まれていた小毬も続く。ウワバミの反応はどうかというと、少なくとも泣くのは止まった。
「なにバッ…バカなの!?そんなの自分で…!!」
「私じゃもう駄目だろ、まいいから、どうせアレがああなってお開きだって」
「ぐ…!」
ウワバミはうつ伏せのまま動かない、全力で拒否するスズに近付いた日依がそう耳打ちし、唸ってからやや歯軋り。
そう、どう転んだところで実現する事は無い。
「……ちゃんとやるんだったらしてもいい…」
「5分で戻る」
とんでもなく素早かった、立ち上がると同時に大男は細身の陰陽師へと姿を変え、やっぱり作画崩壊してるし声も変わらなかったが遠目で騙すくらいはできるだろう格好で右手の人差し指と中指を伸ばして上に向けるポーズ、最後ににやりと笑ってからウワバミは南へと一目散に走っていった。
「行きましたね」
「行ったな」
それを見届けてからアリシアと日依は目配せ。囮は行った、ならば後やるべき事はひとつだけ。
どうせあんなのでは2分も稼げないだろうし。
「走れぇぇ!!」




